tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

曲線と関数体 (1):楕円曲線はなぜ3次曲線で表せるのか?

楕円曲線とは(細かいことを抜きにして言えば *1

 Y^2 = X^3 + aX + b

という式で表される曲線のことです。上の方程式のことを、楕円曲線の定義方程式といいます。


時と場合によって微妙に定義式の書き方が異なったりますが、左辺の  y の指数はいつも 2乗 になっていて、右辺の式はいつも決まって 3乗 になっています。

なぜこんな形の式を考えるのでしょう。

楕円曲線について勉強した人は、一度くらい、このような疑問を持つのではないでしょうか。


ところで、楕円曲線の定義として、以下のものを思い浮かべた方もいるかもしれません。

種数1の非特異射影代数曲線を楕円曲線という

上記の定義には、定義方程式の形が一切出てきませんが、冒頭の定義と一致するのでしょうか。


ここでは、種数1 という情報がポイントです。ほぼこの情報だけから、楕円曲線の定義方程式の形状が決定されるのです。

代数曲線の理論には、リーマン・ロッホの定理 という重要な定理があって、楕円曲線の上で定義される関数の空間の次元を、種数を用いて特定することができます。特定した関数の空間における関係式を用いて、定義方程式を決定することができるのです。

ざっくりと流れを説明しましたが、以降で詳しく解説します。

*1:楕円曲線の定義としては、正確に言えば以下のものです。 楕円曲線とは、 ①非特異な射影曲線であって ②上の式に双有理同値な曲線のこと です。 さらに言えば、係数体の標数が2でも3でもない場合はこれでよいのですが、標数が2や3の場合には  Y^2 = X^3 + aX + b ではなく  Y^2 + aXY + bY  = X^3 + cX^2 + dX + e という式に双有理同値な曲線を楕円曲線といいます。 が、今回は細かいところを抜きにして、標数 0 のものだけを考えます。その上で、 Y^2 = X^3 + aX + b で表された曲線のことを楕円曲線ということにしましょう。

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1729とK3曲面

こんにちは。本日、東京にて 日曜数学会 というイベントが開催されますね。

日曜数学会は毎年1月・6月・10月の3回開催されていますから、実に5ヶ月ぶりとなります。

5ヶ月も経つと「発表したいネタ」が溜まるようで、毎年この時期は発表者がたくさん集まります。私も今回の開催に合わせて、とっておきのネタを準備していました。

それが

「1729とK3曲面」

のお話です。

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層の定義

最近、スキームの話をきっかけに、tsujimotterのノートブックにも「層」という概念が登場するようになりました。

ところが、これまでのブログ記事では、層の定義は頑なに避けられてきました。その理由は、私自身が理解できていなかったからです。

今回は、いよいよ層の定義をしてみたいと思います。今日のポイントは、具体例の計算です。具体例を通して、層の理解を目指しましょう。

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層の射は自然変換

先日、アフィンスキームについての3部記事を公開したところ、いろんな反応をいただきました。*1
tsujimotter.hatenablog.com

いただいたコメントの一つに、実は「層の射は、実は自然変換である」ということを教えてくれるものがありました。tsujimotterはこの事実を知らなかったのですが、勉強してみて面白いなと感じましたので、まとめてみたいと思います。

ちょうど今日がロマンティック数学ナイトプライム@圏論(略称:ロマ数プライム@圏論)というイベント開催日の前日ということで、圏論っぽい記事を書くにはちょうどよいタイミングかなと思いました。
romasucategorytheory.peatix.com

それではいってみましょう。

*1:私自身の理解不足だった部分も多々あり、現在修正を検討しているところです。いつになるかわかりませんが、できるだけ早いうちに更新できればと思っています。

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単項化定理と群コホモロジー

こんにちは。最近、群コホモロジーがマイブームのtsujimotterです。

群コホモロジーといえば、以前の記事で群コホモロジーに関する定理「ヒルベルトの定理90」を使って、クンマー理論を導く話を書いたことがありました。
tsujimotter.hatenablog.com

今回は ヒルベルトの定理94 という定理について紹介したいと思うのですが、実はこの証明にも群コホモロジーが登場し、クンマー理論のときとほとんど同じような流れで議論ができるのです。

なかなか面白いので、ぜひ最後までお付き合いください。

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ガロアに浸れる出版物・ウェブサイト紹介

今日は5/31というわけで、今年も「数学者エヴァリスト・ガロアの命日」がやってきました。

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「ガロアの命日」は私の携帯のカレンダーに登録されています。

毎年5/31には、京大の数学教室で「ガロア祭」なるイベントも開催されているようですね。今日の16:30から開催だそうです。
www.math.kyoto-u.ac.jp

ガロアは19世紀の数学者の一人で、「ガロア理論」と呼ばれる今日の数学においても重要とされる理論を提唱したことで知られています。20才という若さで亡くなった彼の壮絶な人生について語られることも多いですね。

そんなガロアの命日ですから、ガロアに関する著作物を読んで、その世界に浸りたいと思う人も多いかと思います。そこで、ガロアに浸れる出版物・ウェブサイトを7つ紹介したいと思います。よかったらご覧になってください。

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33 = X^3 + Y^3 + Z^3 の整数解

今回のテーマは 33 という整数についてです。今朝、アフィンスキームについての重い記事を投稿したばかりですが、この記事では軽い感じでいきましょう。

 k を固定した自然数として、

 k = X^3 + Y^3 + Z^3

なる方程式の整数解を考えたいと思います。

今回の内容を紹介する動画ができました!
よろしければこちらもご覧になってください!

www.youtube.com

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