前回の記事で、ガウス和 についての面白い定理を紹介しました。
せっかくなので、ガウス和シリーズ と題して、3日連続でガウス和にまつわるお話を紹介したいと思います。このシリーズの全記事は「ガウス和」のタグで閲覧できるようにします。
tsujimotter.hatenablog.com
シリーズ第2回目の今回は、前回やり残した定理1の証明にチャレンジしたいと思います。
といいつつも、今回の記事では定理1のフルの証明を与えることができない ことをあらかじめ断っておきます。
今回、実際に証明できるのは、次の定理2です。
このとき
が成り立つ:
定理2は定理1と比べると少し弱い主張となっています。定理2からは、次の式が言えます。
ここで符号が であることがわかれば、定理1の主張そのものになりますので、定理2は符号決定の分だけ弱い主張になっているということですね。
ガウス和の符号を決定する問題を 「符号決定問題」 といいます。この問題は実に4年もの間、ガウスを悩ませた難問として知られています。この証明は大変複雑なので、ここでは扱いません。
問題を簡単化したとはいえ、定理2の証明もそれなりに難しく、いくつか段階を踏んで示す必要があります。それではいきましょう!
平方剰余の記号の性質
まず、平方剰余の記号(ルジャンドル記号といいます)についての性質を3つほど使います。(これらの定理の証明は省略します。)
命題5は、 の範囲で「平方剰余と平方非剰余の個数は等しい」ことを主張する定理です。
1の原始p乗根に関する補題
次に、 という記号を導入します。これを使うと前回定義したガウス和をより簡潔に表せます。
ここでは、今導入した に関して、一つ補題を示したいと思います。証明自体はとても簡単です。
(補題6の証明)
のとき、 となります。したがって、ただちに
が得られます。
のとき、等比数列の和公式より
となります。ここで より、右辺は 0 に一致します。
したがって
が得られます。
変数ずらしのテクニック
これにて証明のための補題が揃いました。
早速、定理2の証明にいきたいところなのですが、証明に向けて補足しておきたいテクニックが一つあります。これを証明に挟んでしまうと見通しが悪くなるので、あらかじめ紹介しておきたいと思います。私が勝手に「変数ずらしのテクニック」と呼んでいる方法です。
これから考えたいのは、整数を変数にとる関数 についての次のような和公式です。
が成り立つ。
の変数を から に置き換えたとしても、総和は一致するという主張です。
これを示すために、次の写像 を考えます:
の各元を「 時間時計の文字盤の数字」だと思うことにすると、上の は文字盤の数をそれぞれ 倍する写像になっています。
図の写像 は全単射になっていますね
一般の に対して、 が全単射であることを、次のように示します。
(単射性) に対して、 のとき です。任意の に対して逆元 が存在することに注意して、両辺に をかけると が得られます。よって は単射です。
(全射性)また、 に対して なる は、 として得られます。よって は全射です。
以上から、 が全単射であることがわかりました。
よって、 は全単射なので、次の和記号の等号が成立します:
(以上のテクニックは、今後もよく使うので覚えておいてください。)
定理2の証明
それでは、定理2の証明に行きたいと思います。
を定義にしたがって計算します。
ここで、上で説明した「変数ずらしのテクニック」を使います。
任意の に対して を次の式で定めます。
ここで、 は の代表元を一つ選んだものとします。
これは の代表元の取り方によらないことは、次のように示されます。
を であるようにとったとき
が成り立つ。したがって、 となり、 は代表元の取り方によらないことが示された。
すると、 に と をそれぞれ代入して得られる2つの和公式の間に、等号
が成立します。
添字の について、 の範囲で代表元をとって を計算すると
が成立します。
したがって、次のように式変形できます:
ここで、補題6に を代入することで
が得られます。
したがって
が得られます。
命題5より が成り立ちますが、和の中から の項だけ右辺に移項すると となります。
これを上の式に代入すると次が得られます:
最後に、命題4(平方剰余の第1補充則)より、 ですが、この値は のとき 、 のとき の符号をとります。
以上により、定理2の主張が示されました。
おわりに
少し長かったですが「ガウス和の2乗が に一致する」を示すことができました。これを使えば、前回やったように面白い公式をいくらでも得ることができますね。
証明としては、 が全単射であることを使って、変数 を へと「ずらすテクニック」がポイントでした。ガウス和は、こんな風に変数をずらしても計算できるように、うまく定義されていると感じます。
次回は、今回の証明したガウス和の性質を使って、平方剰余の相互法則を証明してみたいと思います。
それでは今日はこの辺で。