ご無沙汰しています。tsujimotterです。
久しぶりに「クロネッカー・ウェーバーの定理と証明のあらすじ」シリーズの続きを書きたいと思います。
tsujimotter.hatenablog.com
今日の主役は クンマー拡大 です。クンマー拡大とは,「巡回拡大」が「ベキ根の添加」によってかけるような拡大のことです。このような拡大のときは,いろいろと都合がよい性質があるのです。
連載の中で紹介された証明は,Neumann による証明をベースにしているそうです。非常に面白いトピックを扱った連載なので,詳しい内容を知りたい方はぜひ購入して読んでみてください。
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クンマー拡大の定義
まず,クンマー拡大を定義することから始めましょう。
この記事全体の前提として, は標数 0 の体で 1 の
乗根全体
を含むとします。
今回の場合は, を代数体に限定して構いません。 さらに,
は 1 の
乗根全体を含むので,たとえば,
を想像してください。
また, が
を含むとき,拡大
を クンマー拡大 という.
状況としては,こんな状況を想像してもらえればと思います。

巡回拡大 があるときに,基礎体
に
の
乗根を添加すると
に一致するような「都合の良い
」が存在するという主張です。
これから証明について述べていきますが,本記事では は素数のべき,すなわち,
(
は素数,
は正整数)に限定して考えたいと思います。クンマー拡大の命題は一般の
について成り立つものですが,このシリーズで必要なのは
の場合だけです。
証明は以下のような流れで進めます。
- 前提である「
の
乗根」と「巡回置換」を用いて,
の候補となる複数の元
を作る。
- 上の候補の中から
となる
が存在することを示す。
であることを示す。
は,実は
の元であることがわかるので,これを
とする。
まず,証明の舞台となるセッティングについて述べていきましょう。
は
次巡回拡大なので,
と書くことができます。また,
となるような
をとりましょう(
にある特定の元を添加したら
になるはずなので,そのような元をひとまず
としておくのです)。さらに,
の原始
乗根の1つを
としておきましょう。
以下のような状況です。

さて,証明に取り掛かります。
以上の元に を作用させると
が成立します。
これから, なる
の中で,少なくとも1つは
であるものが存在することを示します。
ここで,すべての に対して,
と仮定すると,
が成り立つ。
以下の図は の例です。
さらに, の定義式を展開すると
ここで,
より,
が成り立つ。
式 より,
すなわち, の作用に対して不変であるので,
より
が結論される。ここで,以下のようなガロア対応を考える。

は
の作用によって不変なので
であるが,
である(
が自明であれば
であるが,
の位数は
であるからおかしい)。
したがって,Galoisの基本定理より である。しかしこれは
の定義,すなわち,
に矛盾する。
よって,少なくともある について
であることが示された。
このとき, の
における位数は
なので(
は
乗すると
になる),
から
がわかる(
のときに限り
となり不変)。 よって,
なので,Galoisの基本定理から
となる。
また, から
も出るので,再びGaloisの基本定理から
がわかる。よって,
が得られ, を満たす
を見つけることができた。
前回の議論に戻って
さて,ここで前回の 上のアーベル拡大の議論に戻りましょう。
前回は,クロネッカー・ウェーバーの定理の証明を が
次の巡回拡大のケースに帰着したのでした。今回は,次のステップとして,この巡回拡大をベキ根を使って表すことにします。
ただし,クンマー拡大はこのままでは使えません。なぜなら, の基礎体である
は「1 の
乗根すべて」を含まないため,クンマー拡大の条件を満たさないからです。
ではどうするか。ここが一番面白いポイントです。
と
それぞれに,1 の
乗根
を添加してしまうのです。図で表すと,こういう状況です。

何やらややこしいことをして,これで収拾がつくのだろうかと思うかもしれません。でもこれでうまくいくのです。次のような命題が成り立ちます。
(1) はアーベル拡大であり,
は
次(
)の巡回拡大である。
(2) をみたす
が存在する。
命題 2 の状況を図に書き加えるとこうなります。

(1) の証明
まず, がGalois拡大であることが(示しませんが)わかります。
また,

が単射準同型である(右のほうが大きい群で,左の群が埋め込まれる)。右辺の群はアーベル群の直積なので,左辺もアーベル群であることがわかる。よって, はアーベル拡大((1) の前半が証明できた)。
さらに,

も単射準同型であることがわかる。右辺の群の位数は 次で,左辺の群はこれを割り切るから,
次(
)であるという主張も示された。
(2) の証明
(1) より, は
次巡回拡大である。また,
より
は 1 の
乗根すべてを含む。
したがって命題 1 より, を満たす
が存在する。
ここで, とすると,
であり,さらに である。したがって,
をみたす
を見つけることができた。
まとめと次回予告
以上の議論によって, という元が存在して,任意の
次巡回拡大
に対して
という包含関係を示すことができました。あとは,べき根の部分を含む が,
上の円分拡大に含まれることを示せばオーケーです。
今回 という元の存在を示すことに成功しましたが,このような元を実際に構成するのは困難です。というのも,
の定義には
という未知の元が必要でしたし,
も
で
かつ
という条件でした。このような
を具体的に見つけるのは困難です。そのため,前回示した二次拡大の場合のような方向性の証明は難しそうです。
我々の目的はクロネッカー・ウェーバーなので, という元を
上の円分拡大の中で表現できればよいと考えます。そこで,
のガロア群を考えることになります。
は,クンマー拡大
のガロア群
に対しては不変となります(
は
に対して分かりやすい振る舞いをします)。
一方, がどのように作用するかは,現段階では明らかではありません。実は,次回に示すクンマー拡大の性質によって,
が
に対してどのように振舞うかがわかってしまいます。
次回は「クンマー・ペアリング」という道具を用いて,ガロア群 の作用を具体的に調べる方法を紹介します。
参考:
の場合
の場合は,
が2次拡大になります。このとき,
になります。したがって,任意の2次拡大は,単に
に平方根を添加することで構成できるのです。
というわけで,クンマー拡大は2次拡大の一般化になっています。ただ のときは,1のべき根が入ってくるのでそう簡単にはいかないね,というのが今回のお話でした。