一年生の和(freshman sum) というものがあります。
分数の和の計算を計算するときに、通分して計算すべきところを、間違えて
のように計算してしまうというアレです。
一般に分数の和の計算は難しいものですが、上の式が成り立てば分数の和の計算が楽になるのにな・・・と思うわけです。もちろん、こんな式は一般に成り立たないわけですが、もしかすると上の式が たまたま成り立ってしまうケース が存在するかもしれません。
そんなケースを探してみようというのが今回の記事です。果たして「正しい一年生の和」は存在するのでしょうか?
きっかけ
今回の記事のきっかけは、ポテト一郎さんのこちらの呟きからでした。
togetter.com
面白いですね。上のツイートでは、同様の計算を3つの分数で実行していますが、2つの分数で実行した場合はどうなるかなと思って考えてみたというのが今回の記事になります。
ポテト一郎さんのツイートに関連して、「初学者には有害な分数の計算」の練習プリントを作られた方がいます。
たくさん見つかったので有害練習プリント作成しました。 https://t.co/2PePbCNsI0 pic.twitter.com/LlXMezHNh9
— 末松 (@123456_ryo) 2021年2月8日
これに対して、私が軽い気持ちで「有害分数」と呼んだところ、 どうもこの名前が定着しているみたいです。#有害分数 というハッシュタグで似たような分数がたくさん投稿されているのでよかったらご覧になってください。
自明なケース
たとえば、
の場合は、どちらも になるので結果的に等式が成立します。一般に
のような場合においては、一年生の和が分数の正しい和に一致します。
しかしながら、上のケースはあまりにも当たり前な気がしますね。式 のケースを自明なケースと呼ぶことにしましょう。
中間数(mediant)
より正確な議論をするために、「中間数」という概念を導入しましょう。
分数 と が与えられたときに、分母分子をそれぞれ足して得られる分数
分数を、 と のmediantといいます。日本語の一般的な通称が分からないのですが、Wikipediaには「中間数」と書いてありますので、ここでは中間数と呼ぶことにしましょう。
この式は、まさに式 の右辺に相当するものです。今回の問題は、「分数の本来の和」と「中間数」が一致する条件を求める問題として言い換えられますね。
ところで、分数には分母分子に同じ数を書けても等しいという性質があるのでした。 の分母分子に を掛けると
となりますから、対応する との中間数は
となりますが、これは明らかに とは異なりますね。
つまり、分母分子の表示によって、中間数は異なる値をとってしまうというわけです。このように、表示によって計算結果が異なってしまう演算をwell-definedではないといいます。中間数の計算は、well-definedではないということですね。
一方で、分数には既約分数表示(これ以上約分できない状態まで約分した表示)があるので、「既約分数に対してのみ中間数を考える」という約束をしておけば、中間数は一意に定まるわけですね。よって、以降は既約分数だけを考えることにしましょう。
問題設定の再確認
改めて、問題設定を確認すると、 を整数として
を満たす整数は存在するか?という問題ですね。ここで、自然な仮定として
を入れたいと思います。
1番目の仮定は、分母が0にならないことと、分数表示したときに分母ではなく分子の方に負号が付くようにするためです。2番目の仮定は、右辺の中間数をwell-definedにするために必要な仮定です。もちろん、特定の分数の表示に依存した形で解を見つけてもいいっちゃいいんですが、今回はそういうケースは除いて考えます。
解を探すための補題として、次の必要十分条件を示したいと思います。
( の証明)
より である。よって、両辺に をかけて
が成り立つ。展開すると
となり、 が成り立つ。
( の証明)
解は存在するか?
それでは上の補題を使って、問題の解を求めてみましょう。補題より
の解を求めれば、分数の和と中間数が一致するような が得られることがわかりました。逆に、そのような は 式を満たすものだけであることも分かります。
そこで、 式を次のように変形しましょう。( なので、割り算が実行できます。)
式 ・式 の左辺はどちらも整数なので、右辺も約分できるはずです。ところが、 なのでした。
よって、たとえば式 に対しては、 と は1より大きな公約数を持たないので、 ということになります(「 は で割り切れる」の意味)。よって
が従います。同様に
が成り立ちます。式 と式 から が分かり、 の仮定より が従います。これを式 に代入すると、 が得られます。
以上により、式 を満たす は
の形に限られることが分かりました。
これを分数の形にすると
となります。これはまさに自明なケースですね!!
というわけで、「自明なケース」を除けば式 を満たす既約分数の組は存在しないことがわかりました。
おわりに
今日の結論としては
「自明なケース」を除けば存在しない
でした。
一個くらい解があるかなと思って計算してみたのですが、結果は解なし。でも、こんな風に存在しないことを示すというのも、それはそれで面白いかもしれませんね。
それでは今日はこの辺で!