tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

オイラーの五角数定理 と ヤコビの三重積

小学校の頃に算数で「おはじき」を並べる授業があったのを覚えているでしょうか。みなさんきっとやったことがあると思いますが,おはじきを正三角形の形に並べることができますね。最初は1個,次は3個,その次は6個,そして10個。10個では「ボウリングのピン」のような並びになるはずです。

このように,正三角形の形に並べられる数のことを「三角数」といいます。同様に,三角数・四角数・五角数を定義することが出来ます。

今日の主役は「五角数」です。並べ方はちょっとややこしいのですが,五角数の並べ方は以下の図の通りです。

1番目の五角数を  P_1,2番目の五角数を  P_2 ,一般に  k 番目の五角数を  P_k としておくと, P_1 から  P_4 までは以下のようになります。

 \begin{eqnarray*} P_1 &=& 1, \\
P_2 &=& 5, \\
P_3 &=& 12, \\
P_4 &=& 22 \end{eqnarray*}

 P_k の一般式は

 \displaystyle P_k = \frac{k(3k-1)}{2} \tag{1}

のようになります。

これは,漸化式が  P_{k+1} - P_{k} = 3k + 1 となることに気付けば求めることができます。お時間ある人はやってみてください。

今日の話は,この 五角数が意外なところで現れる という 興味深いお話 です。


五角数定理

ここで登場するのは,以下の式です。

 \displaystyle \prod_{n=1}^{\infty} (1-x^n) \tag{2}

この式を  n = 1 から順に展開していきましょう。

 \displaystyle \begin{eqnarray*} &&\prod_{n=1}^{\infty} (1-x^n) \\ 
&&= (1-x) \times \prod_{n=2}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x)(1-x^2) \times \prod_{n=3}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x-x^2+x^3) \times \prod_{n=3}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x-x^2+x^3)(1-x^3) \times \prod_{n=4}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x-x^2+x^3 -x^3+x^4+x^5-x^6) \times \prod_{n=4}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x-x^2+x^4+x^5-x^6)(1-x^4) \times \prod_{n=5}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x-x^2+2x^5-x^8-x^9+x^{10}) \times \prod_{n=5}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x-x^2+2x^5-x^8-x^9+x^{10})(1-x^5) \times \prod_{n=6}^{\infty} (1-x^n) \\
&&= (1-x-x^2+x^5+x^6+x^7-x^8-x^9-x^{10}+x^{13}+x^{14}-x^{15}) \times \prod_{n=6}^{\infty} (1-x^n) \\
\end{eqnarray*}

 n = 5 まで展開すると, x^5 までは正確に値が求まります。


これを  n = 30 まで計算してみると,次のようになります。

 \displaystyle \begin{eqnarray*} &&\prod_{n=1}^{\infty} (1-x^n) \\ 
&&= x^0 - x^1 - x^{2} + x^{5} + x^{7} - x^{12} - x^{15} + x^{22} + x^{26} + \cdots \end{eqnarray*}


説明のために  1 = x^0, \;\; x = x^1 としています。


ここで,偶数番目の項の  x の指数に注目してください。

 1, \; 5, \; 12, \; 22, \; \cdots

これらの数に見覚えはないでしょうか?

そう,五角数 です!!

なんということでしょう!

もちろん,この話をするためにわざわざ五角数の前フリをしたわけですが,それでも不思議な感じがしますよね。


偶数項だけ取り出すことに気持ち悪さを感じる人のために,奇数番目の項の指数も考えてみましょう。

 0, \; 2, \; 7, \; 15, \;  26, \; \cdots

これは実をいうと,先ほどの五角数の一般式に,正ではない整数を入れたときの値になっています。

 \displaystyle \begin{eqnarray*} P_0 &=& \frac{0\cdot (3\cdot 0-1)}{2} &=& 0 \\ 
P_{-1} &=& \frac{(-1)\cdot (3\cdot (-1)-1)}{2} &=& 2 \\ 
P_{-2} &=& \frac{(-2)\cdot (3\cdot (-2)-1)}{2} &=& 7 \\ 
P_{-3} &=& \frac{(-3)\cdot (3\cdot (-3)-1)}{2} &=& 15 \\ 
P_{-4} &=& \frac{(-4)\cdot (3\cdot (-4)-1)}{2} &=& 26
\end{eqnarray*}

これらの数も五角数であると認めてしまえば,展開式の指数に五角数がすべて列挙されていると言えそうですね。


このような興味深い事実を一般的に表したのが,次の《オイラーの五角数定理》です。

《オイラーの五角数定理》

 \displaystyle \prod_{n=1}^{\infty}(1-x^n) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m x^{\frac{m(3m+1)}{2}}  \tag{3}

実はこの式は 前回の記事 でも登場しましたね。
(正確に言うと,変数が  q\to x でさらに  \displaystyle q^{\frac{1}{24}} の分だけ若干異なりますが。)

前回はこの式を使って興味深い定理を導いたわけですが,今回はこの式自体を味わいましょう。


式 (3) の右辺の  m に正負問わずすべての整数を入れていきましょう。以下の式では  m = 0 を中心に, m > 0 を右側, m < 0 を左側に並べてみました。

 \displaystyle \begin{eqnarray*} &&\sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m q^{\frac{m(3m+1)}{2}}  \\ &&= \cdots - q^{22} + q^{12} - q^{5} - q^{1} + q^0 - q^{2} + q^{7} - q^{15} + q^{26} - \cdots  \end{eqnarray*}

左側には「通常の意味の五角数」が,右側には「五角数の一般式に負の値を入れたもの」が, x の指数として並んでいることが確認出来ますね。


いやぁ,それにしても不思議な式ですね。五角数とは縁もゆかりもないような式 (1) を展開してあげると,なぜか指数に五角数が現れるというのです。

ヤコビの三重積

五角数定理は,《ヤコビの三重積》と呼ばれる,より一般的な恒等式の系として示すことができます。以下のような「積」を「和」の形に変換できる式になっています。

《ヤコビの三重積》

 \displaystyle \prod_{n=0}^{\infty}(1-q^{2n+2})(1+q^{2n+1}z)(1+q^{2n+1}z^{-1}) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} q^{m^2}z^m  \tag{4}

ただし, q = e^{\pi i \tau}, \;\; z = e^{2\pi i v}

この式が好きな人は多いようです。私の知人に「三重積さん」という方がいますが,彼もきっとこの式の愛好者なのでしょう。


では,ヤコビの三重積を使って,五角数定理を導いてみましょう。 q = x^{\frac{3}{2}}, \; z = -x^{-\frac{1}{2}} を代入します。

 \displaystyle \begin{eqnarray*} &&\prod_{n=0}^{\infty}(1- (x^{\frac{3}{2}})^{2n+2})(1+ (x^{\frac{3}{2}})^{2n+1}(-x^{-\frac{1}{2}}))(1+ (x^{\frac{3}{2}})^{2n+1}(-x^{-\frac{1}{2}})^{-1}) \\ &&= \sum_{m=-\infty}^{\infty} (x^{\frac{3}{2}})^{m^2}(-x^{-\frac{1}{2}})^m \end{eqnarray*}

変形すると,

 \displaystyle \begin{eqnarray*} \prod_{n=0}^{\infty}(1- x^{3n+3})(1- x^{3n+1})(1- x^{3n+2}) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m x^{\frac{m(3m-1)}{2}} \end{eqnarray*}

左辺は, 3n+3, \; 3n+1, \; 3n+2 となって, 1 以上のすべての自然数を表しているから,

 \displaystyle \begin{eqnarray*} \prod_{n=1}^{\infty}(1- x^{n}) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} (-1)^m x^{\frac{m(3m-1)}{2}} \end{eqnarray*}

ここで右辺を  m' = -m とすると,

 \displaystyle \frac{m(3m-1)}{2} = \frac{(-m')(3(-m')-1)}{2} = \frac{m'(3m'+1)}{2}

となるから,

 \displaystyle \begin{eqnarray*} \prod_{n=1}^{\infty}(1- x^{n}) = \sum_{m'=-\infty}^{\infty} (-1)^{m'} x^{\frac{m'(3m'+1)}{2}} \end{eqnarray*}

となって,たしかに五角数定理は成り立ちましたね。


ただ,このままでは「五角数定理の不思議さ」をヤコビの三重積に押し付けただけです。真にこの不思議さを理解したことになりませんね。

いったいヤコビの三重積は,どうやったら示すことができるのでしょうか。

証明は?

すべての証明を書くと計算が結構やっかいで,どうしても長くなってしまいます。計算過程を追っていくばかりでは話の流れが分かりにくくなりますので,今回は計算をせずに結果だけを書き並べながら,証明の概略を追っていこうと思います。


まずは,テータ関数と呼ばれる2変数関数を考えます。これはヤコビの三重積の右辺を表した式です。

 \displaystyle \vartheta(v, \tau) = \sum_{m=-\infty}^{\infty} q^{m^2}z^m, \hspace{20px} ただし,q = e^{\pi i \tau}, \; z = e^{2\pi i v}  \tag{5}

もともとは,ヤコビのテータ関数の研究の過程で,三重積の式が発見されたのだそうです。

次に大文字のテータ  \Theta を使って,もう1つの二変数関数を考えます。こちらはヤコビの三重積の左辺を表しています。

 \displaystyle \begin{eqnarray*} \Theta(v, \tau) = \prod_{n=0}^{\infty}(1-q^{2n+2})(1+q^{2n+1}z)(1+q^{2n+1}z^{-1}) \\ ただし,q = e^{\pi i \tau}, \; z = e^{2\pi i v} \end{eqnarray*} \tag{6}

これらの2つ式が等しいことを示せば,ヤコビの三重積が成り立つことを示すことができますね。


といいつつも,この等式を示すのが難しいのです。

 \vartheta(v, \tau) = \Theta(v, \tau)


まず,変数  \tau を固定して,それぞれ  v の1変数関数として考えます。 v は複素数であることに注意してください。

すると,これらの2つの関数は以下のような,擬二重周期を持つことが分かります。

 \begin{eqnarray*} \vartheta(v+1, \tau) &=& \vartheta(v, \tau), &\hspace{28px}& \Theta(v+1, \tau) &=& \Theta(v, \tau), \\
\vartheta(v+\tau, \tau) &=& q^{-1} z^{-1}\vartheta(v, \tau), &\hspace{28px}& \Theta(v+\tau, \tau) &=& q^{-1} z^{-1}\Theta(v, \tau) \end{eqnarray*}

「擬」二重周期といったのは,2方向目の周期  \tau では  q^{-1} z^{-1} という係数が余計にかかっているためです。「二重周期っぽい」という意味をこめて「擬」がついているというわけです。

なぜこのような周期性を考えるかというと,思考の範囲を限定するためです。 1 \tau の2つの周期を持っているということは,複素数平面を以下のような平行四辺形の「格子」として考えることができる,ということです。それぞれの格子では, \vartheta(v, \tau), \; \Theta(v, \tau) \tau 方向の  \times q^{-1}z^{-1} を除けば,同じ値をとります。


また, \vartheta(v, \tau), \; \Theta(v, \tau) はともに  v = \displaystyle \frac{1+\tau}{2} において,零点を取ります。

よって二重周期性より

 \displaystyle v = \frac{1+\tau}{2} + m' + n' \tau, \hspace{20px} ただし,m', \;n' は整数

において,2つの関数は零点をとります。

ちゃんと示す必要がありますが, \Theta(v, \tau) における零点は上記のすべてであることが分かります。したがって, \displaystyle \frac{\vartheta(v, \tau)}{\Theta(v, \tau)} をとると,分母の零点がすべてキャンセルされて,この関数は格子内で極を持ちません。


これで,準備は整いました。

 \displaystyle c(v, \tau) = \frac{\vartheta(v, \tau)}{\Theta(v, \tau)}

を考えます。先ほど言ったとおり, c(v, \tau) は格子において極を持ちません。よって,全複素平面で極を持たないわけです。

ここで《リウヴィルの定理》により, c(v, \tau) v に依存しないことが分かります。・・・ (5)

《リウヴィルの定理》

有界な整関数は定数関数に限る


今度は,変数  \tau について考えます。

 c(\frac{1}{2}, \tau), \; c(\frac{1}{4}, \tau) を具体的に計算した上で,両者を比較すると,

 c(\frac{1}{4}, \tau) = c(\frac{1}{2}, 4\tau)

となります。

ここで, c(v, \tau) v に依存しないから,

 c(v, \tau) = c(v, 4\tau)

となるわけです。

これを繰り返し適用すると,

 c(v, 4\tau) = c(v, \tau) = c(v, 4^{-1}\tau) = \cdots  = c(v, 4^{-n}\tau)

 n \to \infty の極限をとると,

 \displaystyle c(v, \tau) = \lim_{n\to\infty} c(v, 4^{-n}\tau) = c(v, 0)

したがって, c(v, \tau) \tau にも依存しないことがわかります。・・・ (6)


すなわち, (5), (6) より  c(v, \tau) は定数です。 v, \; \tau に何を入れても  c(v, \tau) は一定値をとることが分かりました。


あとは,計算に都合のよい  \tau を考えて  \tau \to +i\infty とすると,

 \displaystyle c(v, \tau) = \lim_{\tau\to +i\infty} c(v, \tau) = 1

が得られます。


以上より,

 \displaystyle c(v, \tau) = \frac{\vartheta(v, \tau)}{\Theta(v, \tau)} = 1

すなわち,

 \vartheta(v, \tau) = \Theta(v, \tau)

が得られました。


定義に戻って代入すると,

 \displaystyle \begin{eqnarray*} \sum_{m=-\infty}^{\infty} q^{m^2}z^m = \prod_{n=0}^{\infty}(1-q^{2n+2})(1+q^{2n+1}z)(1+q^{2n+1}z^{-1}) \end{eqnarray*}

となり,これはヤコビの三重積そのものです。

まとめ

途中の計算はいろいろとすっ飛ばしましたが,ヤコビの三重積を証明することができ,その系として五角数定理が成り立つことを示すことができました。

ヤコビの三重積の公式を見たときは,こんな式,いったいどうやって示すことができるのか,と思ったものです。それにしても,リウヴィルの定理って便利ですね。この定理は,この手の問題を示すのに非常に強力な武器となりますので,覚えていて損はないかと思います。

定理が成り立つことが分かったものの,まだ五角数定理の不思議さは残っています。式 (1) のような式は「保型形式」というもの(の原型)ですが,五角数という「数論」における重要な数列が,なぜか保型形式の係数として登場するのです。

最近,エドワード・フレンケルの「数学の大統一に挑む」という本が発売されたので,しばらく読んでいたのですが,この本の1つのテーマが「数論」と「保型形式」の不思議な関係です。この問題を一般化したのが,ラングランズ予想なのですが,これが言わば「数学の大統一理論」と呼ばれるような奥深い理論なのですね。五角数定理は,ある意味このような深淵に繋がる興味深い定理と言えそうです。

参考文献

前回に引き続き,相互法則入門が参考文献です。

また証明の内容は,Wikipedia の情報を元に再構成しました。

ヤコビの三重積 - Wikipedia

エドワード・フレンケルの本はこちら。