tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

(987654321-1)/(123456789+1) がちょうど 8

最近、タイムラインで

 \displaystyle \frac{987654321}{123456789} \fallingdotseq 8

という話をよくみかけます。とても面白い現象ですね。


この問題については、id:egory_cat さんのブログにて、一般の  n 進法に対して証明が与えられています。
egory-cat.hatenablog.com


ブログを拝見させていただきましたが、とても面白かったです!


要するに、分子の数  987654321

 \displaystyle f(n) = \sum_{k=1}^{n-1} k n^{k-1}

に対して  n = 10 を代入した数であり、分母の数  123456789

 \displaystyle g(n) = \sum_{k=1}^{n-1} (n-k) n^{k-1}

に対して  n = 10 を代入した数であり、これらの比

 \displaystyle \frac{f(n)}{g(n)}

の小数部分が十分小さな値となることを示せるわけですね。



一方で、Twitter上でこんなツイートも見かけました:

なるほど、上の記号を用いて

 \displaystyle \frac{f(10)-1}{g(10)+1} = 8

が成り立つと言うわけですね。これは面白い。


この関係から、一般の  n 進法において

 \displaystyle \frac{f(n)-1}{g(n)+1} = n-2

が成り立つことを示唆されますが、これは成り立つのでしょうか。


その答えはイエスです!

一般の  n で成り立ちますので、実際に証明してみましょう!


id:egory_cat さんの記事より

 \displaystyle f(n) = \frac{(n-2)n^n + 1}{(1-n)^2}
 \displaystyle g(n) = \frac{n^n - (n^2 - n + 1)}{(1-n)^2}

が成り立ちますので、これを使って変形しましょう。

 \displaystyle \begin{align} f(n) - 1 &= \frac{(n-2)n^n + 1}{(1-n)^2} - 1\\
&= \frac{(n-2)n^n + 1 - 1 + 2n - n^2}{(1-n)^2} \\
&= \frac{(n-2)n^n + 2n - n^2}{(1-n)^2} \\
&= \frac{n(n^n - n) + 2(n^n - n)}{(1-n)^2} \\
&= \frac{(n^n - n)(n-2)}{(1-n)^2} \end{align}

 \displaystyle \begin{align} g(n) + 1 &= \frac{n^n - (n^2 - n + 1)}{(1-n)^2} + 1\\
&= \frac{n^n - (n^2 - n + 1) + 1 - 2n + n^2}{(1-n)^2} \\
&= \frac{n^n - n}{(1-n)^2}  \end{align}


したがって

 \displaystyle \frac{f(n) - 1}{g(n) + 1} =  \frac{(n^n - n)(n-2)}{(1-n)^2} \cdot \frac{(1-n)^2}{n^n - n} = n-2

となり、綺麗に  n-2 だけが残りましたね!

元の問題に立ち返ってみると、この式の分母を「ちょっと小さく」して、分子の方を「ちょっと」大きくすると、 n-2 より少しだけ大きな値になるというわけなんですね。

いやー、数学ってうまいことできていますね!!




これで証明は完了しましたが、少し疑問が残りました。この結果って、定義に戻って考えると

 \displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} k n^{k-1} - 1 = (n-2) \left(\sum_{k=1}^{n-1} (n-k) n^{k-1} + 1\right)

ということを表しているわけですよね。これって級数のままで証明できたりしないでしょうか。

もし思いついた方がおられましたら、コメントで教えていただけるとうれしいです。


それでは今日はこのへんで!
(とても楽しい記事を公開してくださった id:egory_cat さんに感謝です!)


追記

最後の

 \displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} k n^{k-1} - 1 = (n-2) \left(\sum_{k=1}^{n-1} (n-k) n^{k-1} + 1\right)

という式ですが、直接証明する方法をOTTYさんから教えていただきました。許可をいただきましたので、転載させていただきます。


 f(n), g(n) に加えて、 h(n) を次のように定義します。

 \displaystyle h(n) = \sum_{k=1}^{n-2} (n-k-1)n^{k-1}

これは  n = 10 と代入すれば、 h(10) = 12345678 となります。つまり、 g(n) の最後の桁だけ抜いた数というわけですね。


ここで、次のような関係が成り立ちます:

 \displaystyle f(n) + h(n) = (n-1) \sum_{k=1}^{n-1} n^{k-1} \tag{1}
 \displaystyle g(n) - h(n) = \sum_{k=1}^{n-1} n^{k-1} \tag{2}
 \displaystyle g(n) - n h(n) = n-1 \tag{3}

 (1), (2), (3) はそれぞれ

 \displaystyle 987654321 + 12345678 = 999999999 \tag{1'}
 \displaystyle 123456789 - 12345678 = 111111111 \tag{2'}
 \displaystyle 123456789 - 123456780 = 9 \tag{3'}

と対応しています。


これらを使うと、次のように目的の式が得られます:

 \displaystyle \begin{align} f(n) - 1 &= (n-1)\sum_{k=1}^{n-1} n^{k-1}  - h(n) - 1 \\
&= (n-1) (g(n) - h(n)) - h(n) - 1 \\
&= (n-1) g(n) - n h(n) - 1 \\
&= (n-2) g(n) + g(n) - n h(n) - 1 \\
&= (n-2) g(n) + (n-1) - 1 \\
&= (n-2) (g(n) + 1) \end{align}


面白いですね!!

OTTYさんありがとうございます!