今日のテーマは フィボナッチ数 です。
またかと思われるかもしれませんが、最近たしかにフィボナッチ数の話が多いですね。
今日の切り口は、フィボナッチ数の逆数和 です。特に、奇数番目のフィボナッチ数の逆数和
について考えたいと思います。
式 の和を100項ぐらい数値計算させてみると、だいたい次のような数値となります:
今日はこの和を、テータ関数 を使って表すことができるというお話を紹介したいと思います。
単に関数の式変形ができる、という話にとどまらず、その導出には ヤコビの2平方和の定理 が出てくるなど、整数論とも繋がりがあって大変おもしろいです。
よろしければ最後までお付き合いください。
今日証明したいこと
今回の内容は、奇数番目のフィボナッチ数の逆数和がテータ関数を使ってかけるという話です。
本題に行く前に、そもそもテータ関数とは何なのかを説明して、今回の目標の式を紹介したいと思います。
以下の4つの関数 をテータ関数といいます:
には複素数が入り、 であるとします。
なんじゃこりゃ と思ったかもしれません。実際、私もいまでもなんじゃこりゃと思っています。笑
4つの関数が並んでいて、脈絡がないと思った方もいるかもしれません。
より一般的な形を見ると、関連性がわかるかもしれません。すなわち
というものを考えて、 に を代入したものが最初の4つの関数だったというわけです。
とはいえ、だから一体何なのだと思うかもしれません。次の節で具体的な値を入れてみることでイメージできるかもしれませんので、それまではご辛抱ください。
さて、このテータ関数を用いて、奇数番目のフィボナッチ数の逆数和を表すことができるのです。それが次のランダウによる定理です。
ただし、 は である。
ずいぶんきれいに表すことができますね!
いったいどうやってこの式を導くことができるのか、それが今日のテーマです。
テータ関数の使い所
さて、テータ関数の使い所を考えてみましょう。
を代入すると、 は
と表せますね。 の肩に (平方数)が載っている という項を無限に足し合わせる形になっています。
(平方数のときに 、そうでないときに となるような数列の母関数と言ってもよさそうですね。)
一方で、 の方に を代入すると
と表せます。 の肩に平方数が乗っているんですが、こちらは奇数のみの平方数を足し合わせていることになりますね。
したがって、テータ関数に を代入したものは、平方数が肩に乗った無限級数になるというわけですね。これならだいぶ意味を理解できそうです!
さらに、テータ関数を二つかけたものも重要なので、押さえておきましょう。
結構複雑なので、テータ関数で計算する前に、まずシンプルな分配法則
を押さえておきましょう。これはシグマ記号を使うと、左辺は
のように表せますね。右辺は二重和で表せます。まず
のように表せて、さらに内側の和が
のように表せますね。これを押さえておけばOKです。
さて、テータ関数 を2つ掛けると
2番目のイコールの部分は、上の分配法則と同じ要領で考えています。
このように変形すると、 として(負の数も含む)すべての整数を動かして、 なる項を足し合わせるという式になります。
ところで、 となるような項の個数を数えてみたいと思います。これは「 という整数が2つの平方数の和で表せる組み合わせの総数」ということになりますね。これを のように表すと、 の項の個数は 個になります。
したがって
と表せるわけです。
ヤコビの2平方和の定理
最後のテータ関数の性質を考えると、「 という整数が2つの平方数の和で表せる組み合わせの総数」、すなわち
なる の組み合わせの総数 が自然に出てくることが分かると思います。
と表せますので、組み合わせの総数は 12 通りです。したがって となります。
ヤコビはテータ関数を使って、 が次のように表せることを証明しました:
ただし、 は次で定義される:
- は の正の約数 であって であるものの個数。
- は の正の約数 であって であるものの個数。
ここで、(素数)とすると、 の正の約数は のみなので上の個数が具体的に決定できます。
- のとき、
- のとき、
ここからフェルマーの2平方和の定理がただちに成り立つことがわかりますね。
ヤコビの2平方和の定理が成り立つというのは大変興味深いことなのですが、今回は本題ではないので認めて使いたいと思います。
条件の付き2平方和の組み合わせの総数
上では一般の について、( は整数)と表される組み合わせの総数 について考えました。
以下では が奇数であるとします。この条件で と表せたとき、 が奇数ならば が偶数になり、逆に が偶数ならば は奇数です。つまり、 の偶奇は異なります。
したがって、 が奇数ならば
としても一般性は失いません。
また、2乗によって は打ち消されるので、 はともに 以上としても問題はありません。
そこで、 に
という条件を課したときに、 と表すことができる組み合わせの総数 を考えたいと思います。
が (i) 非平方数のときと、(ii) 平方数のときで場合分けして考えます。
(i) が非平方数のとき:
が非平方数であるとし、 と表せたとします。このとき、 のどちらも ではなく、 が相異なることがわかります。このとき
の8通りの式も同時に成り立つことがわかりますね。 なので、すべて異なる数の組となります。
したがって、 が非平方数のとき
になることがわかります。
(ii) が平方数のとき:
また、奇数 が平方数であるとし、ある を用いて と表せるとします。このとき、少なくとも
の4通りは成り立ちます。「、 は奇数、 は偶数」という条件で数えると、上記の4通りは1通りとして数えられます。
これ以外のパターンで と表せるとき、 となりますから、非平方数のときと同様に
なる8通りが同時になりたちます。
したがって、 が平方数のとき
となることがわかります。これは
とも表せますね。
以上をまとめると次のようになります:
これを逆に の形にすると
が得られます。この式はあとで使います。
フィボナッチ数の逆数和を計算する
それではいよいよランダウの定理の証明をしましょう。
まず、フィボナッチ数の一般項を表すビネの公式
を用います。
ここで、 です。 は黄金比であり、 と の関係は
と表されますね。
フィボナッチ数の逆数は、ビネの公式の逆数をとることにより
と表せます。
したがって、 と代入することにより
と変形できます。ここで、無限等比数列の和公式
に を代入した式を使っています。
式 を展開すると
と表せます。
この級数は絶対収束するので、順番を入れ替えても問題ありません。
そこで、 の係数 を求めたいと思います。上記の和を観察すると、 が奇数のみであることに注意します。
すなわち
として、 を決定したいと思います。
まず、各 の列は
となっていますが、各項は ()となっています。したがって、 の指数の部分は で割り切れることになります。
つまり、 列目には「 の倍数である奇数全体」が並んでいるというわけです。
- 列目( から始まる列)は、 の倍数であるような奇数全体(つまりすべての奇数)
- 列目( から始まる列)は、 の倍数であるような奇数全体
- 列目( から始まる列)は、 の倍数であるような奇数全体
- 列目( から始まる列)は、 の倍数であるような奇数全体
- 以下続く
したがって、 の約数を としたとき と表せるわけですが、 は から始まる列にちょうど1個あるわけですね。
また、 の符号部分を考えてみましょう。
が として から始まる列にあるとします。 と表されますので、 の符号は と表せます。一方
と表せます。よって
- が偶数のとき の符号は であり、このとき
- が奇数のとき の符号は であり、このとき
となります。
まとめると、 の約数 に対して、 は から始まる列に1個あり、 のとき符号が 、 のとき符号が となるわけです。
したがって、 の係数 は
と表せることがわかります。
- から始まる列( 列)に1個あり、 より符号は
- から始まる列( 列)に1個あり、 より符号は
- から始まる列( 列)に1個あり、 より符号は
- から始まる列( 列)に1個あり、 より符号は
となることがわかります。
よって、 となります。
ところで、ヤコビの2平方和の定理を思い出すと、式 から
と表せますね。ここで、 は と表せるような整数の組 の総数でした。
さらにいえば、式 によると
と表せることがわかります。ここで、 は「 なる整数の組 であって、、 は奇数、 は偶数なるもの全体の総数」でした。
よって、これを改めて和の中に戻すと、次が得られます:
ここで式 の1つめの和 を計算したいと思います。
これは式 と同じ要領で、次の掛け算を計算すれば理解できます:
ここで総和記号の添字 は、:0以上の奇数、:0以上の偶数を渡るものとします。
が0以上の奇数を動くとき、 は奇数の平方数(以下、奇平方数)すべてを動きます。同様に、 が0以上の偶数を動くとき、 は偶数の平方数(以下、偶平方数)すべてを動きます。
よって、式 に代入すると
となります。
あとはテータ関数 の式 とテータ関数 の式 を思い出します:
すると
であり
と表せることがわかります。
結局
となり、両辺に を掛ければ目的の式が得られます。
おわりに
いかがだったでしょうか。個人的にはとても楽しい式変形でした。
単なる無限級数の変形だけではなく、そこに平方数の和の組み合わせという整数論的な議論が入ってくるのがとても魅力的に感じました。
参考文献は以下の通りです。
参考文献
リーベンボイム 著「我が数、我が友よ―数論への招待」(共立出版)の「第2章 Fibonacci数による実数の表現」の内容を参考にさせていただきました。