を正の整数としたとき、 を と互いに素な任意の整数として
が成り立つことが知られています。 はオイラーのトーシェント関数といって、この合同式はオイラーの定理として知られています。
これは素数を使った有名な暗号の一つ「RSA暗号」の理論的背景に使われます。具体的には、 として考えますが、 となります。上の定理から
という合同式が成り立ちます。これを使うと、任意の に対して が存在して
が成り立つ事が言えます(ユークリッドの互除法を使います)。したがって、 を暗号鍵、 を複合鍵とすれば、 を暗号化してまた戻してくる事ができるというわけですね。
以下の記事でより詳しく説明しました:
tsujimotter.hatenablog.com
ところで、意外にあまり明示的に書かれていない事実として、 が と互いに素でなくても
は成り立ちます。つまり、暗号文を選ぶ時に、わざわざ と互いに素であるかどうか気にしなくて良いというわけですね。
ちなみに、上が成り立つからといって両辺を で割った
は一般に成り立ちません。両辺を割ることができない場合があるというのが、合同式の面白いところです。
互いに素とは限らないオイラーの定理の証明
それでは、ここでは以下の命題を証明します。
一般の ではダメで、 のように、相異なる素数の積になっている場合に通用する証明です。面倒なので、 の場合だけで証明しますが、 個の場合もまったく同様に証明可能です。
(証明)
が で割り切れることを示すために、 が で割り切れる場合と、そうでない場合に場合分けして考える。
(i) の場合:
なので、両辺 乗して
が成り立つ。 より
が言える。したがって、 が得られる。
(ii) の場合:
フェルマーの小定理より
である。両辺 乗すると
であり、両辺 をかけて
が成り立つ。したがって、 より が得られる。
以上 (i), (ii) の議論より、いずれの場合も である事がわかった。
同様の議論を に対しても行うと、 がわかる。
したがって、 は でも でも割り切れるので、
が言えたことになる。すなわち
が示された。
類似例:カーマイケルの定理
実はカーマイケルの定理も、同様の事実を示す事ができます。
カーマイケル数 の定義と、カーマイケルの定理は次の記事で思い出してください。
tsujimotter.hatenablog.com
すなわち、次が成り立つというわけです。
証明は書かないですが、 なので、 のところをこれに置き換えればそのまま証明できる感じです。
今回のきっかけ
鯵坂もっちょさんの次のツイートがきっかけです:
n^a mod b (0≦n≦b)をaとb変化させながら見てみた(冪剰余)けどいろいろ面白いな。たまにy=xの直線上に乗ってるのなんだろ
— 鯵坂もっちょ🐟 (@motcho_tw) 2021年1月22日
(フェルマーの小定理っぽいかと思ったけどn^7 mod 42 = nとかになってるので微妙に違いそう) pic.twitter.com/XuaeQDv4Yl
たとえば、 とかを考えると、一直線に右肩上がりになっているように見えます。これは
を意味するのですが、上で示した「カーマイケルの定理の拡張(命題2)」が背景にあります。
実際、 とすると、
となり、 と互いに素とは限らない に対して
が成り立つというわけなんですね。
面白いです!
それでは今日はこの辺で!