昨日の記事の続きで「二平方定理」について調べている中で,興味深い定理を発見しました。
今日は
についてのお話をご紹介します。
前回までのおさらいと今回の目標
簡単におさらいすると,昨日の記事では,
ことを示し,その前の記事では,
ことを示しました。
一般に,
の形で表される式のことを「二次形式」といいます。これまでの2つの記事では「特殊な二次形式」で表される素数 の特徴について考えていたのでした。
この二次形式について, のとき,つまり
では,果たしてどうなるでしょうか,というのが今日のテーマです。
ちなみに,この形で表される素数 は, 以下では次の 個です。
最初の方だけ確認してみると,
となって,たしかに の形で表せていることがわかります。
(昨日までの話と)同様に考えるのであれば,この素数 が の形で書けるかどうか,考えたくなりますね。しかしこれらの素数は,このような形で表すことが出来ないことが知られているそうです。
かといって,まったく法則がないかといえば,そうではありません。
その法則が実に面白いのです!!
保型形式と二次体
まず唐突に,保型形式と呼ばれる特徴を持つ,次の式を考えます。
ここで は,左辺の積を展開したときに現れる の係数として定義されます。この をフーリエ係数と呼びます。
このフーリエ係数を使うと,先ほどの素数の持つ特徴を,驚くほどきれいな法則として表すことが出来ます。
さぁ,その法則をご覧に入れましょう。
定理:
を除く素数 に対して,
なんということでしょう!!!
(驚いてください。笑)
なぜそんなことが起きるのか。「保型形式のフーリエ係数」と「二次形式」がいったいどうして関係があるのか,tsujimotter には検討もつきません。
参考文献によると,虚二次体 の整数環 においては,上記にあげた素数 が
のように分解する,というのがキーのようです。
これを展開すると,
となって,目的の式が得られます。
問題は「二次体が与えられたときに,どのような が分解されるのか」という点ですが,これがまさに「類体論」と呼ばれる数学に深く関わってくるのだそうです。
面白そうな匂いがぷんぷんしますね!!
数式処理システムで確認する
とりあえず,上の定理が本当に成立しているかどうか,確認してみたいと思いました。
そのためには, の式の展開が必要ですが,これがなかなか厄介です。展開するだけで大変なのに,最初に となるのが のときなので,少なくとも 回は積をとる必要があります。
というわけで,式の展開を自動化したいのですが,自分でプログラムを作るのも面倒です。
そこで,数式処理システムを使いましょう! Maxima の出番です!
実は,Maxima を使うのは,今回がはじめてです。
このためだけにインストールしました!
以前より,以下のブログを見ていつかは触ってみたいなと思っていました。まさかここまで実用的な理由が出来るとは思いませんでしたが。笑
Maxima で綴る数学の旅
この Maxima を使うと,数式の展開が簡単に行えます。
たとえば,
を計算したいときは,
(%i1) expand( ((1-q^n)*(1-q^(23*n))) );
のように打ち込むと,
24 n 23 n n (%o1) q - q - q + 1
と帰ってきます。
TeX 形式にすることも出来て,
(%i2) tex(%); $$q^{24\,n}-q^{23\,n}-q^{n}+1$$ (%o2) false
と帰ってきます。これをブログに貼付けると,
となります。ちゃんと展開できていますね。ってか便利ですね!!
ちなみに,"%" は直前に評価した結果を意味する記号です。
さて,本題の式を計算しましょう。
見るからにややこしいですね。
以下のように,
として, まで計算しましょう。
まず,多項式を「昇べき順」に並べるように設定します。
powerdisp:true$
次に, の中身を と定義します。
a[n]:=((1-q^n)*(1-q^(23*n)));
では,式を展開しましょう。まずは,ちょっと怖いので で。
tex( expand( q*product( a[k], k, 1, 10 ) ) );
計算結果はこうなります。
本当は,この先も項は続くのですが, までしか計算していないので,正しいのはここまでです。
それで,ですね。
このまま一気に までいきたいところなんですが・・・。
結論から述べると 無理 です。
どうやら, を増やしていくと,爆発的に項の数が増えていくのですね。すると,それに伴って,展開にかかる時間も増えていくわけです。
tsujimotter の非力な Mac Book Air で試したところ, が限界でした。
tex( expand( q*product( a[k], k, 1, 20 ) ) );
残念ながら,得られたのはここまででした。
にすら到達しない・・・。
結局・・・
というわけで,仕方ないので参考文献からコピーしてきます。
以下のようになるそうです。
注目してほしいのは太字部分です。この太字は, となる素数に対応した項を表しています。
を除くと,すべての で となっていますね。逆に,その他の に対しては,すべて となっていることもわかります。
たしかに,上の定理は成り立っていました!
おわりに
いやー,実に興味をそそられるテーマでしたね!
この話の根底には「非可換類体論」と呼ばれる数学が関係しているそうです。今の tsujimotter には,まったく意味が分かりませんが,いつかはきっと理解したいなと強く思いました!
参考文献
以下の文献を発見して tsujimotter は本当に興奮しました。その思いをこの記事にぶつけてみました。
内容はこちらの文献に,完全に依存しています。間違いがあるとすれば,きっと私の理解不足です。。。
伊藤哲史「平方数の和で表される素数について」城咲新人セミナー
https://www.math.kyoto-u.ac.jp/insei/proceeding/2010/ito.pdf
https://drive.google.com/file/d/1RrC0WG676Hv3k2W0pfK6LY00hiC0kaR0/view
(リンク先が変わりました)