tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

xx + 27yy 型の素数 と オイラーの五角数定理

これまでこのブログでは

 x^2 + Ny^2

という二次形式で表すことのできる素数に想いを巡らせてきました。


 N = 1, 2, 3, 5 のときには,それぞれの二次形式で表すことができる素数の必要十分条件が完全に分かっています。このブログでも数回にわたって解説してきました。

 \begin{eqnarray*} p &=& x^2 + y^2 \; &\Longleftrightarrow& \; p \equiv 1 & \pmod{4} \\
 p &=& x^2 + 2y^2 \; &\Longleftrightarrow& \; p \equiv 1, 3 & \pmod{8} \\
 p &=& x^2 + 3y^2 \; &\Longleftrightarrow& \; p \equiv 1 & \pmod{3} \\
 p &=& x^2 + 5y^2 \; &\Longleftrightarrow& \; p \equiv 1, 9 & \pmod{20} \end{eqnarray*}


一般に,「多くのケースの」  N に対して,二次形式  x^2 + Ny^2 の形で表される素数の条件は, \mod {N} または  \mod {4N} で決まることが知られています。


「多くのケースの」と注意書きしたように,残念ながらこの法則には例外があります。

その例外の1つとして,今日はオイラーが考察していたとされる  N = 27 のケースについて考えることにしましょう。


列挙してみよう

 N = 27 においては,上の文章で述べたような「一般論」は成り立ちません。具体的にどう成り立たないのか,計算して確かめてみましょう。

 p = x^2 + 27y^2 の形で表すことのできる素数  p を以下に列挙してみます。

 \begin{eqnarray*} 31 &=& 2\cdot 2 &+& 27\cdot 1\cdot 1 \\
 43 &=& 4\cdot 4 &+& 27\cdot 1\cdot 1 \\
 109 &=& 1\cdot 1 &+& 27\cdot 2\cdot 2 \\
 127 &=& 10\cdot 10 &+& 27\cdot 1\cdot 1\\
 157 &=& 7\cdot 7 &+& 27\cdot 2\cdot 2 \\
 223 &=& 14\cdot 14 &+& 27\cdot 1\cdot 1 \\
 229 &=& 11\cdot 11 &+& 27\cdot 2\cdot 2 \\
 277 &=& 13\cdot 13 &+& 27\cdot 2\cdot 2 \\
 283 &=& 16\cdot 16 &+& 27\cdot 1\cdot 1 \end{eqnarray*}

今回は  300 以下の素数をすべて考えました。

対象となる素数を列挙するのは,少々面倒です。実は,今回の記事の主定理によって,こうした素数は容易に見つけることができるのですが,今の段階では実直に計算するしかありません。手計算ではしんどいので,tsujimotter はコンピュータの手を借りて計算しました。


さぁ,これらのリストをみて,みなさんは法則を発見することができるでしょうか。


(少し考えてみてください)



比較的容易に分かるのは,素数  p はすべて  3 で割った余りが  1 であるという点です。

すなわち,

 p \equiv 1 \pmod 3

です。

実際,

 x^2 + 27y^2 = x^2 + 3(3y)^2

ですから,これは  N = 3 のケースの亜種であるといえます。したがって, 3 で割って  1 余る素数は,この形で表せる可能性があります。


しかしながら,同じく  3 で割って  1 余る素数  p = 7 p = 103 は,このリストには含まれていませんね。


したがって,これは  p = x^2 + 27y^2 と表せるための必要十分条件ではありません。


実は,どんな法  M を持ってきたとしても,素数  p x^2 + 27y^2 で表す条件を見つけることができません。そういった  M がまだ発見されていないわけではなく,そのような  M存在しない のです。

 p = x^2 + 27y^2 と表せる素数の条件

では, p = x^2 + 27y^2 と表せる条件など,存在しないのでしょうか。

そんなことはありません。

少々複雑ですが,ちゃんと条件を与えることができるのです。

ここからが面白いので,良く聞いてください。


唐突ですが,以下のような式を考えます。

 \displaystyle q\prod_{n=1}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) \tag{1}


この式を(非常に面倒なのですが)「 q のべき」の形に展開します。

 \begin{eqnarray*} &&q\prod_{n=1}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) \\
&&= q(1-q^{6n})(1-q^{18n})\prod_{n=2}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) \\
&&= (q - q^{7} - q^{19} + q^{25})\prod_{n=2}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) \\
&&= (q - q^{7} - q^{19} + q^{25})(1-q^{12})(1-q^{36})\prod_{n=3}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) \\
&&= (q - q^{7} - q^{13} + q^{25} + q^{31} - q^{37})(1-q^{36})\prod_{n=3}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) \\
&&= (q - q^{7} - q^{13} + q^{25} + q^{31} - 2q^{37} + q^{43} + q^{49} - q^{61} - q^{67} + q^{73} ) \\ 
&&\times \prod_{n=3}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) 
\end{eqnarray*}


この先の計算を  n = 300 までがんばります。すると, 300 次までの  q のべきの展開が正しく計算されます。

(ね,面倒でしょう?)


コツを挙げるとすれば,項の次数  n 300 を超えた時点で,その項は切り捨てて計算から除外することです。切り捨てないで残しておくと,項の数が爆発的に増えて手に追えなくなってしまいます。


とはいえ,私はこのあたりで嫌になったので,コンピュータに計算させました。どうやって計算させたかは,またの機会に紹介しましょう。

 n = 300 まで計算すると,このような感じになります。

 \begin{eqnarray*}= q &-& q^{7} - q^{13} - q^{19} + q^{25} + 2q^{31} -  q^{37} + 2q^{43} - q^{61} - q^{67} - q^{73} - q^{79} \\ &+& q^{91} - q^{97} - q^{103} + 2q^{109} + q^{121} + 2q^{127} + q^{133} - q^{139} - q^{151} + 2q^{157} \\ &-& q^{163} - q^{175} - q^{181} - q^{193} - q^{199} - q^{211} - 2q^{217} + 2q^{223} + 2q^{229} - q^{241} \\&+& q^{247} + q^{259} - q^{271}+ 2q^{277} + 2q^{283} + q^{289} + \cdots \end{eqnarray*}

ここで, q n 次の項の係数に着目し,これを  a(n) と置くことにします。


するとどうでしょう。確認してもらいたいのは,素数  p における  a(p) の値です。たとえば, a(7) = -1 ですし, a(31) = 2 となっています。

一つ一つ見ていくと, a(p) 0, -1, 2 のいずれかをとることが確認できます。


ここまで準備すると,ようやく冒頭の問題に答えを与えることができます。

《本日の主定理》をご紹介しましょう。

《本日の主定理》
 p 3 で割って  1 余る素数としたとき,以下が成り立つ.

 p = x^2 + 27y^2 \; \Longleftrightarrow \; a(p) = 2


ただし, a(n) は次式で定義される数列である。

 \displaystyle q\prod_{n=1}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) = \sum_{n=1}^{\infty} a(n) q^n  \tag{2}


これは驚きですね!!

なにせ,出所の分からない「謎の式」を展開して,その  p 次の係数  a(p) をとってあげると,それが  p = x^2 + 27y^2 の形で表せる条件になっているのです。

不思議でしょうがない!


たしかに, p = x^2 + 27y^2 の形で表せる素数  p p = 31, 43, 109, 127, 157, \ldots ですが,これらにおいてはすべて  a(p) = 2 となっていて,それ以外では  a(p) = 2 となる素数  p はありません。いったい何でこんなことが起きるのだろう。


実は,この現象にちゃんとした理屈があるのです。今日は,この記事の残り半分を使って,そのロジックの概略だけでもご説明したいと思います。

主定理とオイラーの五角数定理の関係

まずは,式 (1) の出所を考えましょう。

そのために,まずはデデキントのイータ関数を考えます。この関数は,ギリシャ文字の  \eta(イータ)を使って,以下のように表します。

《デデキントのイータ関数》

 \displaystyle \eta(\tau) = q^{\frac{1}{24}}\prod_{n=1}^{\infty}(1-q^n) \hspace{20px} ただし,q = e^{2\pi i \tau}, \; \text{Im}(\tau) > 0

 q の式のように見えますが,実際は  \tau の関数で, \tau の指数関数がたくさん組み合わさった形となっています。


また,今回は使いませんが,イータ関数を 24 乗すると,以下のような変換に対して不変な式が現れます。

 \displaystyle \begin{eqnarray*} \eta^{24}(\tau+1) &=& \eta^{24}(\tau)  \\ \eta^{24}\left(-\frac{1}{\tau}\right) &=& \tau^{12} \eta^{24}(\tau) \end{eqnarray*}

このような特定の変換に対して不変であるような複素関数のことを保型形式と呼びます。特に,イータ関数の 24 乗は重さ 12 の保型形式です。


イータ関数を使うと,式 (1) は以下のように表せます。

 \displaystyle\eta(6\tau)\eta(18\tau) = q\prod_{n=1}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n})

この式は,

 \begin{eqnarray*} e^{2\pi i(6\tau)} &=& q^6 \\  e^{2\pi i(18\tau)} &=& q^{18} \end{eqnarray*}

に注意して,丁寧に計算していけば納得できるかと思います。


あとは,これをどうにかして「和の形」に変換したいですね。

「そんなこと簡単にできるのか?」と思うでしょう。それができるから面白いのです。


実はこんなときのために,イータ関数にはとてもとても面白い性質があるのです。それが,以下のオイラーの五角数定理です。

《オイラーの五角数定理》

 \displaystyle \eta(\tau) = q^{\frac{1}{24}}\prod_{n=1}^{\infty}(1-q^n) = q^{\frac{1}{24}} \sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m q^{\frac{m(3m+1)}{2}}  \tag{3}

これは,オイラーが発見した式ですが,これはこれでとても面白い話があるのです。この話だけで1つの記事が書けそうなぐらい,とても魅力的な式なのですが,今回はこの式を「利用する」ことだけ考えて先に進みましょう。

ポイントは,「積の形」で定義されるイータ関数が,最右辺では「和の形」になっているという点です。「積を和に変換できる」 ことが,オイラーの五角数定理の最大の特徴です。


今回の目的のために,少々の式変形を行っておきましょう。

 \displaystyle \frac{1}{24} + \frac{m(3m+1)}{2} = \frac{36m^2 + 12m + 1}{24} = \frac{(6m+1)^2}{24}

という,受験生が得意そうな式変形を適用すると,オイラーの五角数定理は以下のように変形できます。

 \displaystyle \eta(\tau) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m q^{\frac{(6m+1)^2}{24}}


ここで, \eta(6\tau), \; \eta(18\tau) を考えると,

 \displaystyle \eta(6\tau) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m q^{\frac{(6m+1)^2}{4}}
 \displaystyle \eta(18\tau) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m q^{\frac{3(6m+1)^2}{4}}

となります。したがって,この積をとると,

 \displaystyle \eta(6\tau)\eta(18\tau) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} \sum_{m'=-\infty}^{\infty} (-1)^{m+m'} q^{\frac{(6m+1)^2 + 3(6m'+1)^2}{4}}  \tag{4}

という式が得られます。


私たちの興味は,式 (4) の右辺において素数  p に対する  q^p の係数がとる値,すなわち  a(p) です。

ここで,

 \displaystyle \frac{(6m+1)^2 + 3(6m'+1)^2}{4} = p

となるような,すべての  (m, m') の組を考えれば,式 (4) の  p 次の項がすべて列挙できます。

それらすべての項の係数  (-1)^{m+m'} に対して和をとれば, p 次の項の係数の総和である  a(p) が求まるというわけです。


おー!いつの間にか,二次形式っぽい問題になっていますね!


たとえば  p = 31 のときには, (m, m') = (-2, 0), (1, -1) のときに限り,

 (6m+1)^2 + 3(6m'+1)^2 = 4p

となることが示せます。したがって,(4) 式右辺における  q^{31} の項の和は,

 (-1)^{-2+0} q^{31} + (-1)^{1+(-1)} q^{31} = a(31)q^{31}

ですから, a(31) = 2 であることが分かりますね。



ここで,

 p = x^2+27y^2 \tag{5}

を満たすような  p に対して,

 4p = (6m+1)^2 + 3(6m'+1)^2 \tag{6}

となる  (m, m') をどうやって見つけるのか,という点が問題になります。


式 (5) をみたすような, (x, y) に対して,

 (x - 9y)^2 + 3(x+3y)^2

を考えると,

 (x - 9y)^2 + 3(x+3y)^2 = 4(x^2 + 27y^2) = 4p

が成り立ちます。したがって,

 (x - 9y, x+3y) \; \mapsto \; (6m+1, 6m'+1)

と対応させれば,式 (6) を満たす  (m, m') が見つかりそうです。


式 (5) を満たす素数  p に対しては,このような  (m, m') の組み合わせは 2組 あって,かつ, m+m' はそのどちらも 偶数 になるのだそうです。だから, a(p) = 2 となるわけです。


厳密な証明は,細かい  \mod {} の計算と場合分けが必要になりますが,このへんは参考文献の本を読んでください。(tsujimotter もあまりよくは分かっていません。)


今日のところは「素数  p x^2 + 27y^2 で書ける条件」と 「 a(p) の値」が関係する,という点を納得してもらえると嬉しいです。

高次剰余との関係

ところで,話を  p = x^2 + 3y^2 に戻すと,

 p = x^2 + 3y^2 \; \Longleftrightarrow \; p\equiv 1 \pmod 3

という定理は, \left(\frac{-3}{p}\right) = 1 となる  p の条件,すなわち 平方剰余の相互法則 によるものでした。

すなわち,

 X^2 \equiv -3 \pmod p \; \Longleftrightarrow \; p = x^2 + 3y^2

ということです。


 p = x^2 + 27y^2 の場合も,同様の法則は存在しないのでしょうか。

「平方剰余でダメなら,もっと高次の剰余を考えれば良いじゃない」と調べてみると,以下のような条件が見つかります。

 X^3 \equiv 2 \pmod p \; \Longleftrightarrow \; p = x^2 + 27y^2

今回の主定理と合わせると,

 \begin{eqnarray*} X^3 \equiv 2 \pmod p \; &\Longleftrightarrow& \; p = x^2 + 27y^2  \\ \; &\Longleftrightarrow& \; a(p) = 2 \end{eqnarray*}

ですね。

実際,  p = 31 の場合は, \mod{p} において 3 乗して  2 となる数が存在します。

 4^3 = 64 \equiv 2 \pmod {31}

したがって, p = x^2 + 27y^2 の形で書くことができるわけです。


平方剰余においては  \mod {} の形で  p の条件が定まりますが,高次の場合ではそうはいかないので  a(p) を使う。これがまさに,高次剰余の相互法則の一例となっているわけですね。

まとめ

今回は  x^2 + 27y^2 という二次形式で表すことのできる素数の必要十分条件が,以下の保型形式の係数  a(p) で与えられる,という非常に興味深い定理についてご紹介しました。

 \displaystyle q\prod_{n=1}^{\infty} (1-q^{6n})(1-q^{18n}) \tag{1再掲}

長々と書いてきましたが,この定理の証明において,もっとも重要なのは「オイラーの五角数定理」です。デデキントのイータ関数を「積の形」から「和の形」に変換することができるこの定理のおかげで,私たちは  a(p) を具体的に計算することができたのですね。

オイラーの五角数定理については,気になる人も多いかと思いますので,近いうちにまた記事にしたいと思っています。

それでは,今日はこの辺で。

参考文献

今回の内容は,以下の本の第3章「高次相互法則とモジュラー形式」の 3.2 節「 f(X) = X^3 - 2 の場合」を参考にしました。

この本は加藤和也先生の以下の本で紹介されていて,それを読んだのがきっかけで見つけたものです。

第3章「非可換類体論とは」において,加藤先生が「わかりやすいすぐれた書物である」と太鼓判をおしていました。「これは買わなければ」と勢いよく Amazon で注文したのですが,まさに買って大正解でした。

今回のケースに限らず,多くの高次剰余とモジュラー形式との関係について具体例を挙げて計算してあるのが特徴で,とてもよい本だと思います。また,私の説明では,数学的には穴も多いかと思いますので,正確な話を知りたい方はぜひ読んでみてください。

ちなみに,Amazon には表紙の画像がありませんが,実物はこんな感じの本です。参考までに。

関連記事

関連する話は,以下の二次形式シリーズをぜひご覧下さい。
tsujimotter.hatenablog.com