tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

任意の自然数は高々53個の4乗数の和で表せる

昨日紹介した「モジュラー形式の本」にまたまた面白い話が載っていたので紹介したいと思います。

ウェアリングの問題

このブログでこれまでたくさん紹介してきましたが、4で割って1あまる素数は

 13 = 2^2 + 3^2
 29 = 2^2 + 5^2

のように「2つの平方数の和」として表すことができます。

一方で、たとえば4で割って3あまる素数はそのような和によって表すことができません。もちろん、平方数をもっと増やせば4で割って3あまる素数も表すことができて、実際4つあれば足りることが知られています。

 7 = 2^2 + 1^2 + 1^2 + 1^2
 11 = 3^2 + 1^2 + 1^2 + 0^2

より一般に 任意の自然数は4つの平方数があれば表すことができる ことが、ラグランジュによって示されています。

定理(ラグランジュの4平方定理)
任意の自然数  n に対して
 n = a^2 + b^2 + c^2 + d^2

を満たす(非負の)整数  a, b, c, d が存在する。


このラグランジュの定理は、平方数だけでなく3乗数、4乗数にも拡張されています。ラグランジュの定理は「任意の自然数  n は4個の非負の平方数の和として表せる」でしたが、次のような事実が証明されています。

  • 任意の自然数  n9個 の非負の 3乗数 の和として表せる
  • 任意の自然数  n19個 の非負の 4乗数 の和として表せる


こんな風に、平方数(2乗数)だったら4個、3乗数だったら9個、4乗数だったら19個のように、べき乗の数と平方数の個数が対応しているわけです。

「これを一般化できるか?」というのが、ウェアリングの問題 です。すなわちウェアリングの問題とは次のような問題です。

ウェアリングの問題
自然数  k について「任意の自然数  n N 個の非負の  k 乗数の和として表せる」を満たすような最小の自然数  N g(k) とする。

任意の自然数  k に対して  g(k) は常に存在するか?


 k = 2, 3, 4 のときはそれぞれ  g(2) = 4, \; g(3) = 9,\;  g(4) = 19 という有限の値が求まったわけです。

しかしながら、一般に  k \geq 5 のときにも同じように有限の値  g(k) が存在するとは限らないですよね。もちろん、それがあることをウェアリングは期待しているわけですが。

実際、ヒルベルトによって、ウェアリングの問題は肯定的に解決されました。すごいですね。

「任意の自然数は高々53個の4乗数の和で表せる」の証明

さて、今回の記事は  g(4) についてのお話なんですが、 g(4) = 19 を示すことはなかなか難しそうです。そこで、もう少し緩めた問題を考えます。

すなわち、高々53個の4乗数があれば、任意の自然数が表せる を示したいと思います。 g(4) \leq 53 ということですね。


キーになるのは次の恒等式です。

今日のキーポイント
 \begin{align} 6(a^2 + b^2 + c^2 + d^2)^2 = \; & (a+b)^4 + (a-b)^4 + (c+d)^4 + (c-d)^4 + \\
& (a+c)^4 + (a-c)^4 + (b+d)^4 + (b-d)^4 + \\
& (a+d)^4 + (a-d)^4 + (b+c)^4 + (b-c)^4 \end{align}


なかなかとんでもない恒等式ですね。

左辺は  a, b, c, d のそれぞれの2乗の和を2乗して6倍したもの、右辺は  a, b, c, d から2個ペアを選んで、それを足し引きしたものを4乗したものを全部足し合わせた式になっています。

この恒等式の証明は、かったるいですが、とにかく計算したらわかるというタイプの式です。「ブラハマグプタの恒等式」に似ています。
tsujimotter-sub.hatenablog.com


さて、左辺に「4つの平方数の和」があることに注目しましょう。ラグランジュの定理によると、任意の自然数  n n = a^2 + b^2 + c^2 + d^2 の形で表せるわけです。

ということは、 6n^2 という形の数は、12個の4乗数の和で表すことができることが一目瞭然というわけです。面白いですね。


ところで、任意の整数は  6m+r(ただし  r = 0, 1, 2, 3, 4, 5)という形で表すことができますね。ラグランジュの定理を使って、この  m を再び4つの平方数の和で表すと

 \begin{align} 6m+r &= 6(n_1^2 + n_2^2 + n_3^2 + n_4^2) + r \\
&= 6n_1^2 + 6n_2^2 + 6n_3^2 + 6n_4^2 + r \end{align}

となります。

今日のキーポイントを使った議論により  6n_1^2, 6n_2^2, 6n_3^2, 6n_4^2 はそれぞれ、12個ずつの4乗数の和で表せます。よって、その和は48個の4乗数の和で表せるというわけです。

あとは  r の部分ですが、 r = 0, 1, 2, 3, 4, 5 についてすべて考えると次のようになります。

 0 = 0^4 + 0^4 + 0^4 + 0^4 + 0^4
 1 = 1^4 + 0^4 + 0^4 + 0^4 + 0^4
 2 = 1^4 + 1^4 + 0^4 + 0^4 + 0^4
 3 = 1^4 + 1^4 + 1^4 + 0^4 + 0^4
 4 = 1^4 + 1^4 + 1^4 + 1^4 + 0^4
 5 = 1^4 + 1^4 + 1^4 + 1^4 + 1^4

よって、任意の自然数は高々  48 + 5 = 53 個の4乗数の和で表せることがわかりました。


いやー、面白いですね!

ほとんど、上の恒等式一発で証明できてしまいましたが、こういうのはとても気持ちがいいですね。

それでは今日はこの辺で。