tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

デカルトの見つけた奇数の完全数(?)

今日は11/28で日付は 28。28は皆さんご存知の 完全数 ですね。

というわけで、今日は いい完全数の日 です!

せっかくなので、完全数にまつわる面白い話をご紹介したいと思います!



 

未解決問題:奇数の完全数はあるか?

約数すべての和が自分自身の2倍に一致する自然数のことを完全数といいます。完全数としてよく知られているのは、

 6, \; 28, \; 496, \; 8128, \; \ldots

ですね。小さい方から数えて  28 は2番目の完全数ですね。また、これらの完全数はすべて偶数となっています。


一般に、メルセンヌ素数を  2^p - 1 としたときに、

 2^{p-1} \cdot (2^p - 1)

という数は完全数になることが比較的簡単な議論で示せます。このような完全数は、もちろん偶数になります。

逆に偶数の完全数が必ずこの形で表せることは、オイラーによって証明されています。たとえば、証明はこの動画でわかりやすく説明されています。
www.nicovideo.jp

実際、先ほどの4つの完全数は

 6 = 2^{2-1} \cdot (2^{2} - 1)
 28 = 2^{3-1} \cdot (2^{3} - 1)
 496 = 2^{5-1} \cdot (2^{5} - 1)
 8128 = 2^{7-1} \cdot (2^{7} - 1)

というように  2^{p-1}\cdot (2^p - 1) という形で表されますね。


ここで証明されたことは、偶数の完全数であればこの形で表せる ということです。奇数のときにどうであるかについては、一切言及されていません。

奇数の完全数は未だ見つかっていません。そもそも存在しないかもしれませんが、存在しないことは示されていないのです。そのため 「奇数の完全数が存在するかどうか?」 という問題は 未解決問題 というわけですね。

約数の和

完全数は約数の和を使って定義されるので、約数の和を表す関数を用意しておきましょう。

 \sigma(n) := \,(\,n のすべての約数の和  )

このように定義すると、完全数は

 \sigma(n) = 2n

を満たす自然数  n ということになりますね。


この関数  \sigma(n) は、 n素因数分解 することで、簡単に計算することができます。

段階をおって説明していきたいのですが、たとえばわかりやすい例として、素数  p として  \sigma(p) を計算してみましょう。素数  p の約数は  1, \; p の2つなので、約数の和は

 \sigma(p) = 1 + p

ですね。

次に、 p^e という形の約数は  1, \; p, \; \ldots, \;  p^{e} なので、その和  \sigma(p^e)

 \sigma(p^e) = 1 + p + \cdots + p^e

となりますね。

ここから2つ以上の素因数のパターンを考えたいと思います。 p, q を素数として、 p^e q^f という形の約数の和を考えたいと思います。 p^e の約数は  1, p, \ldots, p^e であり、 q^f の約数は  1, q, \ldots, q^f です。 p^e q^f の約数は、これらをすべて掛け合わせたものですから、約数の和は

 \sigma(p^e q^f) = (1 + p + \cdots + p^e)\cdot (1 + q + \cdots + q^f)

となりますね。

同様に、素因数の個数が3つ以上の場合も、素因数ごとに約数を足し合わせて、それを掛けることで計算できます。

デカルト数 198585576189

さて、ここまで準備した上で、デカルトが発見した奇数の完全数 を紹介しましょう!


次の 実例 を見ると驚くと思います。

 198585576189 = 3^2 \cdot  7^2 \cdot 11^2 \cdot 13^2 \cdot 22021

前節の方法で約数関数を計算すると、こうなります:

 \begin{align} &\sigma(198585576189) \\
&= \sigma(3^2 \cdot  7^2 \cdot 11^2 \cdot 13^2 \cdot 22021) \\
&= (1+3+3^2)\cdot (1+7+7^2)\cdot (1+11+11^2)\cdot (1+13+13^2)\cdot (1+22021) \\
&= 2\times 198585576189 \end{align}

つまり、

 \sigma(198585576189) = 2 \times 198585576189

が成り立つということですね。これは完全数の定義そのものですね!

一方、198585576189は明らかに奇数なので、奇数の完全数となります!


うおおおお、すごい!!! 奇数の完全数が見つかってしまった!!!





いや、やっぱりおかしいですよね。

先ほどわざわざ下線を引いて「奇数の完全数は未だ見つかっていません。」と言ったばかりです。上が奇数の完全数の実例なのだとしたら、その主張に矛盾します(もしかしてデカルトは未来人なのか?そんなわけない)。

一体どういうことなのでしょうか。



ネタバラシをすると、上の数は 奇数の完全数ではありません

いったいどこがおかしいかというと、 22021 は素数ではありません。つまり、198585576189を

 \require{color}198585576189 = 3^2 \cdot  7^2 \cdot 11^2 \cdot 13^2 \cdot \textcolor{red}{22021}

のように表しましたが、これは素因数分解ではなかったというわけですね。(そもそも上では素因数分解と言っていませんでしたね。)

実際、 22021

 22021 = 19^2 \cdot 61

のように素因数分解されます。したがって、約数の和はこれを考慮に入れた上で

 \begin{align} \sigma(198585576189) = \; &(1+3+3^2)\cdot (1+7+7^2)\cdot (1+11+11^2) \\
&\cdot (1+13+13^2)\cdot (1+19+19^2) \cdot (1+61) \end{align}

のように計算する必要があります。

もちろん、これは  2\times 198585576189 には一致しません。



今回の数に関しては 「Descartes number(デカルト数)」 という名前で、英語版のWikipediaに乗っています。
en.wikipedia.org

日本語のWikipediaはありませんでした。Googleで検索してみると、英語での記事はいくつか見つかりますが、日本語で言及されたものは一つも見つかりませんでした(私の探し方が悪いのかもしれませんが)。

非常に面白い性質を持った数なので、ぜひ日本語で紹介を残しておきたいと思い、今回の記事にまとめさせていただきました。


Wikipediaによると、デカルト数は互いに素な整数  m, p を用いて  n = mp と表される奇数であって、

 2n = \sigma(m)\cdot (1+p)

となるような数として定義されるそうです。

デカルトの見つけた  198585576189 の場合は

 \begin{align} m &= 3^2 \cdot  7^2 \cdot 11^2 \cdot 13^2 \\
p &= 22021 \end{align}

というわけですね。ここでもし  p = 22021 が素数であれば、 n = mp は完全数ということになりますが、実際は  p が素数ではないものを許容しようということです。このような  p を 'spoof' prime('spoof' は「なりすまし」や「だまし」の意)というわけですね。

198585576189は、デカルト数の一例ということになります。


現在まで、デカルト数の条件を満たす例は、'spoof' primeが負の数になるもので

 3^4\cdot 7^2 \cdot 11^2 \cdot 19^2 \cdot (−127)

が見つかっています。実は、これ以外には見つかっていない そうです。


元ネタとOdd, spoof perfect factorizations

今回の話を知ったのは、じゃいろさんの次のツイートでした。

大変面白い話をご紹介いただいてありがとうございます。


じゃいろさんが言及している研究は、2020年6月20日に投稿されています。(最近ですね!)

tsujimotterは論文の内容をまだちゃんと理解できていませんが、デカルト数より一般化されたセッティングの元、非自明なOdd, spoof perfect factorizationsを見つける研究のようです。面白そうですね!


それでは、今日はこの辺で!