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tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

独習ノート「素数と2次体の整数論」#2:Z のイデアル (1/2)

素数と2次体の整数論 数学 素数 整数論

今回は「イデアル」の導入と定義について。教科書の該当箇所は「1.3  \mathbb{Z} のイデアル」です。内容が濃いので、2回に分けてお話します。

教科書を1つ決めて、それに沿って tsujimotter が勉強した過程をまとめていく連載シリーズです。
本シリーズの教科書はこちら。
素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

  • 作者: 青木昇,飯高茂,中村滋,岡部恒治,桑田孝泰
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本
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初回(#0):動機・諸注意
前回(#1):約数と倍数
補足回(#1.5):集合の包含関係
次回(#3):Z のイデアル (2/2)

シリーズ全記事の一覧はこちら


さて、前回の定理を再掲するとこうでした。

定理 1.6 (再掲)
整数  a, b, c に対して  ax + by = c となる整数  x, y が存在するためには,  \gcd(a, b) \mid c であることが必要十分である.


「さぁ、定理 1.6 を証明しよう!」と言いたいところですが、直接 定理 1.6 を証明したりはしません。どうするかというと、より抽象的な定理を証明して、その系として 定理 1.6 を示すのです。

よりメタな視点が必要です。


というわけで、定理 1.6 を視点をかえて眺めてみたいと思います。少し考えると、定理 1.6 は次のように言い換えることができます。

 ax + by \;\; (x, y \in \mathbb{Z}) という形の整数全体の集合は  d の倍数全体と一致する』


倍数全体のなす集合倍数の一次結合のなす集合 が鍵となっていることがわかりますね。

今回は、こういった集合をより一般的に扱う方法を考えていきます。

 \mathbb{Z} のイデアル

まず、整数  a_1, \ldots, a_n に対して、以下のような集合を考えましょう。

 a_1\mathbb{Z} + \cdots + a_n\mathbb{Z} = \left\{ a_1 x_1 + \cdots + a_n x_n \mid x_1, \ldots , x_n \in \mathbb{Z} \right\} \tag{1.1}


 n=1 のときは  a_1 a と表記してこうなります。

 a\mathbb{Z} = \left\{ ax \mid x \in \mathbb{Z} \right\} \tag{1.2}


これらを使うと、先ほどの定理は、整数  a, b を用いて次のように言い換えられます。

 a\mathbb{Z} + b\mathbb{Z} = d\mathbb{Z}  \tag{1.3}

ただし、  d = \gcd(a, b) です。

だいぶシンプルになってきましたね。


この集合  a_1\mathbb{Z} + \cdots + a_n\mathbb{Z} を足がかりとして、より一般的な定理を示していくわけです。

とはいえ、今のままでは武器がありません。ここで、いったん頭を切り替えて、「そもそも集合  a_1\mathbb{Z} + \cdots + a_n\mathbb{Z} は、いったいどのような性質を持つ集合か」という、別の問いを発してみることにしましょう。この問いに答えるものが、次の 命題 1.9 です。

命題 1.9
集合  A = a_1\mathbb{Z} + \cdots + a_n\mathbb{Z} は次の二つの条件をみたす.
 (1)  a, b \in A \Longrightarrow a - b \in A
 (2)  a \in A, z \in \mathbb{Z} \Longrightarrow az \in A

これが成り立つことを証明しましょう。証明は、そのまま計算するだけです。

(証明)
任意の  a, b \in A に対して,  a = a_1 x_1 + \cdots + a_n x_n b = a_1 y_1 + \cdots + a_n y_n ,ただし, x_1, \ldots, x_n, y_1, \ldots, y_n \in \mathbb{Z} とおけば,

 \begin{eqnarray} a-b &=& a_1(x_1 - y_1) + \cdots + a_n(x_n - y_n) \in A \\
 az &=& a_1 (x_1 z) + \cdots + a_n (x_n z) \in A \end{eqnarray}

より,(1), (2) が成り立つ.

(証明終わり)


ここで、 A は「整数  \mathbb{Z} の部分集合」です。逆に \mathbb{Z} の部分集合で、上の性質を満たすものを考えましょう。

これが イデアル です。

定義 1.10
以下の (1), (2) の条件をみたす  \mathbb{Z} の部分集合  A \mathbb{Z}イデアルと呼ぶ.
 (1)  a, b \in A \Longrightarrow a - b \in A
 (2)  a \in A, z \in \mathbb{Z} \Longrightarrow az \in A


特に,イデアル  A = a\mathbb{Z} a で生成される単項イデアルと呼ぶ.

強調しておきますが、 \mathbb{Z} のイデアルは「整数  \mathbb{Z} の部分集合」です。要素はもちろん整数です。

 \mathbb{Z} のイデアルの諸性質

イデアルに慣れるために、 \mathbb{Z} のイデアル  A の諸性質を示しておきましょう。

定理 \mathbb{Z} のイデアル  A の性質)
 \mathbb{Z} の任意のイデアル  A に対して,以下の (a), (b) が成り立つ.
(a)  0 \in A
(b)  m \in A \Longleftrightarrow (-m) \in A

結局これは、 \mathbb{Z} のイデアル  A は、 0 と 負の数 を要素として持つということです*1。このことは、次回ちょっとだけ使います。

(証明)
(a) について:
 A はイデアルより, 定義 1.10 の (1) から, A の任意の要素  a に対して  a - a \in A が成り立つ.よって, a-a = 0 より  0 \in A

(b) について:
 A はイデアルより, 定義 1.10 の (1) から, A の任意の要素  a に対して  0 - a \in A が成り立つ.よって, 0-a = -a より  -a \in A.同様に逆も成り立つ.

(証明終わり)


これらの結果をまとめると、 \mathbb{Z} のイデアルについて次のような図が書けるでしょう。

f:id:tsujimotter:20150108141130p:plain:w320
図:「 \mathbb{Z} のイデアル」のイメージ

すべての  \mathbb{Z} のイデアル  A \mathbb{Z} の部分集合であること、 0 が存在すること、すべての  a\in A に対して  -a が存在すること、の3点に注目してください。

イデアルの使い道

さて、ここまで「イデアルの定義」について説明しました。

まだまだ「イデアルが何を表しているのか」わかりづらいかもしれませんね。イメージが沸きづらいこともあって「何やら全然関係のない脇道にそれてしまった」と思っている人もいるかもしれません。

ところが、このイデアルという概念は、ちゃんと 定理 1.6 の証明に「役に立つ」のです。本記事の締めくくりとして、「イデアルが 定理 1.6 の証明にどのように役に立つのか」を示して終わりたいと思います。


実は  \mathbb{Z} のイデアルを使うと、上の 定理 1.6 は、より抽象的な次の 定理1.13 における「特殊な系」として表現できるようになります。これが面白いポイントです。

定理 1.13
 \mathbb{Z} の任意のイデアル  A に対して,ある整数  m \geq 0 が存在して  A = m\mathbb{Z} が成り立つ.


定理 1.13 は、要するに次のことを主張しています。

 \mathbb{Z} のイデアルは、常に単項イデアルである」


この主張はなかなか強力です。たとえば上の式 (1.1) で定義した、

 a_1\mathbb{Z} + \cdots + a_n\mathbb{Z} = \left\{ a_1 x_1 + \cdots + a_n x_n \mid x_1, \ldots , x_n \in \mathbb{Z} \right\} \tag{1.1再掲}

 \mathbb{Z} のイデアルですが、これに等しい  \mathbb{Z} の単項イデアルが常に存在するというわけです。それをたとえば  d\mathbb{Z} とおけば

 a_1\mathbb{Z} + \cdots + a_n\mathbb{Z} = d\mathbb{Z}

となります。たとえば、左辺が n = 2 だとして,  a_1 = a, a_2 = b とおけば,

 a\mathbb{Z} + b\mathbb{Z} = d\mathbb{Z} \tag{1.3再掲}

となりますから、 定理 1.6 の言い換えと同じ形の式が現れました。面白いでしょう!(厳密に言えば、 d = \gcd(a, b) であることを示していないので、片手落ちですが。)


これらの事実から、整数  \mathbb{Z} においては、単項イデアルが重要であることもわかります。整数  \mathbb{Z} 以外ではどうなるのかも気になるところですね。

次回予告

次回は 定理 1.13 の攻略をしたいと思います。そこでは「割り算」がキーワードになります。

次回記事です(2014/1/11追記)

*1:群の言葉を使うと「 \mathbb{Z} のイデアルは、加法に対してアーベル群(可換群)をなす」ということができます。もっというと  A \mathbb{Z} の部分集合なので「 \mathbb{Z} の加法群における部分群」です。