tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

分数の足し算で「約分」が発生する条件(2)

早速ですが、昨日の記事の続きです。
tsujimotter.hatenablog.com


前回の記事では、分数の足し算

 \displaystyle \frac{a}{b} + \frac{c}{d}

の計算で約分が発生する条件について考えました。特に、結果の分母・分子が素数  p で約分されるならば、 b, d p で割り切れる回数  v_p(b), v_p(d)

 \displaystyle v_p(b) = v_p(d) > 0

であることを示しました。


今回はもう一歩踏み込んで、 p 進数的な視点を取り入れて、約分できる条件について考えたいと思います。

今回の記事の内容は、前回の記事公開後に nishimura さんという方から教えていただいた内容になります。いつも面白い話を教えていただいてありがとうございます!


5進展開と約分

まずは、例として約分が発生する

 \displaystyle \frac{4}{15} + \frac{9}{35}

について考えたいと思います。


突然ですが、それぞれの分数を  5 進展開 したいと思います。

実際に計算する前に、一般的な  p 進展開 について説明しておきます。素数  p と有理数  x に対して、 x p 進展開とは、

 \displaystyle \begin{align} x & = \sum_{i = n}^{\infty} x_{i} p^i  \end{align}
 x_i \in \mathbb{Z}, \; 0 \leq x_i < p \;\; \text{for } i = n, n+1, n+2, \ldots

のように、 x p に関する「べき級数」の形で表すことをいいます。任意の有理数  x に対して、上記の  p 進展開は一意に定まります。

 n は最低次の項の指数を表しますが、これは負の数になることもあります。この  n は、 x を分数の形で  x = a/b と表したとき

 n = v_p(a) - v_p(b)

として決定されます。これを  x = a/b p 進付値といい、改めて  v_p(x) と表します。


さて、このような知識の元に、 4/15, \; 9/35 5 進展開したいと思います。まず、それぞれの  5 進付値は

 v_5(4/15) = v_5(4) - v_5(15) = -1
 v_5(9/35) = v_5(9) - v_5(35) = -1

となりますから、5進展開における最低次の項は、どちらも  -1 次の項となります。

実際、 5 進展開すると

 \displaystyle \frac{4}{15} = \frac{3}{5} + 3 + 1\cdot 5 + 3\cdot 5^2 + \cdots

 \displaystyle \frac{9}{35} = \frac{2}{5} + 2 + 1\cdot 5 + 4\cdot 5^2 + \cdots

となります。この計算自体は、あとで行いますので、今は結果を受け入れましょう。


この主要項に着目してください。 -1 次の項を足し合わせると

 \displaystyle \frac{3}{5} + \frac{2}{5} = 1

となります。

これはつまり、 4/15 + 9/35 において、分母が  5 がいなくなるということを表しています。計算前は、 4/15, \; 9/35 もどちらも分母に  5 が1つずついたわけですが、足した後は綺麗さっぱりいなくなっているということです。

計算の前後で何がおきたのでしょうか。それはもちろん 約分 です。約分によって、分母の 5 が分子とキャンセレーションされて、 v_5 が1つ大きくなったというわけです。

おお、これで約分されるかどうか判定できるじゃないか!!!

一般の場合の判定法

これによって、 p 進展開を用いた、約分の判定法が実現できそうです。

すなわち、 a/b, \; c/d における分母の  p 進付値を  v_p(b) = v_p(d) = n > 0 とします。 すると、 a/b, \; c/d p 進付値は

 v_{p}(a/b) = v_{p}(c/d) = -n

となります。
(既約性から、分子の  a, c p で割り切れないことに注意。)

ここで、 a/b, \; c/d p 進展開を

 \displaystyle \frac{a}{b} = \frac{k}{p^{n}} + \cdots
 \displaystyle \frac{c}{d} = \frac{l}{p^{n}} + \cdots

と表します。 n 次の項だけ見れば十分なので、あとは省略します。

ここでもし

 k + l \equiv 0 \pmod{p}

が成り立つならば、 k + l = sp とおくと

 \displaystyle \begin{align} \frac{a}{b} + \frac{c}{d} &= \frac{k+l}{p^{n}} + \cdots \\
&= \frac{sp}{p^{n}} + \cdots \\
&= \frac{s}{p^{n-1}} + \cdots \end{align}

となって、 v_p(a/b + c/d) \geq -(n-1) となります。

つまり、分母を割り切る素数が少なくとも1つキャンセルされたことがわかり、 p で約分が発生したことがわかるわけです。

逆に、 p で約分が発生するならば、すなわち  v_p(a/b + c/d) \geq -(n-1) ならば、 k + l p で割り切れることがわかります。

結局、 k + l \equiv 0 \pmod{p} は、 p で約分が発生するための必要十分条件となります。


まとめると、次のようになります。

命題3( p 進展開を用いた約分判定法)
 a/b, \; c/d を既約分数とし、 p を任意の素数とする。

 a/b, \; c/d の各  p 進展開における最低次の項の係数をそれぞれ  k, l とするとき、次が成り立つ:

 \displaystyle \frac{a}{b} + \frac{c}{d} p で約分される  \;\; \Longleftrightarrow \;\; v_p(b) = v_p(d) > 0 かつ  k + l \equiv 0\pmod{p}

これは面白いですね!!!

もちろん、計算だけを考えれば、普通に分数の足し算を計算した方が早いわけです。しかし、そんなことより  p 進展開を用いて新しい見方ができるということが面白いなと思います。


 p 進展開の係数の計算

最後に、今回の判定法のポイントである  p 進展開における「最低次の項の係数」の計算方法について述べたいと思います。

 a/b p 進展開を

 \displaystyle \frac{a}{b} = \sum_{i = -n}^{\infty} x_i p^i

と表します。ここで、 v_p(a/b) = -n としています。

両辺に  p^n をかけると

 \displaystyle \frac{a}{b}p^n = x_{-n} + x_{-(n-1)} p + x_{-(n-2)} p^2 + \cdots

となります。

左辺は  v_p(a/b) = -n に対して  p^n をかけているので、分母の  p^n がキャンセレーションされて  v_p(ap^n/b) = 0 となることに注意します。また、右辺は  x_{-n} -n 次の項の係数で、それ以降が  p のべきが掛かっていることに注意しましょう。

ここで、両辺の  \bmod{p} をとります。

すると

 \require{cancel} \displaystyle \frac{a}{b}p^n \equiv x_{-n}  \cancel{+ x_{-(n-1)} p + x_{-(n-2)} p^2 + \cdots} \bmod{p}

となり、右辺の  -n 次の項の係数以外がばっさり消えることになります。


というわけで、最終的に

 \displaystyle \frac{a}{b}p^n \equiv x_{-n} \bmod{p}

という計算によって  x_{-n} が求まるというわけです。

これって、ローラン展開した級数の留数を計算とそっくり同じですね。ローラン展開の  x p に置き換えて、最後  p = 0 \bmod{p} をとる)をやっているだけなので、ほとんど同じことをやっているわけですね。

関連:
tsujimotter.hatenablog.com

ところで、 \frac{ap^n}{b} に対して「 \bmod{p} をとる」操作をしていますが、そのような操作は大丈夫なのかと気になった人もいるかもしれません。少し難しくなりますが、説明したいと思います。

先ほど、分母の  b p^n でキャンセルされると言いましたが、 b/p^n を改めて  b' とおけば、 a/b' は「分母が  p で割り切れない既約分数」ということになります。

このような「分母が  p で割り切れない既約分数」全体の集合を  \mathbb{Z}_{(p)} と表します。 \mathbb{Z}_{(p)} \mathbb{Z} の素イデアル  (p) による局所化になっていて、 \mathbb{Z}_{(p)} はイデアル  p\mathbb{Z}_{(p)} を持ちます。

このイデアルで割った剰余環を   \mathbb{Z}_{(p)} / p \mathbb{Z}_{(p)} と表します。 \mathbb{Z}_{(p)} から  \mathbb{Z}_{(p)} / p \mathbb{Z}_{(p)} へは自然な全射環準同型が入り、さらに  \mathbb{Z}_{(p)} / p \mathbb{Z}_{(p)} \mathbb{Z} / p \mathbb{Z} と環同型になります。

これらの合成写像であるような環準同型

 \mathbb{Z}_{(p)} \twoheadrightarrow \mathbb{Z}_{(p)} / p\mathbb{Z}_{(p)} \simeq  \mathbb{Z} / p \mathbb{Z}

によって、 a/b' ab'^{-1} \bmod{p} に写されます。このような操作を称して「 \bmod{p} をとる」と言っているわけです。



最後に、これまでの議論を  4/15, \; 9/35 に適用して、 5 進展開における最低次の項の係数を計算してみましょう。

まず、 v_5(4/15) = v_5(9/35) = -1 ですので、 -1 次の項の係数  k, l を計算することになります。

 5^1 をかけることにより

 \displaystyle \frac{4}{15}\cdot 5 \equiv k \pmod{5}

 \displaystyle \frac{9}{35}\cdot 5 \equiv l \pmod{5}

となりますので、左辺を \bmod{5} で計算することにより  k, l を得ます。


実際、

 \displaystyle \frac{4}{15}\cdot 5 \equiv 4\cdot 3^{-1} \equiv 4\cdot 2 \equiv 3 \pmod{5}

 \displaystyle \frac{9}{35}\cdot 5 \equiv 9\cdot 7^{-1} \equiv 4\cdot 3 \equiv 2 \pmod{5}

となり、 k = 3, \; l = 2 が求まりました。

 5 進展開に代入すると

 \displaystyle \frac{4}{15} = \frac{3}{5} + \cdots

 \displaystyle \frac{9}{35} = \frac{2}{5} + \cdots

となります。

 -1 次の項の係数を足し合わせると

 3 + 2 = 5 \equiv 0 \pmod{5}

となり、 4/15 + 9/35 の分母・分子が  5 で約分できることがわかりますね。


いやー、面白い!!!

それでは、今日はこの辺で!