tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

センター試験2018 数学Ⅰ・数学A 第4問

2018年のセンター試験の問題が気になって 数学Ⅰ・A だけ解いてみました。どれもなかなか面白い問題だったのですが、特に 第4問 が個人的に面白かったので、今日はその問題の解説をしたいと思います。

諸注意:
本ブログ記事は、日曜数学者 tsujimotter が趣味で勉強した内容を発表するブログ記事であり、受験生向けの解説記事ではありません。「センター試験の問題を遊びで解いてみた」という程度の内容となっておりますので、予めご了承ください。


センター試験 数学Ⅰ・数学A 第4問

第4問は 「整数の性質」 を扱う問題です。ここ3年ほどは、第4問は整数問題で固定のようですね。

問題自体は「センター試験 数学」等で検索すれば、予備校が公開している問題(と解答)の情報にアクセスできるかと思います。私が参考にしたのは、東進さんのサイトです。
www.toshin.com

私の解説を読む前に、まずは問題文をご一読ください。ご自身で解いてみてもいいかもしれません。

それでは、準備ができたら解説にいきましょう。

(1) 144 を素因数分解すると・・・

まずは問題文から。カタカナの「 アイウエオ」が解答箇所です。それぞれ、 0 \sim{} 9 の数字が1文字ずつ入ります。

(1)  144 を素因数分解すると

 144 = 2^{ア}\times イ^ウ

であり, 144 の正の約数の個数は  エオ 個である。


最初の問題は素因数分解の問題ですね。受験生にとってはどうかわかりませんが、日頃、素数大富豪で素因数分解に親しんでいる人*1 にとっては楽勝だったのではないでしょうか。

素因数分解が即座に思い浮かばなければ、 144 12 2 であることを思い出すとよいでしょう。 12 = 2^2 \times 3 より、以下が得られます。

 144 = 12^2 = (2^2 \times 3)^2 = 2^4 \times 3^2

よって、 ア = 4, イ = 3, ウ = 2 となります。

ちなみに、 20 以下の自然数の  2 乗は次の通りです。こんな問題が出たときのために覚えておくと良さそうですね。

 1^2 = 1
 2^2 = 4
 3^2 = 9
 4^2 = 16
 5^2 = 25
 6^2 = 36
 7^2 = 49
 8^2 = 64
 9^2 = 81
 10^2 = 100
 11^2 = 121
 12^2 = 144
 13^2 = 169
 14^2 = 196
 15^2 = 225
 16^2 = 256
 17^2 = 289
 18^2 = 324
 19^2 = 361
 20^2 = 400


残りの問題は、 144 の正の 約数 についてです。約数とは、その数を割り切る整数のことですから、順番に割っていけばいいですね。とはいえ、 1 から  144 まで割り続けていくのも大変ですから、もっとスマートな方法が必要になります。ここでは、先ほどの素因数分解の結果を使います。

約数に慣れている人は、以下の重要な性質を知っているかと思います。思い出せなかった人は、ぜひここで覚えていってください。

約数の和の性質
自然数  n
 n = p^a q^b r^c \cdots

と素因数分解できるとき, n の約数は

 (1 + p + p^2 + \cdots + p^a) \times (1 + q + q^2 + \cdots + q^b) \times (1 + r + r^2 + \cdots + r^c) \times \cdots

の式を展開したときの項として,すべて1度ずつ現れる.


今回の  144 144 = 2^4 \times 3^2 と表せますから、その約数は

 (1 + 2 + 2^2 + 2^3 + 2^4) \times (1 + 3 + 3^2) \tag{1}

の式を展開したときの項として現れます。たとえば、 24 = 2^3 \times 3 144 の約数ですが、上の式の  2^3 3 を掛け合わせた項として現れますね。もちろん、素因数分解の一意性より、ほかの組み合わせでは   24 が現れないことに注意しましょう。

求めるべきは、 144 の約数の項数ですから、式  (1) を展開したときの項数を数えれば良いとわかります。これは実際に展開して数えなくとも

 (式(1)) = (5項) \times (3項)= (15項)

より、 15 項とわかります。よって、正の約数の個数は  エオ = 15 となります。

(2) 不定方程式

それでは次の問題です。カタカナの「 カキクケコサシ」にそれぞれ、 0 \sim{} 9 の数字を1文字ずつ入れてください。

(2) 不定方程式

 144x - 7y = 1

の整数解  x, y の中で, x の絶対値が最小になるのは

 x = カ, \;\; y = キク

であり,すべての整数解は, k を整数として

 x = ケk + カ, \;\; y = コサシk + キク

と表される。

この問題のテーマは 「1次不定方程式」 です。すなわち、1次の方程式の整数解を求める問題です。力づくで  x, y に整数を入れていってもそれなりの時間で解を求めることもできますが、今回は最大公約数 に着目した方法を紹介します。

後から気づいたのですが、今回の問題であれば実際に力づくで入れていった方が早く計算できそうです。以下の方法は、(今回の問題に対しては)少し時間がかかるかもしれませんが、私のお気に入りの方法なのでぜひ紹介させてください。

今回の方程式の定数は  144, 7 です。この2つの数の最大公約数は、後で計算するように  1 となります。この場合は、 x, y に適当な整数を入れると  1 にすることができるのです。

一方で、 4, 6 のように、どちらも約数  2 を持つ場合には、そうはいきません。 4x - 6y x, y にどんな整数を入れても  2 の倍数にしかならないからです。このことは

 4x - 6y = 2\times (2x - 3y)

と変形すればすぐにわかります。 2 \times (整数) となり、これは偶数ですから、明らかに  1 に一致しません。


というわけで、 144, 7 の最大公約数  (144, 7) を計算することにしましょう。一般に  a, b の最大公約数  (a, b) には

 (a, b) = (a - b, b)

という重要な性質があります。これを使うと、大きな数同士の最大公約数を小さい数同士の最大公約数に帰着させることができます。最終的には、これ以上引き算できないところに到達して、最大公約数が求まります。

このような計算を 「ユークリッドの互除法」 といいますね。仰々しい名前がついていますが、臆することはありません。互いに互いを引き算しあって、残ったものが最大公約数であるというだけのことです。

 (144, 7) の計算は以下のように実行できます。

 \begin{align} (144, 7) &= (4, 7) \\
&= (4, 3) \\
&= (1, 3) \\
&= 1 \end{align}

1行目では、 144 から  7 20 回引き算しています。2行目では、 7 から  4 を引き算しています。3行目では、 4 から  3 を引き算しています。最後に  1, 3 が残りましたが、両者の最大公約数は明らかに  1 とわかりますね。

今の式変形を明示的に書き直すと次のようになります。

 \require{color} \newcommand{\a}{{\color[rgb]{1.000000,0.0,0.0}144}} \newcommand{\b}{{\color[rgb]{0.000000,0.501961,0.000000}7}} \newcommand{\c}{{\color[rgb]{0.000000,0.501961,1.000000}1}} \begin{align} \a &= 20\times \b  + 4 \\
\b &= 4 + 3 \\
4 &= 3 + \c \end{align} \tag{2}


さて、このように準備しておくと、驚くべきことに、元の1次不定方程式

 \a x - \b y = \c

があっという間に解けるのです。やってみましょう。

 (2) の一番下の式は

 4 - 3 = \c

とかけます。右辺の  \c ができたので、左辺の  4, 3 \a, \b を使って表したい。

ちょうどよい具合いに  4 は式  (2) の一番上で、 3 は式  (2) の真ん中の式で表せていることに気づきます。これらをそれぞれ「代入」しましょう。

 (\a - 20 \times \b) - (\b - 4) = \c

また  4 が出てきましたので、もう一度式  (2) の一番上を代入します。すると

 (\a - 20 \times \b) - (\b - (\a - 20 \times \b)) = \c

が得られます。

これで、 4, 3 \a, \b を使って表すことができました。あとは、式を展開すればよいわけですが、気をつけるポイントがあります。それは、「数を文字変数と思って式変形する」ということです。

多項式であれば、 X, Y 等を文字変数と思って式変形することには慣れているかと思います。それと同じことを、 \a \b を文字変数だと思って実行するのです。 \a \b は文字変数だと思っているので、それ自身を変化させるような計算をしてはいけません。


以上に気をつけると

 \begin{align} &(\a - 20 \times \b) - (\b - (\a - 20 \times \b)) \\
&\a - 20 \times \b - \b + \a - 20 \times \b \\ 
&\a + \a - 20 \times \b - 20 \times \b - \b \\ 
&= 2\times \a - 41 \times \b \end{align} \tag{3}

となり

 2\times \a - 41 \times \b = \c

が得られます。以上により、1次不定方程式  \a x - \b y = \c の整数解  x = 2, y = 41 を得ることができました。


勢いで  カキク の答えを書いてしまいそうになりますが、一旦落ち着いて問題文を見直しましょう。問題には「 x の絶対値が最小になるのは」とあります。不定方程式の解は1つではないのです。


ここで「むっ」っと上の式を睨みつけてみると

 (2 + \b)\times \a - (41 + \a) \times \b = \c

という式も成り立つことがわかります。左辺の1項目と2項目から出てくる  \a \times \b が互いに打ち消しあうためです。また、同様に  k を整数として

 (2 + \b k)\times \a - (41 + \a k) \times \b = \c \tag{4}

としても等式が成り立つことがわかるでしょう。実はこの式  (4) が不定方程式の一般解となります。

一般解のうち  2 + \b k の絶対値が最小となるのは  k=0 のときですから、今回はたまたま  x = 2 としてよかったわけですね。よって、 カ = 2, \;\; キク = 41 が得られました。さらに式  (4) より  ケ = 7, \;\; コサシ = 144 も得られました。


これで不定方程式一丁あがりです。

(3) 144 の倍数で・・・

特に面白かったのは次の問題 (3) です。ここまで、 144 の素因数分解(問題 (1))と  144, 7 に関する不定方程式の一般解(問題 (2))を求めてきたわけですが、問題 (3) で両者が結びつきます。センター試験の作問者の意図に気付いたとき、私は感激して問題を解くどころではありませんでした。

それでは、問題にいきましょう。カタカナの「 スセソ」にそれぞれ、 0 \sim{} 9 の数字を1文字ずつ入れてください。

(3)  144 の倍数で, 7 で割ったら余りが  1 となる自然数のうち,正の約数の個数が  18 個である最小のものは  144 \times ス であり,正の約数の個数が  30 個である最小のものは  144 \times セソ である。

この問題には、先ほど求めた式  (4) が役に立ちます。式  (4) を移行すると

 (2 + 7 k)\times \a =  (41 + 144 k) \times \b + \c \tag{5}

となります。この式を素直に解釈すると

  • 左辺は  \a の倍数
  • 右辺は  \b で割ったら  \c あまる数

となっています。一次不定方程式の解の一般性から、上記2つの条件を満たす自然数は  k を動かすことで、すべて列挙できることもわかっています。この事実を使って、 k を動かしつつ、所与の数を探していけばいいことになります。

見つけたい数は「約数の個数が  18 個である最小のもの」と「約数の個数が  30 個である最小のもの」でした。さらに、左辺  144 の約数の個数は  5 \times 3 = 15 個であることもわかっています。この事実を使って、目的の数を見つけるにはどうすればよいでしょうか。


ここで再度登場するのが、(1) で使った「約数の和の性質」です。再掲しましょう。

約数の和の性質(再掲)
自然数  n
 n = p^a q^b r^c \cdots

と素因数分解できるとき, n の約数は

 (1 + p + p^2 + \cdots + p^a) \times (1 + q + q^2 + \cdots + q^b) \times (1 + r + r^2 + \cdots + r^c) \times \cdots

の式を展開したときの項として,すべて1度ずつ現れる.

まず、約数の個数  18 の方からいきましょう。 144 に「ある数」をかけて約数を  15 個から  18 個にしたいわけです。もともとの  144 144 = 2^4 \times 3^2 と素因数分解されるので、約数の個数は  15 = 5 \times 3 だったわけです。たとえば  2 をかけて  2^5 とすれば、約数の個数は  6 \times 3 = 18 となりますね。

これで、条件を満たす数が一つ見つかってしまったわけですが、一応他の可能性も考えましょう。 18

  •  18 = 18 \times 1 2 の指数が  17 3 の指数が  0
  •  18 = 9 \times 2 2 の指数が  8 3 の指数が  1
  •  18 = 6 \times 3 2 の指数が  5 3 の指数が  2

のように表せますが、 144 に因数  3^2 がある以上、上の二つのパターンはありえませんね。したがって、 18 = 6 \times 3 のパターンだけを考えれば十分です。よって

 (2 + 7 k)\times 144

としたときの  2 + 7k として「 2 を素因子として持ち」「その指数は  1 であり」かつ「ほかの素因子を持たない」ものを考えればよいとわかります。こんな  2 + 7k 型の数は  2 だけですね。したがって、 ス = 2 とわかります。

次に、約数の個数  30 の方ですが、こちらは以下のパターンが考えられます。

  •  30 = 10 \times 3 2 の指数が  9 3 の指数が  2
  •  30 = 6 \times 5 2 の指数が  5 3 の指数が  4
  •  30 = 5 \times 6 2 の指数が  4 3 の指数が  5
  •  30 = 5 \times 3 \times 2 2 の指数が  4 3 の指数が  2 2, 3 以外の素因子  p の指数が  1

これらは条件としてはありえるものなので、あとはこのパターンの中から最小のものを探す必要があります。

まずは、探しやすい一番下のパターンから考えます。 2 3 の指数は  144 の指数に一致します。したがって、 2 + 7k となる数であって、 2, 3 以外の素数を探せば良いことになります。 2 + 7k 型の自然数を列挙すると

 2, 9, 16, \textbf{23}

となり、この中で素数  23 が一番下のパターンに合致します。あとは、 2, 9, 16 が上記の他のパターンに合致しないことを示せばよいことになります。

 2 \times 144 は約数が  18 個だとわかっているので却下。 9\times 144 = 2^4 \times 3^4, \; 16 \times 144 = 2^8 \times 3^2 は、いずれのパターンにも合致しないので却下。よって、 セソ = 23 となります。


これにて完答です。お疲れ様でした!

おわりに

最後に、今回の問題を振り返ってみましょう。

  • (1) 「約数の和の性質」を使って  144 の素因数分解を求めた
  • (2) 「ユークリッドの互除法」を使って不定方程式  144x = 7y +1 の一般解を求めた
  • (3) (2) の式と (1) の素因数分解を使って、ある約数の個数を持つ「 144 の倍数」かつ「 7n+1 型」である自然数を求める

(2) で求めた不定方程式の一般解を、(3) の問題の条件を満たす自然数の列挙に使うことができるというのが非常に面白かったですね。なるほどそんな使い方があったかと感心しました。

センター試験は誘導がきっちりしていることで知られていますが、ここまで綺麗にはまっているのはすごいなと思います。本当によく練られていますね。


ところで、ここまで偉そうに解説してきたtsujimotterですが、実は今回の数Ⅰ・Aの点数はたったの 47 点 でした。おまけに時間切れで第4問に到達する前に終わってしまったので、第4問の点数は 0 点です。笑

大問4つを1時間で解かなきゃいけないなんて受験生は本当に大変ですね。。。でもいいんです。我々は趣味で数学をしているわけですから、点数が取れなくたって楽しめればいいんです。

センター試験の問題にチャレンジしたおかげで、こんな面白い問題に出会えて私は大満足です (本当はかっこよく 100 点とりたかったけど 笑)


それでは今日はこの辺で。

*1: