tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

リーマンの素数公式の導出の概略(Enjoy Mathematics! 寄稿記事の公開)

ゼータ関数を通して素数のことが理解できてしまうという魔法の公式、これが今日のテーマです。

この公式はtsujimotterが素数に興味を持つきっかけとなったもので、これまでも様々な場所でこの公式の魅力について語ってきました。

たとえば、こちらの講演動画など:
www.youtube.com


 \pi(x) を「素数のときだけ一段上がる階段状の関数」とします。一般には素数計数関数と呼ばれるものです。

リーマンの素数公式(あるいはリーマンの明示公式) とは、この  \pi(x) の挙動を明示的に表す次の公式のことです: 

 \displaystyle \pi(x) =\sum_{1\leq m\leq \log_2(x)} \frac{\mu(m)}{m} \left( \operatorname{li}(x^{\frac{1}{m}}) - \sum_{\rho} \operatorname{li}(x^{\frac{\rho}{m}}) - \log 2 - \int_{x^{\frac{1}{m}}}^{\infty} \frac{dt}{t(t^2-1) \log t} \right) \tag{1}


詳しい式の意味は記事本体を読んでいただきたいと思います。ポイントだけ説明すると、 \rho についての和の項がゼータ関数の非自明な零点(れいてん・ぜろてん)に関連する項で、零点の寄与を順に足し合わせることで  \pi(x) の関数値が完全に再現できるということを表しています。

上の公式はとても面白いので、それなりに一般向けの解説もなされていると思います。しかしながら、式の導出まで踏み込んだものはあまりみかけません。

もちろん専門的な本、たとえば次の本の第1章ではこの公式の導出が丁寧に説明されています:
明解 ゼータ関数とリーマン予想 (KS理工学専門書)

明解 ゼータ関数とリーマン予想 (KS理工学専門書)

とはいえ、いきなりこの本を読んで勉強するというのも大変かと思います。

  • 概要程度でもいいから、リーマンの素数公式の導出の過程について知りたい。
  • 特に「ゼータ関数の非自明な零点が関わってくるのは一体何故なのか」がピンポイントで気になる。

そんな方のための記事となっています。よろしければぜひご覧になってください。



PDFのリンクはこちら!

今回はいつもと違って、PDFの公開となっています。

こちらのDropboxリンクにアクセスしてください:
www.dropbox.com

f:id:tsujimotter:20200822012853p:plain:w240f:id:tsujimotter:20200822013141p:plain:w240
↑ 最初の2ページのイメージ画像です

気合いを入れて書いた記事となっていますので、ぜひたくさんの方に見ていただきたいと思っています。

諸注意:
上記のPDFはダウンロードしていただいて構いませんが、許可なく再配布することは禁止したいと思います。
他の方に紹介したい場合は、本ブログ記事のリンクをシェアしてください。
Twitter等で本ブログ記事を紹介することは大歓迎です。ぜひお願いします。

なお上記の記事はできるだけ誤りがないように書いたつもりですが、私の誤解等により誤りが含まれている可能性はあります。あらかじめご了承ください。


上記のPDFを作成した経緯を簡単に説明します。今回の記事は叶数理さんの合同誌「Enjoy Mathematics!(2018/12/31発刊)」にtsujimotterが寄稿した記事となっています。
next-nexus.booth.pm

叶数理さんより許可(発売日以降、原稿の公開可)をいただいていたことをすっかり忘れていまして、発売日からだいぶ経ってからの公開となりました。上の同人誌には、私のほかにもたくさんの方々の面白い記事が掲載されていますので、よろしければこちらもお求めいただければと思います。

合わせて楽しんでいただきたいページ

リーマンの素数公式を可視化することができるページです。リーマンの素数公式についてもっとよく理解したいと思い、5年前に作りました。
tsujimotter.info

"+" ボタンを押していくと、零点の寄与が次々に足されていくという仕組みです。素数公式の意味が明快になるかと思いますので、ぜひ遊んでみてください。

補足

今回のPDFでも、リーマンの素数公式の可視化のページにおいても、どちらもそうなのですが、リーマンの素数公式  (1) そのものではなく  J(x) を用いた公式を紹介しています。

 J(x) は「素数  p のべき乗  p^m のときだけ  1/m 上がる階段状の関数」となっています。 J(x) \pi(x) よりやや複雑な定義となっていますが、グラフの形状はほとんど変わりません。

この  J(x) を用いると、素数公式は

 \displaystyle J(x) = \operatorname{li}(x) - \sum_{\rho} \operatorname{li}(x^{\rho}) - \log 2 - \int_{x}^{\infty} \frac{dt}{t(t^2-1) \log t} \tag{2}

のように簡潔に表示されるので、式  (1) の代わりにしばしば用いられます。

 J(x) \pi(x) の間には

 \displaystyle J(x) = \sum_{k = 1}^{\infty} \frac{1}{k} \pi(x^{\frac{1}{k}})
 \displaystyle \pi(x) = \sum_{m = 1}^{\infty} \frac{\mu(m)}{m} J(x^{\frac{1}{m}})

という関係があり、相互に変換可能です。 \mu(m) はメビウス関数です。
(実際、式  (2) に下側の変換を用いると式  (1) が得られることを確認してみましょう。)


なお、上の変換は一見無限和のように見えますが、実質的に有限和であることに注意しましょう。 x < 2 においては  \pi(x) = 0, \; J(x) = 0 の値をとりますので、実際は  1  \leq k \leq \log_2(x), \;\; 1  \leq m \leq \log_2(x) の範囲だけ計算すれば十分です。