tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

(自由研究)面白い二重根号と「単数」を使った外し方

高校数学で習った「二重根号」を覚えていますでしょうか。たとえば

 \sqrt{4 + 2\sqrt{3}}

のように、根号の中に根号が入れ子になっている式を 二重根号 といいます。


上の二重根号は一見複雑な式に見えますが、実は次のように考えることで「ただの平方根」であることがわかります。

 \sqrt{4 + 2\sqrt{3}} =  \sqrt{(\sqrt{3} + 1)^2} = \sqrt{3} + 1 \tag{1}

不思議なことに、二重だった平方根が「解けてしまう」というのですね。


一般に

 (\sqrt{a} \pm \sqrt{b})^2 = a+b \pm 2\sqrt{ab} \tag{2}

が成り立つので

 \sqrt{(a+b) \pm 2\sqrt{ab}}

という形の二重根号はすべて解けてしまうわけですね。( a = 3, \; b = 1 とすれば、式  (1) が得られます。)



さて、今日紹介したい 面白い二重根号 は、三乗根が入った次の式です:

 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7}

一見、複雑な二重根号なので、これ以上簡単になりそうにないのですが、実はこの二重根号も解けてしまうのです。一体どんな感じになるのでしょうか?

自分で考えたい人は少しストップして考えてみてください。













それでは、答えを発表します。






答えは

 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7} = \sqrt{2} - 1 \tag{3}

です。びっくりするぐらい簡単になりましたね。

事前に「二重根号が解けること」を知らなかったら、そもそもこの変形を試みようと思わなかったのではないでしょうか。式  (3) はそれぐらい非自明に見える関係式だと思います。


一般的な解き方を詳しくは説明しませんが、簡単にいうと

 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7} = a + b\sqrt{2}

とおいて両辺を三乗し、 \sqrt{2} 1 の係数を比較すれば良いわけですね。


さて、実はこの根号の外し方については、結構いろんなサイトに載っています。そのため、解説はそちらにおまかせしようかと思っています。

batapara.com

science-log.com


今回私がこの問題を取り上げた理由は、私が思いついた 別解 を紹介したいからです。

実二次体の単数 を背景とした解法を考えてみたいと思います。


別解

実二次体  K = \mathbb{Q}(\sqrt{2}) を考えます。 K の元の中で、特に  K 内の代数的整数(最小多項式がモニックな整数係数多項式であるもの)全体の集合を  K整数環といい、 \mathcal{O}_K で表すことにします。二次体の一般論により、 \mathcal{O}_K = \mathbb{Z}[\sqrt{2}] となります。

 \mathcal{O}_K の可逆元を  K単数と言います。すなわち  \varepsilon \in \mathcal{O}_K \varepsilon^{-1} \in \mathcal{O}_K でもあるとき、 \varepsilon K の単数というわけですね。 K の単数全体のなす乗法群を   K単数群といい、 \mathcal{O}_K^\times で表すことにします。


さて、今回根号を外したい式

 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7}

の根号の中身  \varepsilon = 5\sqrt{2} - 7 が、実は実二次体  K = \mathbb{Q}(\sqrt{2}) の単数であるというのが着眼点です。すなわち

 5\sqrt{2} - 7 \in \mathbb{Z}[\sqrt{2}]^\times

ということです。


 \varepsilon = 5\sqrt{2} - 7 が単数であることは次のように示せます。

まず、明らかに  \varepsilon \in \mathbb{Z}[\sqrt{2}] です。また、 \varepsilon^{-1}

 \displaystyle \varepsilon^{-1} = \frac{1}{5\sqrt{2} - 7} = \frac{-5\sqrt{2} - 7}{(5\sqrt{2} - 7)(-5\sqrt{2} - 7)} = 5\sqrt{2} + 7 \tag{4}

ですから、 \varepsilon^{-1} \in \mathbb{Z}[\sqrt{2}] です。よって、 \varepsilon K の単数であることがわかりました。


 (4) 式の途中で、 5\sqrt{2} - 7 \sqrt{2} の符号をひっくり返した数  -5\sqrt{2} - 7 を掛け合わせる

 (5\sqrt{2} - 7)(-5\sqrt{2} - 7) = -1 \tag{5}

という計算が出てきました。これを  5\sqrt{2} - 7ノルムといい、 N(5\sqrt{2} - 7) = -1 と表します。

ノルムが  \pm 1 であることと、可逆元であることは同値です。そのため、ノルムを使って可逆元の判定をすることもできます。


また、ノルムの計算式の左辺を展開すると

 7^2 - 2\times 5^2 = -1 \tag{6}

となりますが、ペル方程式   x^2 - 2y^2 = \pm 1 の解が  (x, y) = (7, 5) であると見ることができます。すなわち、ペル方程式の解と実二次体の単数が対応するわけですね。色々な見方ができて面白いですね。
tsujimotter.hatenablog.com

ペル方程式の視点で捉えると、 \frac{7}{5} \sqrt{2} の連分数近似になっているので、そこから  5\sqrt{2} - 7 \mathbb{Z}[\sqrt{2}] の単数であることが見抜けるかもしれません。
(このような視点は、@oborateratus さんに教えていただきました。)



以上から今回の問題は、次のように言い換えることができます。

問題
与えられた実二次体  \mathbb{Q}(\sqrt{2}) の単数  \varepsilon について
 \sqrt[3]{\varepsilon} = \alpha \tag{7}

を満たす  \alpha \in \mathbb{Z}[\sqrt{2}] を見つけよ。



ここで、実二次体の単数群の構造を考えたい というモチベーションがでてきます。

実二次体  K では、次のような事実が知られています。

定理(実二次体の単数群の構造)
 K を実二次体とし、 \varepsilon_0 \in \mathcal{O}_K^\times K基本単数とする。このとき、任意の単数  \varepsilon
 \varepsilon = \pm \varepsilon_0^{n} \;\;\;\; (n \in \mathbb{Z}) \tag{8}

のように一意的に表せる。すなわち

 \mathcal{O}_K^\times \simeq \{\pm 1\} \times \mathbb{Z} \tag{9}

である。


今回考えたい実二次体  K = \mathbb{Q}(\sqrt{2}) の基本単数は  \varepsilon_0 = 1+\sqrt{2} であることが分かっています。式  (8) より

 5\sqrt{2} - 7 = (1+\sqrt{2})^n \tag{10}

が成り立ちます。したがって、これを満たす  n を見つけて、 n が3の倍数であれば三乗根が取れる ということになりますね。



 n を見つけるためには対数をとればよいでしょう。式  (10) の両辺に対して  \log をとると

 \displaystyle n = \frac{\log( 5\sqrt{2} - 7 )}{\log(1+\sqrt{2})} \tag{11}

となりますが、数値計算すると右辺はだいたい  -3 となります。よって、 n = -3 であることがわかります。

したがって

 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7} = (1+\sqrt{2})^{-1} = \sqrt{2} - 1 \tag{12}

がわかるというわけですね!



 \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) の例

上では実二次体を扱いましたが、もっといろんなケースでも同じような方針が適用できそうだと 考えました。

たとえば

 \displaystyle  \sqrt[3]{\frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2}} \tag{13}

のような二重根号について考えてみましょう。

実はこの根号も外せるのですが、ぱっと見ではなかなか分からないですね。


この問題も  \varepsilon = \frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2} がとある代数体の単数であることがポイントです。

今回考えたいのは  K = \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) という体です。これは双二次体と呼ばれる体なのですが、その中でも特に総実体(虚埋め込みが存在しない)であることに注意します。


 K の整数環は簡単ではありません。

結論から言うと、 \alpha = \frac{\sqrt{6} - \sqrt{2}}{2} として、 \mathcal{O}_K = \mathbb{Z}[\alpha] となります。  \mathbb{Z}[\sqrt{6}, \sqrt{2}] ではないところなど、まったくもって非自明ですね。


ちなみに、この結果はnishimuraさんという方に教えていただいた次のサイトで調べました:

LMFDB - Number field 4.4.2304.1: \(\Q(\sqrt{2}, \sqrt{3})\)


左側のタブの "NumberField" を選択して、「4次拡大」「 x^2 - 6 の根を含む」などの条件を付加していくと見つけられます。

また、 \alpha の最小多項式が  x^4 - 4x^2 + 1 であり、 \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) = \mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3}) = \mathbb{Q}(\alpha) であることに注意しましょう。

 

 \varepsilon = \frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2} K の単数であることを示すために、代数的整数であることを示したいと思います。

 \varepsilon = \frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2} に対して、 \sqrt{6} を右辺に移項すると
 2\varepsilon + 265\sqrt{2} = 153\sqrt{6}

となります。両辺を二乗して

 4\varepsilon^2 + 4\cdot 265\sqrt{2}\varepsilon + 265^2 \cdot 2 = 153^2\cdot 6

となり、移項すると

 4\varepsilon^2 + 4\cdot 265\sqrt{2}\varepsilon - 4 = 0

より、きれいに  4 で割れます。

両辺  4 で割って、 \sqrt{2} を再度右辺に整理すると

 \varepsilon^2 - 1 = -265\varepsilon \sqrt{2}

となり、これを二乗すると

 \varepsilon^4 + 140450 \varepsilon^2 + 1 = 0

が得られ  \varepsilon がモニックな整数係数多項式の根であることがわかります。よって、 \varepsilon は代数的整数です。


また、ノルムを計算すると

 \displaystyle N(\varepsilon) = \frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2}\cdot \frac{153\sqrt{6} + 265\sqrt{2}}{2}\cdot \frac{-153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2}\cdot \frac{-153\sqrt{6} + 265\sqrt{2}}{2} = 1 \tag{14}

となり、単数であることもわかります。


根号の中身が  K = \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) の単数であることがわかったので、 \sqrt[3]{5\sqrt{2} - 7} のときと同じように、単数群の構造を考えたいと思います。そのために、少しだけ一般論を準備します、


一般に、代数体  K \mathbb{C} への実埋め込みの個数を  r_1、虚埋め込みの個数を  2r_2 とすると

 [K : \mathbb{Q}] = r_1 + 2r_2 \tag{15}

が成り立ちます。

今回の  K = \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) は、虚埋め込みが存在しないなので  r_2 = 0 であり、 r_1 = [K : \mathbb{Q}] = 4 となります。


代数体の単数群の構造はディリクレの単数定理によって調べることができます。

定理(ディリクレの単数定理)
 K を代数体とする。 K の単数群  \mathcal{O}_K^\times の構造は
 \mathcal{O}_K^\times \simeq \mu_K \times \mathbb{Z}^r \tag{16}

のように表せる。

ここで、 \mu_K K における1のべき乗根全体を表す位数有限な部分群である。また、 r は単数群のランクと呼ばれる非負の整数であり

 r = r_1 + r_2 - 1 \tag{17}

と表される。


今回の場合は、 K = \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) \subset \mathbb{R} なので  \mu_K = \{\pm 1\} となります。( \mathbb{R} 内の1のべき乗根は  \pm 1 だけ。)

また、 r_1 = 4, \; r_2 = 0 なので  r = 4 - 0 - 1 = 3 となります。よって、基本単数が  3 つ存在することになります。

上で紹介したサイトによれば、 K = \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) の基本単数は  \alpha = \frac{\sqrt{6} + \sqrt{2}}{2} を用いて

  •  \alpha
  •  \beta = \alpha^3 - 3\alpha - 1
  •  \gamma = \alpha^3  - \alpha^2 - 3\alpha + 2

と表されるそうです。(大変非自明ですね。。。)

これで  K = \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) の単数群  \mathcal{O}_K^\times の構造が完全に決定できました!


したがって、 \varepsilon = \frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2}

 \varepsilon = \alpha^{k} \beta^{l} \gamma^{m} \tag{18}

と一意的に表せるはずです。あとは  k, l, m を具体的に決定すれば良いですね。


具体的に決定する方法については、nishimuraさんに教えていただいた方法を紹介します。

まず、 \mathbb{Q}(\sqrt{6}, \sqrt{2}) のガロア群の元  \sigma_1 = id, \; \sigma_2, \; \sigma_3, \; \sigma_4 に対応する  \varepsilon, \alpha, \beta, \gamma の共役元をそれぞれ

 \varepsilon_1, \alpha_1, \beta_1, \gamma_1
 \varepsilon_2, \alpha_2, \beta_2, \gamma_2
 \varepsilon_3, \alpha_3, \beta_3, \gamma_3
 \varepsilon_4, \alpha_4, \beta_4, \gamma_4

としておきます。

また、式  (18) に対して

 \varepsilon = \alpha^{k} \beta^{l} \gamma^{m} e^n \tag{19}

のように、あえて1変数  n を増やします。 e はネイピア数で、 n = 0 とすれば式  (18) が成り立つので問題はないでしょう。

 (19) の共役をとった上で、両辺の絶対値をとると

 |\varepsilon_1| = |\alpha_1|^{k} |\beta_1|^{l} |\gamma_1|^{m} e^{n}
 |\varepsilon_2| = |\alpha_2|^{k} |\beta_2|^{l} |\gamma_2|^{m} e^{n}
 |\varepsilon_3| = |\alpha_3|^{k} |\beta_3|^{l} |\gamma_3|^{m} e^{n}
 |\varepsilon_4| = |\alpha_4|^{k} |\beta_4|^{l} |\gamma_4|^{m} e^{n}

が得られます。さらに  \log をとると、次の4式が得られます。

 \log|\varepsilon_1| = k \log|\alpha_1|  + l \log |\beta_1| + m \log |\gamma_1| + n \cdot 1
 \log|\varepsilon_2| = k \log|\alpha_2|  + l \log |\beta_2| + m \log |\gamma_2| + n \cdot 1
 \log|\varepsilon_3| = k \log|\alpha_3|  + l \log |\beta_3| + m \log |\gamma_3| + n \cdot 1
 \log|\varepsilon_4| = k \log|\alpha_4|  + l \log |\beta_4| + m \log |\gamma_4| + n \cdot 1

これで、未知変数  k, l, m, n に対して、4本の連立方程式が立式できました。

連立方程式を行列表示すると

 \begin{pmatrix} \log|\varepsilon_1| \\ \log|\varepsilon_2| \\ \log|\varepsilon_3| \\ \log|\varepsilon_4| \end{pmatrix} = 
\begin{pmatrix} \log|\alpha_1| & \log|\beta_1| & \log|\gamma_1| & 1 \\
\log|\alpha_2| & \log|\beta_2| & \log|\gamma_2| & 1 \\
\log|\alpha_3| & \log|\beta_3| & \log|\gamma_3| & 1 \\
\log|\alpha_4| & \log|\beta_4| & \log|\gamma_4| & 1  \end{pmatrix} \begin{pmatrix} k \\ l \\ m \\ n \end{pmatrix} \tag{19}

となります。あとは、この行列の逆行列を計算して掛け合わせれば

 \begin{pmatrix} k \\ l \\ m \\ n \end{pmatrix} = 
\begin{pmatrix} \log|\alpha_1| & \log|\beta_1| & \log|\gamma_1| & 1 \\
\log|\alpha_2| & \log|\beta_2| & \log|\gamma_2| & 1 \\
\log|\alpha_3| & \log|\beta_3| & \log|\gamma_3| & 1 \\
\log|\alpha_4| & \log|\beta_4| & \log|\gamma_4| & 1  \end{pmatrix}^{-1}  \begin{pmatrix} \log|\varepsilon_1| \\ \log|\varepsilon_2| \\ \log|\varepsilon_3| \\ \log|\varepsilon_4| \end{pmatrix} \tag{20}

となり、 k, l, m, n が決定できるというわけです。


さすがに、 4\times 4 行列の逆行列を手計算する気にはなれないので、プログラムを使いたいと思います。

unit_group.py · GitHub


数値計算を実行してみると

 k = -9, \;\; l = 0, \;\; m = 0, \;\; n = 0 \tag{21}

であることがわかります。よって

 \displaystyle \frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2} = \left(\frac{\sqrt{6}+\sqrt{2}}{2}\right)^{-9} = \left(\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}\right)^9 \tag{22}

であることがわかりました

あとは、三乗根をとれば

 \displaystyle \sqrt[3]{\frac{153\sqrt{6} - 265\sqrt{2}}{2}} = \left(\frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{2}\right)^3 = \frac{3\sqrt{6} - 5\sqrt{2}}{2} \tag{23}

となり、無事根号を外すことができました!やりましたね!


この単数を使った方法、色々掘り下げられそうな気がしていますが、今日はこの辺にしておきたいと思います。それでは!


参考

nishimuraさんによる指数決定のアルゴリズムについては、こちらの知恵袋の「3+√10 = b^(-1)*c*d^2 の見つけ方」に書いてあります。参考にさせていただきました。
detail.chiebukuro.yahoo.co.jp



追記:レギュレータ

先ほどは、変数を1個増やして計算しましたが、その必要はなかったようです。

 \varepsilon = \alpha^{k} \beta^{l} \gamma^{m} \tag{18}

に対して、共役をとり、絶対値をとり、さらに  \log をとると

 \log|\varepsilon_1| = k \log|\alpha_1|  + l \log |\beta_1| + m \log |\gamma_1|
 \log|\varepsilon_2| = k \log|\alpha_2|  + l \log |\beta_2| + m \log |\gamma_2|
 \log|\varepsilon_3| = k \log|\alpha_3|  + l \log |\beta_3| + m \log |\gamma_3|
 \log|\varepsilon_4| = k \log|\alpha_4|  + l \log |\beta_4| + m \log |\gamma_4|

が得られます。未知変数  3 に対して式の数は  4 です。

ここで、縦の列に着目します。たとえば左辺を足し合わせると

 \log|\varepsilon_1| + \log|\varepsilon_2| + \log|\varepsilon_3| + \log|\varepsilon_4|

が得られますが、実はこれが  0 となります。

実際

 \begin{align} \log|\varepsilon_1| + \log|\varepsilon_2| + \log|\varepsilon_3| + \log|\varepsilon_4| &= \log|\varepsilon_1\varepsilon_2\varepsilon_3\varepsilon_4| \\
&= \log|N(\varepsilon)| \\
&= \log 1 \\
&= 0 \end{align}

となるからです。 \varepsilon は単数なので  N(\varepsilon) = \pm 1 であることを使いました。

右辺の縦の列も同様です。すべて単数なので、このようなことが起きるわけですね。

したがって、4つあった式の少なくとも1つは独立ではなかったと言うわけです。


そこで、どれでもいいですが、1個の行を除いて考えましょう。4番目を除くと、連立方程式

 \log|\varepsilon_1| = k \log|\alpha_1|  + l \log |\beta_1| + m \log |\gamma_1|
 \log|\varepsilon_2| = k \log|\alpha_2|  + l \log |\beta_2| + m \log |\gamma_2|
 \log|\varepsilon_3| = k \log|\alpha_3|  + l \log |\beta_3| + m \log |\gamma_3|

が得られます。これを行列表示すると

 \begin{pmatrix} \log|\varepsilon_1| \\ \log|\varepsilon_2| \\ \log|\varepsilon_3| \end{pmatrix} = 
\begin{pmatrix} \log|\alpha_1| & \log|\beta_1| & \log|\gamma_1| \\
\log|\alpha_2| & \log|\beta_2| & \log|\gamma_2| \\
\log|\alpha_3| & \log|\beta_3| & \log|\gamma_3| \end{pmatrix} \begin{pmatrix} k \\ l \\ m  \end{pmatrix}

が得られます。この右辺の  3\times 3 行列の逆行列を計算すればよいわけですね。

ちなみに、この基本単数系によって得られる行列の行列式を  Kレギュレータというようです。レギュレータは代数体における重要な不変量だそうです。基本単数(原点に最も近い単数)のなす空間の体積を表すので、要するに「単数がどれぐらい密に存在するか(体積が大きいと言うことは、密度が小さい)」という情報を表す量なわけですね。

こうやって具体的な問題を解くために出てくるのは面白いですね。