tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

数学者の名前がついた素数

今回の記事では、数学者の名前がついた素数 について紹介したいと思います。名前を紹介するだけではなく、その由来となった数学的背景を簡単に紹介する記事になっています。

素数は

 2, 3, 5, 7, \ldots

のように数がただ並んでいるだけに思われるかもしれません。しかしながら、2はソフィー・ジェルマン素数であり、3や7はメルセンヌ素数、5はフェルマー素数であるなど、それぞれ個性を持っています。

この記事を通して、それぞれの数が持つ個性や魅力を感じていただけると嬉しいです。それでは、最後までぜひご覧ください!

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目次:

メルセンヌ素数

 M_n = 2^{n} - 1 n は自然数)の形をした数をメルセンヌ数といい、これが素数であればメルセンヌ素数といいます。マラン・メルセンヌ [1588-1648] に由来。

例:

  •  M_2 = 2^2 - 1 = 3
  •  M_3 = 2^3 - 1 = 7
  •  M_5 = 2^5 - 1 = 31
  •  M_7 = 2^7 - 1 = 127
  •  M_{13} = 2^{13} - 1 = 8191


なお、 M_n n が合成数のときには合成数になるので、 M_n がメルセンヌ素数になるのは  n が素数のときだけです。

 n が素数でも、 M_n が合成数になることはあります。たとえば

 M_{11} = 2^{11} - 1 = 2047 = 23 \times 89

は合成数ですね。


メルセンヌ素数は 完全数 とも関係しています。 M_p がメルセンヌ素数であるとすると

 2^{p-1} M_p

は完全数になります。メルセンヌ素数があれば、完全数も見つかるというわけですね!

逆に、偶数の完全数は必ずこの形になることがオイラーにより証明されています。


オイラー素数

 X^2 + X + 41 X は0以上の整数)の形をした素数をオイラー素数といいます。「 X 0 から  39 を代入するとすべて素数になる」というレオンハルト・オイラー [1707 - 1783] による発見が由来。

例:

  •  0^2 + 0 + 41 = 41
  •  1^2 + 1 + 41 = 43
  •  2^2 + 2 + 41 = 47
  •  3^2 + 3 + 41 = 53
  •  39^2 + 39 + 41 = 1601


なお、 X^2 + X + 41 の類似で

 X^2 + X + a ( a は2以上の整数)

という式を考えたとき、 X = 0 から  a-2 まで代入した値がすべて素数であるような  aオイラーの幸運数と呼びます。

オイラーの幸運数は  a = 2, 3, 5, 11, 17, 41 の6つだけ であることが知られています。 41 はオイラーの幸運数の中で最大の数というわけですね。

オイラーの幸運数がこの6つだけであることの証明は、こちらの記事でまとめています:
tsujimotter.hatenablog.com


フェルマー素数

 F_n = 2^{2^n} + 1 n は0以上の整数)の形をした数をフェルマー数といい、 F_n が素数であればフェルマー素数といいます。ピエール・ド・フェルマー [1607 - 1665] に由来。

例:

  •  F_0 = 2^{2^0} + 1 = 3
  •  F_1 = 2^{2^1} + 1 = 5
  •  F_2 = 2^{2^2} + 1 = 17
  •  F_3 = 2^{2^3} + 1 = 257
  •  F_4 = 2^{2^4} + 1 = 65537


フェルマー自身はこの形の数はすべて素数だと思っていたようですが、オイラーによって反例「 F_5 は合成数」が示されました。

 F_5 = 2^{2^5} + 1 = 4294967297 = 641 \times 6700417

 F_5 の因数分解の方法について詳しく知りたい方はこちらをどうぞ:
tsujimotter.hatenablog.com

ちなみに、 F_n が素数(つまりフェルマー素数)ならば、正  F_n 角形は定規とコンパスにより作図可能であることがガウスにより示されています。

詳しくはこちらの記事をどうぞ:
tsujimotter.hatenablog.com


ソフィー・ジェルマン素数

 p 2p+1 がどちらも素数であるとき、 p をソフィー・ジェルマン素数といいます( 2p+1 の方を安全素数といいます。)。数学者ソフィー・ジェルマン [1776 – 1831] に由来。

例:

  •  2\cdot 2 + 1 = 5 は素数なので、 2 はソフィージェルマン素数、 5 は安全素数
  •  2\cdot 3 + 1 = 7 は素数なので、 3 はソフィージェルマン素数、 7 は安全素数
  •  2\cdot 5 + 1 = 11 は素数なので、 5 はソフィージェルマン素数、 11 は安全素数
  •  2\cdot 11 + 1 = 23 は素数なので、 11 はソフィージェルマン素数、 23 は安全素数


ソフィー・ジェルマンは、 p がソフィー・ジェルマン素数のとき

 X^p + Y^p = Z^p

には  p XYZ を割り切らないような解  (X, Y, Z) が存在しないことを示しました。これはフェルマーの最終定理のファーストケースと呼ばれるものです。

つまり(ファーストケースに限って言えば) p がソフィー・ジェルマン素数のときにフェルマーの最終定理を解決したということになります。すごいですね!

フェルマーの最終定理について、さらに知りたい方はこちらをどうぞ:
tsujimotter.hatenablog.com


ヴィーフェリッヒ素数

一般に、素数  p について  2^{p-1} - 1 という数は  p で割り切れることが知られています。これはフェルマーの小定理から言えます。

つまり

 \displaystyle \frac{2^{p-1} - 1}{p} = (整数)

というわけですね。

ここで、さらにもう一度  p で割ることを考えてみましょう。

 \displaystyle \frac{2^{p-1} - 1}{p^2} = (整数)

は一般に成り立ちませんが、これが成り立つような特別な素数をヴィーフェリッヒ素数といいます。


例:

  •  1093 はヴィーフェリッヒ素数
  •  3511 はヴィーフェリッヒ素数


実は、ヴィーフェリッヒ素数はこの二つしか見つかっていません! これ以上あるかどうかもまだ不明です。超レアな存在というわけですね!


このような素数が脚光を浴びたのは、またもや フェルマーの最終定理 です。

アーサー・ヴィーフェリッヒ [1884 – 1954] という数学者が、 pヴィーフェリッヒ素数でないならば p のときのフェルマーの最終定理のファーストケースは成り立つ、ということを証明しています。

ヴィーフェリッヒ素数は大変レアなので、ヴィーフェリッヒ素数を除くほとんどの素数でフェルマーの最終定理が(ファーストケースに限れば)解決したというのですから、すごいことですね。



100以下の素数

  • 2, ソフィー・ジェルマン素数
  • 3, メルセンヌ素数, フェルマー素数, ソフィー・ジェルマン素数
  • 5, フェルマー素数, ソフィー・ジェルマン素数, 安全素数
  • 7, メルセンヌ素数, 安全素数
  • 11, ソフィー・ジェルマン素数, 安全素数
  • 13
  • 17, フェルマー素数
  • 19
  • 23, ソフィー・ジェルマン素数, 安全素数
  • 29, ソフィー・ジェルマン素数
  • 31, メルセンヌ素数
  • 37
  • 41, オイラー素数, ソフィー・ジェルマン素数
  • 43, オイラー素数
  • 47, オイラー素数, 安全素数
  • 53, オイラー素数, ソフィー・ジェルマン素数
  • 59, 安全素数
  • 61, オイラー素数
  • 67
  • 71, オイラー素数
  • 73
  • 79
  • 83, オイラー素数, ソフィー・ジェルマン素数, 安全素数
  • 89, ソフィー・ジェルマン素数
  • 97, オイラー素数


こうしてみるとほとんどの素数に何かしらの名前がついていますね。名前がついていると、愛着が湧いてくるものです。

残念ながら  13, 19, 37, 67, 73, 79 には今回紹介したような名前はついていませんが、調べてみれば他の何かしらの性質がついていたりしそうですね。興味がある人はぜひ調べてみてください!



他にも数学者の名前を冠した面白い素数(数)などあれば、ぜひ教えていただければと思います!

それでは今日はこの辺で!


おまけ:グロタンディーク素数

 57 は素数ではないですが、グロタンディーク素数と呼ばれています。アレクサンドロ・グロタンディーク [1928 – 2014] が素数の例として間違えてこの数を挙げたことに由来。

tsujimotter.hatenablog.com