tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

リーマン面の定義

最近、寺杣先生の「リーマン面の理論」という本を勉強しています。

リーマン面の理論

リーマン面の理論

  • 作者:寺杣友秀
  • 出版社/メーカー: 森北出版
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


「リーマン面」についての勉強を始めたのは、「幾何が専門の人の話についていけるようになりたい」という動機からでした。そんなことを考えているときに上記の本が発売されたので、ちょうどよいタイミングだなと思いました。また、それとは別に「リーマン面」と「数論的な現象」の間に接点があるそうで、これについても理解したいなという思いがあります。

一方、tsujimotterはこれまで位相空間論や多様体の勉強をほとんどしてこなかったので、理解するのにだいぶ苦労しています。進捗は遅そうですが、少しずつでも読み進めようと思っています。


第一段階として、自分自身の理解の確認のためにリーマン面の具体例を構成していきたいと思っています。今回はその前段として「リーマン面の定義」を丁寧にまとめていきたいと思います。

なお、今回の記事では「わかりやすく伝える」という意図はあまりなく、ただただ実直に定義を理解しようという考えで書いています。その点はご理解ください。

定義

定義:リーマン面
 X を第二可算公理を満たす位相空間でハウスドルフであるとし、 X のある開被覆を  X = \bigcup_{i \in I} U_{i} とする。 X が次の (i), (ii) を満たすとき、 Xリーマン面であるという:
(i) 任意の  i \in I に対して、 \mathbb{C} の開集合への同相写像  \varphi_{i} \colon U_{i} \to \mathbb{C} が存在する
(ii) 任意の  i, j \in I に対して、 U_{i} \cap U_{j} \neq \emptyset ならば
 \varphi_{j}\circ \varphi^{-1}_{i}\colon \varphi_{i}(U_{i} \cap U_{j}) \to \varphi_{j}(U_{i} \cap U_{j})
は正則関数

上記の条件をすべて満たすものが、リーマン面です。リーマン面の具体例として対象  X を作る際には、対象  X がこの条件をすべて満たすかどうか確認する必要があります。私たちが示すべき目標を列挙したものといえます。

しかしながら、リーマン面の定義は、簡単なものではありません。条件がかなり多く、ただちに意味を捉えるのが難しいですね。丁寧に一つひとつ条件を確認しましょう。

 X は(第二可算公理を満たす)位相空間

まず、「 X は位相空間である」ことを示す必要があります。位相空間の定義はここでは省略します。

 X は位相空間である」を示すためには、 X の開集合系を決定するなどの方法があります。ほかにも、別の位相空間を定義してから、その位相空間から誘導される位相を考えることもあります。次回具体的な例を作る際には、後者の方法をとりたいと思いますが、具体的な方法についてはそのときに議論しましょう。


また、「 X は第二可算公理を満たす」という条件についても触れておきます。

 X の開集合全体を  \mathcal{O} として、そのある部分集合  \mathcal{B} をとります(「 X のいくつかの開集合」を元とするような集合)。 X の任意の開集合  U が、 \mathcal{B} の部分集合  \mathcal{B}_0 の合併によって表せるとき、つまり

 U = \bigcup_{B \in \mathcal{B}_0} B

が成り立つとき、 \mathcal{B} X開基といいます。開基は、 X の任意の開集合を合併によって「生成する」ようなものだというわけですね。

 X が「高々可算個」の開基をもつとき、 X第二可算公理を満たすといいます。 X の開集合全体  \mathcal{O} を考えれば、 \mathcal{O} は定義から明らかに開基であるわけですが、場合によっては  \mathcal{O} は連続濃度になってしまうこともあります。 \mathcal{O} より濃度の小さい可算個の集合を使ってうまいこと  \mathcal{O} が表現できる場合は、第二可算公理を満たすというわけですね。

長々と書いてきましたが、多くの素性のよい空間は、第二可算公理を満たすそうなので、この条件についてはあまり神経質になる必要はなさそうです。

 X はハウスドルフ

位相空間  X がハウスドルフであるとは、 X の任意の2点  x, y に対して、 U_x \cap U_y = \emptyset となるような  x, y の開近傍  U_x, U_y が存在するということです。

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「2点が近傍によって分離できる」というのは素朴でイメージしやすい性質ですが、 X がハウスドルフであることを示すのは簡単ではない場合が多そうです。

 \bigcup U_{i \in I} X の開被覆

位相空間  X が、 X のある開集合系  \mathcal{U} = \{ U_i  \mid i \in I \} の合併によってかけるとき、 \mathcal{U} を開被覆と呼びます。 I はインデックス集合で、無限個でも構いません。

つまり、ある開被覆が存在することを示す必要があるということですね。(任意の開被覆ではなく、一つ都合のよい開被覆があればよいことに注意しましょう。)

 \mathbb{C} の開集合への同相写像  \varphi_{i} \colon U_{i} \to \mathbb{C} が存在する

上で定めた開被覆の各開集合  U_i に対して、「 \mathbb{C} の開集合への同相写像  \varphi_{i} \colon U_{i} \to \mathbb{C} が存在する」とは、 \mathbb{C} のある開集合  V_i に対して、同相写像

 \varphi_i \colon U_{i} \to V_i

が存在するということですね。この  \{\varphi_i\}局所座標系といいます。

これがどうして「局所座標系」なのかということについて触れておきます。同相写像  \varphi_i の行き先は  \mathbb{C} ということで、 \mathbb{C} の各点には複素数の座標が定まります。したがって、 X の一部分に、 \varphi_i を通して  \mathbb{C} による座標系が貼り付けられるということです。

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 X の開被覆に対してそれぞれ座標系が貼り付けられているので、 X の各点に座標を定めることができます。もちろん、すべての対して異なる座標系である必要はありません。

また、局所座標系は、上で定めた開被覆に対して定めればよいということに注意します。

ここは僕が最初に誤解したポイントでした。局所座標系はあくまで「与えられた開被覆に対して」定めればよいのであって、「任意の開集合に対して」定める必要はないということですね。


なお、 \varphi_i が同相写像であるとは、 \varphi_i が次の3つの条件を満たすことをいいます。

  •  \varphi_i が全単射
  •  \varphi_i が連続写像
  •  \varphi_i^{-1} が連続写像

さらっと「同相写像である」と書いていましたが、条件を示すのが結構大変だとわかるでしょう。

 \varphi_j \circ \varphi_i^{-1} \colon \varphi_i(U_i \cap U_j) \to \varphi_j(U_i \cap U_j) は正則関数

上によって、 X には局所的に座標系が定まったわけです。共通部分を持つ開被覆  U_i, U_j を考えたときに、 U_i, U_j にはそれぞれ異なる局所座標系  \varphi_i, \varphi_j が定まっています。つまり、共通部分  U_i \cap U_j には  \varphi_i, \varphi_j という二通りの局所座標系が定まっているわけですね。リーマン面の条件⑤では、これらの座標系の間の「整合性」を要請しています。

この整合性についてより詳しく説明したいと思います。 U_i \cap U_j \varphi_i, \varphi_j によって写したものをそれぞれ  \varphi_i(U_i\cap U_j), \varphi_j(U_i\cap U_j) と書くことにします。これらはどちらも  \mathbb{C} の開集合で、 U_i \cap U_j と同相です。

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よって、次のような合成写像を考えることができます。 \varphi_i の逆写像  \varphi_i^{-1} によって  \varphi_i(U_i \cap U_j) U_i \cap U_j に戻します。さらに、 \varphi_j によって  U_i \cap U_j \varphi_i(U_i \cap U_j) に写します。この合成写像を

 \varphi_j \circ \varphi_i^{-1}\colon \varphi_i(U_i \cap U_j) \xrightarrow{\varphi_i^{-1}} U_i\cap U_j \xrightarrow{\varphi_j} \varphi_j(U_i \cap U_j)

とします。

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構成からわかるように、 \varphi_j \circ \varphi_i^{-1} \mathbb{C} の開集合から  \mathbb{C} の開集合への写像となっていますね。つまり、単なる複素関数になります。

条件⑤では、複素関数  \varphi_j \circ \varphi_i^{-1} が正則であることを要請しているというわけです。

リーマン面と多様体の関係

多様体のことを知っている人は、リーマン面の定義が多様体の定義に似ていることに気づいたと思います。

実際、上の定義で  \mathbb{C} となっているところを  \mathbb{R}^n に置き換えて、「正則関数」のところを「連続関数(あるいは無限回微分可能)」と置き換えると「 n 次元多様体(あるいは  n 次元可微分多様体)」の定義そのものになります。 \mathbb{C} \mathbb{R}^2 だと思えて、正則関数は連続関数なので、リーマン面は2次元の多様体となります。

一方、 \mathbb{C} のところを  \mathbb{C}^n に置き換えると、これは  n 次元複素多様体の定義となります。リーマン面は1次元複素多様体だということができます。

おわりに

以上がリーマン面の定義で主張していることの全容です。ある与えられた  X がリーマン面であることを示すためには、上記の条件①~⑤がすべて成り立つことを言う必要があります。

次回は、このことを具体的に  X = \mathbb{P}^1 で確認したいと思います。リーマン面の定義を丁寧にすべて確認していくのは、相当に骨が折れます。リーマン面の練習として、頑張って全部の条件を示したいと思います。

それでは今日はこの辺で。