こんにちは、日曜数学者のtsujimotterです。
今日は ヴェイユ予想 と呼ばれる大定理を紹介します。
ヴェイユ予想は、一見すると抽象的な代数幾何の定理ですが、その出発点は「mod p での解の個数」という素朴な問いです。
ところが答えを追ううちに、複素数上での方程式の「形」が関わってくる、というまさに壮大な物語です。
最終的には、具体的に方程式の解の個数を評価する不等式にまでたどり着きます。
ぜひ最後までお付き合いください!

お久しぶりです。
今日のテーマは、平方剰余の相互法則の証明についてです。
平方剰余の相互法則を最初に証明したのはガウスです。
彼はこの定理を「黄金定理」と呼ぶほど大切にしており、生前に6つ、没後に発表されたものも含めて7つの異なる証明を与えました。これらは「第Ⅰ証明」から「第Ⅶ証明」と呼ばれています。
このブログでも以前から、平方剰余の相互法則に関する話題を取り上げてきました。
たとえば、証明に関しては
などです。
私自身もこの定理が好きで、特に類体論との関わりから第Ⅵ証明を中心に勉強してきました。
一方で、それ以外の証明にはあまり注意を払っておらず、以前に読んだときもどうも腑に落ちない部分が多かったのです。
しかし最近になって、「どうせ一度の人生だし、全ての証明を理解してみたい」と思い立ち、改めて読み直してみました。すると、一度理解してしまえば案外わかりやすく、しかもとても面白いことがわかりました。
なかでも 第Ⅲ証明 は、そのシンプルさからウェブ上でも多く解説されています。そのため、自分が取り上げる必要はないと思っていたのですが、実際に理解してみると「これは面白い!」と感じる部分がありました。その魅力をぜひ紹介したいと思います。
というわけで、今回のブログでは 平方剰余の相互法則の第Ⅲ証明 の概略を紹介します。
正確に言うと、ここで扱うのはガウスの第Ⅲ証明そのものではなく、後に平易化された証明です。
参考にしたのはこちらの本です:
続きを読むシュリニバーサ・ラマヌジャンといえば、インドの魔術師の異名を取る数学者で、魔術的な数式をたくさん発見していることで知られています。
ラマヌジャンは円周率 についても多様な式を発見しています。その発見の一つとして
という近似式をご存知の方は多いと思います。
この近似式の精度は驚くほどよいのですが、右辺を計算してみると
となります。下線部が円周率と一致していますが、なんと 小数点以下8桁 まで一致しています。
有名な円周率の近似式として
などの式がありますが、これらと比べてもかなり精度が高いことが分かります。
(前者は「約率」、後者は「密率」という名前がついています。)
この や
については、後で述べるように 連分数展開 がその背景にあります。
一方で、ラマヌジャンの円周率近似式については特に数学的な背景もなさそうで、単なる偶然の産物だろうと思っていました。
(ラマヌジャンは偶然の産物を見つけるのも得意です。)
ところがなんと、ラマヌジャンの円周率近似式にも数学的な背景があった ようなのです。しかも、( や
と同じく)連分数展開が背景にあった ようなのです。これが今日のメインテーマです。
また、記事の最後には、今回の方法を応用した類似の近似式を見つける方法についても書いています。
とても面白いのでぜひ最後まで読んでいただければと思います!
続きを読む今回は「循環小数」の奥深い世界にご招待します。
これまでtsujimotterのノートブックでも何度か取り上げてきたテーマですが、循環小数は一見高校生にも馴染みのある素朴な存在です。しかし、その背後には大学数学の群論という、抽象でありながらも美しい理論が広がっています。
実は、群論の知識をひとたび手にすると、循環小数の見え方が劇的に変わり、より深い魅力に気づくことができるのです。題して
というわけです。
本記事では、巡回群や 、剰余群といった群論の用語が登場します。これらに少しでも触れたことがある方なら、より一層楽しんでいただけるでしょう。もちろん、群論に不慣れな方でも、循環小数という身近な題材を通じて「数学ってこんな風に深いんだ」と感じるきっかけになれば幸いです。
具体的には、
といった循環小数の計算例からスタートし、その魅力をひも解いていきます。
こういう図や
こういう図
が登場します。
ぜひ最後までご覧になってください。
続きを読む早速ですが、前回書いた記事の続きです。
前回は「 の下2桁はいくつか」という問題を考えました。
tsujimotter.hatenablog.com
この問題は「 における
」を計算すればよく、さまざまなアプローチにより
と計算できるのでした。
ところで、この という数は 自己同型数 でもあるのでした。
自己同型数(Automorphic number)とは、ある が存在して
が成り立つ のことです。
要するに、二乗した数と元の数の下 桁が一致する数(二乗して元に戻ってしまう数)というわけですね。
のとき
の場合、自己同型数は
の4つだけであることが知られています。
そんなわけで が自己同型数であることがわかったわけですが これは偶然なのか を考えたいと思います。これが今日のテーマです。
ところで、前回は を考えましたが、考えてみると20乗の段階で
なのでした。よって以降は が自己同型数であるのはなぜかという点について考えたいと思います。
お久しぶりです。tsujimotterです。
今日考えたいテーマは、横山明日希さんのこちらの問題です:
文字数が少ない問題作りました。ちょっとだけ工夫して解ける問題ですが、地道に計算してもよいかもしれません。 pic.twitter.com/CYh0ZZ7O43
— 横山 明日希 (@asunokibou) 2025年2月18日
念の為、こちらにも問題文を掲載しておきます:
中学・高校数学レベルでも解けそうな問題ですが、考えてみると面白そうだなと思いました。色々なアプローチで挑んでみたいと思います。
この問題は要するに を計算せよということです。
tsujimotterのノートブックでは、以前べき乗する基数 が法
と互いに素な場合の問題を扱いました。
tsujimotter.hatenablog.com
しかし、今回は が法
と互いに素ではない点がポイントです。
このブログのウリの一つは「素朴な問題を大学数学を使って考える」ことだと思います。
今回も簡単なものから難しいものまで 7通り の解法を紹介したいと思います。
ぜひ最後までお楽しみください!
学生の研究指導をしている中で、こんな問題に行き当たりました。
色々考えているうちに、自分の中で整理は出来てきたのですが、このような整理でよいのかどうか自信が持てずにいます。
(私が知らないだけで、定番っぽい問題な気もするのですが・・・)
なお、この問題は学生の研究の本題とは直接関係ありませんので、その点はお気になさらず。
頂点集合 の完全グラフ
を考えます。頂点数はさして問題ではないので一般に
としておきます。
各辺には距離 が設定されています。
頂点 から頂点
へと条件付き確率
で遷移することを考えます。初期状態
は確率
で決まります。
から初めて、頂点間を
ステップ遷移することを考えたとき、そのパスの距離の総和は期待値は?
という問題です。
複雑な計算になりそうなので、 あたりから計算してみます。
のとき:
で確率
で頂点
が選ばれます。
そこから のとき、頂点
に条件付き確率
で遷移します。
したがって、確率 でパス
を通ります。そのパスの距離は
なので、パスの距離の総和の期待値は
のとき:
で確率
で頂点
が選ばれます。
のとき、頂点
に条件付き確率
で遷移します。
のとき、頂点
に条件付き確率
で遷移します。
したがって、確率 でパス
を通ります。そのパスの距離は
なので、パスの距離の総和の期待値は
このまま続けていくと、どんどん変数が増えて大変なので、次のように書き換えます:
一般に ステップ遷移した際のパスの距離の総和の期待値は
となります。
・・・たぶんこれでいいと思うんですが、もうちょっとすっきりしないですかね?
と、ここまで考えて、もうちょっと整理できそうな気がしました。
今考えている問題は、長さ のパス
の距離の総和の期待値を考える問題でした。
パス の生起確率を
とすると、これは
です。そのパス の距離の総和を
で表すと、これは
となります。
以上から、長さ のパスの距離の総和の期待値は
ただし、総和記号は長さ のパス
をわたる。と単に表してもよさそうです。
グラフィカルモデルとか、そういう文脈でこういう問題たくさん出てきそうな気がするんですが、どうやって表すんですかね?
知っている方がいましたら教えてください。