2015年5月22日に開催された「第3回プログラマのための数学勉強会」で、今回も発表してきました。
発表の様子(写真は馬場彩さまに撮影いただきました)
第3回のテーマには「ガロア理論」を選びました。特に、ガロアの論文の主題だった「五次方程式はなぜ解けないのか?」というポイントに絞ってお話ししました。この辺は、話だけは聞いたことあるけど、詳しい仕組みは分からない、という方も多いのではないでしょうか。
準備中に気づいて驚いたのですが、実は今日5月31日は「エヴァリスト・ガロア」の命日です。ガロアが決闘で敗れ息を引き取ったとされる、あの日なのです。死の直前、弟のアルフレッドに向かって言ったとされる、ガロアの名言が思い起こされます。
「泣くな!20歳で死ぬにはあらん限りの勇気が必要なんだ!」
こんな日にガロアについて書けるなんて、なんとも感慨深いものがありますね。
数学勉強会の情報まとめ
勉強会の全体的な情報は以下に挙げるページにまとまっていますので、今回は割愛します。その他の発表者の方のプレゼンもとても面白かったので、ぜひとも YouTube の動画で観ていただきたいです。
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主催者によるレポート:
「五次方程式が代数的に解けないわけ」
簡単に内容についてまとめようと思ったら、上の主催者レポートに素敵な文章がありましたので、そのまま引用します。こんな話でした。
日曜数学者 id:tsujimotter さんの「ガロア理論」の発表です。高校の教科書にコラムとして載っていた「三次方程式、四次方程式の解の公式」の下に「五次方程式は解けない」とサラッと書いてあったのがガロア理論との出会いだったとのことです。
「五次方程式が解けないことを証明する理論」というと後ろ向きな感じがしてしまいますが、「方程式が解けるとはどういうことか」を突き詰めて、無限にある可能性の中からコアとなる構造を取り出すことでその性質を明らかにしていく壮大な謎解きの理論だと思えば、ガロア理論のワクワク感が感じられるかと思います。
前回同様、YouTubeに動画を挙げてもらっています。
資料はこちらです。
発表の工夫点
ガロア理論は、抽象代数学の発端と言われていて、非常に広範囲の数学分野に適用できる一大理論です。30分の発表で全部を紹介するわけにはいかないので、今回は「五次方程式が代数的に解けない仕組み」に絞りました。
とはいえ、「五次方程式が解けない仕組み」に到達するためには、たくさんの山があってなかなか大変です。普通はこの内容を説明しようとすると、本1冊分かかってしまいますので、どうにかしてコンパクトに収めなければ行けない。
この手の問題を解決するために、「ガロアの人生についての面白いエピソードだけ話す」や「聴衆がついてこないのを承知で飛ばし飛ばし話す」といった方法が考えられますが、今回はそれはしたくありませんでした。だって、せっかく数学の美しい理論の話が聞けると思ったのに、まったく中身が理解できないのでは面白くないと思うのです。
というわけで、聴衆がよく知っているだろう「二次方程式の解の公式」から始めて「五次方程式が解けない仕組み」を最後まで話し切ることを目標に設定しました。そのためには、不要な情報を削って、骨組みだけをきちんと話すことが重要です。現代の抽象的な道具にとらわれずに、当時のモチベーションに忠実に話すことにこだわりました。具体的には「【体】という言葉を使わない」「三次方程式の説明でよく用いられる【三角形の置き換えの群】を使わずに、【置換群】だけで説明する」という点を工夫しています。
結果として「30分で学べるガロア理論の入門」としては、なかなか良い出来になったのではないかと自負しています。今後もブラッシュアップしていきたいと思っていますので、ご意見・コメント等ありましたら、ぜひtsujimotterまでご連絡ください。
ちなみに、今回のスライドは補足もなかなか充実しています。質疑の最中にお見せした4次方程式のガロア対応についてや、巡回群とラグランジュ・リゾルベントの関係の話などがまとまっていますので、興味がある方は覗いてみてください。
おわりに
第1回では「素数とゼータ関数」について、第2回では「平方剰余の相互法則」について、第3回の今回は「ガロア理論」について発表してきました。
当初は、まったく無関係な3テーマかと思っていたのですが、実はなんと、これらを合わせた集大成的な数学理論があるという事実を知ってしまいました。
ということで今がんばって勉強しようと思っているところです。といっても、すぐに会得できそうな話ではないと思うので、次以降はもう少し細々したテーマ(もちろん、それ自体魅力的なテーマ)について話してみたいなと思っています。
ところで、tsujimotter のお誘いした人たちと発表者の何人かとで、終了後にプチ打ち上げをしてきたのですが、これがまた楽しかった。あこがれの素数Tシャツさんやニコニコ学会で知り合ったキグロさんやはむくんと朝方まで素数大富豪をしたり。趣味の合う人たちと一緒に、お酒を飲みながら交わす数学の話は本当に楽しい。ぜひまた開きたいと思いました。
余談ですが、後日素数Tシャツさんがはむくんの動画をtwitterで紹介していたりして、自分のことのように嬉しい気持ちになりました。こういう横のつながりが生まれるのも、リアルな勉強会の良いところですよね。
簡単ですが、今日はこの辺で。
追記
CodeIQの馬場さまに記事を書いていただきました!
codeiq.jp
さらに追記(2016/03/22):
ガロア生誕200年の2011年に、海城中学高等学校というところで「高校生向けのガロア理論の集中講座」が開催されていました。高校生相手に5日間でガロア理論を教えるという非常に野心的な取り組みです。
実は、最初にガロア理論の発表をしようと思ったきっかけは、この取り組みを知ったことでした。
「高校生にガロア理論が教えられるのか!しかも5日間で!」と感動したのを覚えています。そのとき勢いでツイートしたものがまだ残っていました。
中高生にガロア理論をガチで教えてる学校発見!先生の熱意もすごいが、生徒もなんとかついて行っている感じがしてすごい・・・ http://t.co/A7IHFYS1
— tsujimotter (@tsujimotter) 2012年12月29日
そして「高校生に5日間で教えられるのなら、大人になら30分あれば説明できるはずだ!」と分けの分からないロジックで己を奮い立たせて、発表に挑んでいたはずです。笑
以下のページに講義資料や事後評価などまとまっているので、ぜひご覧になってください。たいへんわかりやすく丁寧に作り込まれており、非常に参考になります。このような資料を残してくださっている海城中学高等学校の数学科の先生に感謝です。
Galois生誕200年記念
2011年度数学科夏期リレー講座(2011/8/22~8/27)
またガロア理論の独習にあたっては、以下のサイト・書籍に大変お世話になりました。ご紹介させていただくとともに、この場を借りて感謝の意を表したいと思います。
galois.motion.ne.jp
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