tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

独習ノート「素数と2次体の整数論」#3.5:単項イデアルの性質

《独習ノート:「素数と2次体の整数論」シリーズ》の補足回です。今回のテーマは「単項イデアルの性質」について。該当箇所は、第1章の 問題 1.12 です。

本当は飛ばそうかと思ったのですが、あとのことも考えると書いておいた方が良さそうだと、思い直しました。本編に加えるほどの内容でもないので、補足として。

教科書を1つ決めて、それに沿って tsujimotter が勉強した過程をまとめていく連載シリーズです。
本シリーズの教科書はこちら。
素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

  • 作者: 青木昇,飯高茂,中村滋,岡部恒治,桑田孝泰
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本
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初回(#0):動機・諸注意
前回(#3):Z のイデアル (2/2)
次回(#4):

シリーズ全記事の一覧はこちら


この記事では以下の問題を解きたいと思います。

問題 1.12
整数  a, b に対して,次が成り立つことを示せ.
 (1)  a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z} \Longleftrightarrow b\mid a
 (2)  a\mathbb{Z} = b\mathbb{Z} \Longleftrightarrow a = \pm b
 (3)  a\mathbb{Z} = \mathbb{Z} \Longleftrightarrow a = \pm 1

証明には、以前書いた補足記事にある、集合の扱い方を用います。


(1) の証明:

(証明)
まず, a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z} \Longrightarrow b\mid a を示す. a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z} より, a\in b\mathbb{Z}.よって, a b の倍数である.すなわち, b \mid a

逆に, a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z} \Longleftarrow b\mid a を示す. b\mid a より, a = bc となる  c が存在する.任意の整数  k に対し, a\cdot k = b\cdot (ck) \in b\mathbb{Z} であるから, a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z}

(証明終わり)


(2) の証明:

(証明)
まず, a\mathbb{Z} = b\mathbb{Z} \Longrightarrow a = \pm b を示す.
 a\mathbb{Z} = b\mathbb{Z} より,  a\mathbb{Z} \supset b\mathbb{Z} かつ  a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z}.(1) より  a\pm b かつ  b\pm a だから,問題 1.3 より  a = \pm b

逆に, a\mathbb{Z} = b\mathbb{Z} \Longleftarrow a = \pm b を示す.
 a = eb とおく( e = \pm 1)と, a\mathbb{Z} の任意の要素  a\cdot k は,
  a\cdot k = b\cdot (ek) \in b\mathbb{Z}.よって,  a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z}
一方, b\mathbb{Z} の任意の要素  b\cdot l は,
  b\cdot l = a\cdot (el) \in a\mathbb{Z}.よって,  a\mathbb{Z} \supset b\mathbb{Z}
したがって,  a\mathbb{Z} \subset b\mathbb{Z} かつ   a\mathbb{Z} \supset b\mathbb{Z} より, a\mathbb{Z} = b\mathbb{Z}

(証明終わり)

ああ、そういえば 問題 1.3 をやり忘れていました。ついでなのでやってしまいましょう。

問題 1.3
 0 でない整数  a, b, c に対して,次が成り立つことを示せ.
 (1)  a\mid b かつ  b\mid a  \Longleftrightarrow  a = \pm b

(証明)
 a\mid b より, b = ac となる整数  c が存在する.また, b\mid a より, a = bd となる整数  d が存在する.代入すると, b = bcd.すなわち, cd = 1
したがって,これを満たす  c, d は, c = \mp 1, \; d = \pm 1.以上より, a\mid b かつ  b\mid a ならば  a = \pm b が示せた.
(証明終わり)


(3) の証明:

(証明)
(2) より  b = 1 を代入して成立.
(証明終わり)


これらの定理はすべて、左側の条件はすべて単項イデアルの条件に、右側の条件はすべて整数の条件になっていますね。

 a によって生成される  \mathbb{Z} のイデアル  a\mathbb{Z} を、整数  a と同様に扱いたい、という意図が見え隠れしていますね。

 a で生成される単項イデアルを  (a) と書く流儀もあって、それを使って書くとさらにこんな風に「似せる」こともできます。

整数  a, b に対して,次が成り立つ.
 (1)  (a) \subset (b) \Longleftrightarrow b\mid a
 (2)  (a) = (b) \Longleftrightarrow a = \pm b
 (3)  (a) = (1) \Longleftrightarrow a = \pm 1


まだしばらく先になりますが、そのうちイデアルにも足し算・引き算・掛け算が登場することになるでしょう。

簡単ですが、今日はこの辺で。