昨日紹介した「モジュラー形式の本」にまたまた面白い話が載っていたので紹介したいと思います。
ウェアリングの問題
このブログでこれまでたくさん紹介してきましたが、4で割って1あまる素数は
のように「2つの平方数の和」として表すことができます。
一方で、たとえば4で割って3あまる素数はそのような和によって表すことができません。もちろん、平方数をもっと増やせば4で割って3あまる素数も表すことができて、実際4つあれば足りることが知られています。
より一般に 任意の自然数は4つの平方数があれば表すことができる ことが、ラグランジュによって示されています。
を満たす(非負の)整数 が存在する。
このラグランジュの定理は、平方数だけでなく3乗数、4乗数にも拡張されています。ラグランジュの定理は「任意の自然数 は4個の非負の平方数の和として表せる」でしたが、次のような事実が証明されています。
- 任意の自然数 は 9個 の非負の 3乗数 の和として表せる
- 任意の自然数 は 19個 の非負の 4乗数 の和として表せる
こんな風に、平方数(2乗数)だったら4個、3乗数だったら9個、4乗数だったら19個のように、べき乗の数と平方数の個数が対応しているわけです。
「これを一般化できるか?」というのが、ウェアリングの問題 です。すなわちウェアリングの問題とは次のような問題です。
任意の自然数 に対して は常に存在するか?
のときはそれぞれ という有限の値が求まったわけです。
しかしながら、一般に のときにも同じように有限の値 が存在するとは限らないですよね。もちろん、それがあることをウェアリングは期待しているわけですが。
実際、ヒルベルトによって、ウェアリングの問題は肯定的に解決されました。すごいですね。
「任意の自然数は高々53個の4乗数の和で表せる」の証明
さて、今回の記事は についてのお話なんですが、 を示すことはなかなか難しそうです。そこで、もう少し緩めた問題を考えます。
すなわち、高々53個の4乗数があれば、任意の自然数が表せる を示したいと思います。 ということですね。
キーになるのは次の恒等式です。
なかなかとんでもない恒等式ですね。
左辺は のそれぞれの2乗の和を2乗して6倍したもの、右辺は から2個ペアを選んで、それを足し引きしたものを4乗したものを全部足し合わせた式になっています。
この恒等式の証明は、かったるいですが、とにかく計算したらわかるというタイプの式です。「ブラハマグプタの恒等式」に似ています。
tsujimotter-sub.hatenablog.com
さて、左辺に「4つの平方数の和」があることに注目しましょう。ラグランジュの定理によると、任意の自然数 は の形で表せるわけです。
ということは、 という形の数は、12個の4乗数の和で表すことができることが一目瞭然というわけです。面白いですね。
ところで、任意の整数は (ただし )という形で表すことができますね。ラグランジュの定理を使って、この を再び4つの平方数の和で表すと
となります。
今日のキーポイントを使った議論により はそれぞれ、12個ずつの4乗数の和で表せます。よって、その和は48個の4乗数の和で表せるというわけです。
あとは の部分ですが、 についてすべて考えると次のようになります。
よって、任意の自然数は高々 個の4乗数の和で表せることがわかりました。
いやー、面白いですね!
ほとんど、上の恒等式一発で証明できてしまいましたが、こういうのはとても気持ちがいいですね。
それでは今日はこの辺で。