tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ザリスキー接空間(続・多項式関数に接する多項式関数)

前回の記事の続きです。まだ読んでいない方はこちらから。
tsujimotter.hatenablog.com

前回の記事では、 x = p を通る直線を考えて「この直線に  x = p で接する関数全体の同値類」を考えて、その同値類全体がザリスキー余接空間  \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2になっているという話をしました。また、この余接空間の双対空間として、ザリスキー接空間  (\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2)^* が定義できるよという話もしました。

一方で、ザリスキー接空間については、双対空間を経由せずとも直接的に考えることができるよ、と第二宇宙賢者さんからアドバイスいただきました。

ヒントとして次のPDFを教えていただきましたので、PDFの内容を参考にしつつ、ザリスキー接空間について考えてみたいと思います。

NOTES ON THE ZARISKI TANGENT SPACE
SAM EVENS
https://www3.nd.edu/~sevens/tanspace.pdf


なお、上の記事では一般の多変数の多項式環を元に考えていますが、今回は前回の記事の続きということで、1変数の多項式環に限定して議論したいと思います。また、 \mathbb{R}[x] で考えるのは  \mathbb{R} が代数閉体でないゆえの問題(特に極大イデアルに関する問題)がありそうなので、 \mathbb{C}[x] で議論したいと思います。

目次:

(ざっとおさらい)微分多様体の接空間

接空間について考えるために、(今回の目的とは直接関係ありませんが)まずは微分幾何的な意味での接空間を振り返りたいと思います。

そもそも接空間とは、可微分多様体  M を考えて、その点  P に対して「接する」ベクトル空間のことを指します。もちろん「接する」と言っても、次の記事で実行したように、ユークリッド空間の中で「目に見えるような形で」接する面を定義できる訳ではありません。
tsujimotter.hatenablog.com

そこで、点  P の近傍で定義できる  C^\infty 級関数全体  C^\infty_P(M) を考えて、 C^\infty_P(M) 上の微分作用素のなすベクトル空間として接空間を考えます。具体的には

 D \colon \; C^\infty_P(M) \longrightarrow \mathbb{R}

であって、以下の2つの性質を満たす  D を微分作用素といいます。

  • (線形性)  D(af+bg) = a D(f) + b D(g) (ただし、 a, b \in \mathbb{R}, \; f, g \in C^\infty_P(M)
  • (ライプニッツ則)  D(fg) = f(P) D(g) + g(P) D(f) (ただし、 f, g \in C^\infty_P(M)

微分作用素は、その点  P における「微分係数」の値を取り出すような作用素になっています。点  P における微分作用素全体は  \mathbb{R}-ベクトル空間をなします。

たとえば、点  P の周りの座標として  (x_1, \ldots, x_n) が取れるとすると

 \begin{align} \left(\frac{\partial}{\partial x_i}\right)_P \colon \;C^\infty_P(M) &\longrightarrow \mathbb{R}, \\
f &\longmapsto \frac{\partial f}{\partial x_i}(P) \end{align}

は点  P における微分作用素です。実際、線形性とライプニッツ則を満たします。

 P における微分作用素全体の中で、特に

 \displaystyle \left(\frac{\partial }{\partial x_1}\right)_P, \; \ldots, \; \left(\frac{\partial }{\partial x_n}\right)_P

によって生成される部分空間を点  P における接空間と定義し、 T_P(M) で表します。 T_P(M) の元を接ベクトルといいます。


しかしながら、現在は  C^\infty 級の微分多様体を仮定していますが、この仮定の下であれば接空間は微分作用素全体に一致します。つまり、微分作用素を考えればそのまま接ベクトルになるというわけですね。


ザリスキー接空間

今回考えたいのは、微分多様体ではなく、代数多様体です。

実際には、 R = \mathbb{C}[x] を座標環とするような代数多様体  X = \mathbb{C} を考えたい訳ですね。したがって、微分多様体の接空間をそのまま考えることはできないわけです。

実際、微分多様体として考えられないかどうかについては、私自身はよくわからないです。とりあえず、参考記事の内容にしたがって、接空間のアナロジーを考えたいというモチベーションです。

しかしながら、その類似みたいなものは考えられるわけで、それがザリスキー接空間ということなのだと思います。


 X 上の関数として、 R = \mathbb{C}[X] を考えます。上で  C^\infty 級関数にやったように、多項式環  R に対して同じように微分作用素的なものを考えたいわけですね。

 P \in X とします。 D \colon R \longrightarrow \mathbb{C} であって、以下の2つの性質を満たすものを  R 上の( \mathbb{C} 値)導分(deriviation)といいます:

  • (線形性)  D(af+bg) = a D(f) + b D(g) (ただし、 a, b \in \mathbb{C}, \; f, g \in R
  • (ライプニッツ則)  D(fg) = f(P) D(g) + g(P) D(f) (ただし、 f, g \in R

微分作用素とまったく同じような定義ですね。


 R = \mathbb{C}[x] 上の導分の重要な例としては

 \begin{align} \left(\frac{d}{dx}\right)_P \colon R &\longrightarrow \mathbb{C}, \\
f &\longmapsto \frac{df}{dx}(P) \end{align}

があります。ここで、 \frac{df}{dx}

 \displaystyle \frac{d(x^n)}{dx} = n x^{n-1}

によって定まる「多項式の微分」であり、 \left(\frac{d}{dx}\right)_P は点  P での  f の「微分係数」を取り出す写像になっていますね。この写像が線形性とライプニッツ則を満たすことは容易に分かります。


ここで、点  P におけるザリスキー接空間  T_P(X) は、上記で定義した導分全体のなすベクトル空間として定義されます。簡単ですね!


さてこの  T_P(X) なのですが、多項式環  R = \mathbb{C}[x] 上においては、実は  \left(\frac{d}{dx}\right)_P で生成される1次元  \mathbb{C}-ベクトル空間になっているのです。この事実を示したいと思います。

命題1
 X = \mathbb{C} とし、 R = \mathbb{C}[x] とする。 P \in X におけるザリスキー接空間  T_P(X) は、 \left(\frac{d}{dx}\right)_P で生成される1次元  \mathbb{C}-ベクトル空間である。

(証明)
まず、点  P の座標を  x = p \in \mathbb{C} としましょう。任意の多項式  f \in R = \mathbb{C}[x] は、 x = p の周りで

 f(x) = a_0 + a_1 (x-p) + a_2 (x-p)^2 + \cdots + a_n (x-p)^n

のように、展開されます。このとき、 f(p) = a_0 となります。

また、2次以降の項は  (x-p)^2 (a_2 + \cdots + a_n(x-p)^{n-2}) とまとめることにより、 (x-p)^2 g(x) の形にすることができます。

 D を導分とすると、ライプニッツ則を関数  (x-p), \; (x-p)g(x) の積に対して実行すると

 \begin{align} D(  (x-p)^2 g(x) ) &= (x-p)|_{x=p} D( (x-p)g(x) ) + (x-p)g(x)|_{x=p} D( (x-p) ) \\
&= 0 \end{align}

となります。また、 a_0 に対しては

 D(a_0 \cdot 1) = a_0 \cdot D(1) + 1 \cdot D(a_0)

より、 D(1) = 0 となります。線形性より  D(a_0) = 0 であることもわかります。

したがって、 D(f) D(x) の行き先だけで決まることになり、 D(x) の行き先は  \mathbb{C} 全体が取り得ます。

特に  D(x) = 1 となるのが、 D = \left(\frac{d}{dx}\right)_P となり、すべての  D \in T_P(X) はこの  \mathbb{C} 倍となるので、 T_P(X) D = \left(\frac{d}{dx}\right)_P を基底とする1次元ベクトル空間であることが示されました。

(証明おわり)


結局、 X = \mathbb{C} 上の点  P における「微分的なもの」は、本質的には  \left(\frac{d}{dx}\right)_P しか存在しないということですね。


ザリスキー余接空間

上で定義したザリスキー接空間の双対空間がザリスキー余接空間です。なのですが、この節の最後に説明するように、 \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 という形の  \mathbb{C}-ベクトル空間をザリスキー余接空間の定義とします。これが、実際にザリスキー接空間の双対空間であることは次節で示します。


 R = \mathbb{C}[x] の極大イデアルは、 \mathbb{C}[x] が単項イデアル整域(PID)であり、また  \mathbb{C} が代数閉体なので  \mathfrak{m}_P = (x-p) p \in \mathbb{C})の形で表すことができます。この  \mathfrak{m}_P x = p であるような  \mathbb{C} 上の点  P に対応する極大イデアルだと思うことができますね。

 \mathfrak{m}_P の任意の元は

 (x-p)f(x) f(x) \in R

の形でかけますので「 x = p で零点を持つ多項式全体」だと思ってもいいですね。

 \mathfrak{m}_P^2 はイデアルの積なので  \mathfrak{m} の元  f_i, g_i の積の有限和  \sum f_i g_i 全体となります。とはいえ、今回は  \mathfrak{m}_P = (x-p) が単項イデアルなので、単純に  ((x-p)^2) と考えてよいです。すなわち「 x = p で2位以上の零点を持つ多項式全体」ですね。「 (x-p) で重根を持つ多項式全体」といってもよいでしょう。


ここで、 \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 が1次元  \mathbb{C}-ベクトル空間であることを示しましょう。そのために、以下の命題2を示します。

命題2
 X = \mathbb{C} とし、 R = \mathbb{C}[x] とする。 \mathfrak{m} \subset R R の極大イデアルとする。

このとき  \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 は、有限次元  R/\mathfrak{m}-ベクトル空間である。

今回の命題は  R = \mathbb{C}[x] に限定していますが、ここではより一般的なケースにも通用するような証明を書きたいと思います。


(証明)
 R の極大イデアル  \mathfrak{m} には多項式環  R が作用します。すなわち、 f \in R, \; g \in \mathfrak{m} に対して  fg \mathfrak{m} の元です。

 \mathfrak{m} を点  x = p に対応する極大イデアルとすると、 x=p に零点を持つ多項式  g に、多項式  f をかけたものは、同じく  x = p に零点を持つ多項式になりますね。

また、 R の中で特にその部分集合  \mathfrak{m} \subset R の作用を考えると、 f, g \in \mathfrak{m} に対して  fg \mathfrak{m} の2元の積なので  \mathfrak{m}^2 に入りますね。つまり、 \mathfrak{m} の元  f \mathfrak{m} / \mathfrak{m}^2 の元  \overline{g}に作用させると、その行き先は

 f\cdot \overline{g} = \overline{0}

になるわけです。


この事実を用いると、 R/\mathfrak{m} \mathfrak{m} / \mathfrak{m}^2 にwell-definedに作用することが、次のようにわかります。

 R/\mathfrak{m} の元  \overline{f} による  \mathfrak{m} / \mathfrak{m}^2 の元  \overline{g} への作用を

 \overline{f} \cdot \overline{g} := \overline{fg}

と定義すると、これは次に示すように  \overline{f} の代表元  f の取り方によりません。

実際、 \overline{f+h} = \overline{f} \in R/\mathfrak{m}, \;\; \overline{g} \in \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 としたとき

 (f + h) \cdot g \equiv fg + gh \equiv f \cdot g \pmod{\mathfrak{m}^2}

となり、次が成り立ちます:

 \overline{(f + h) \cdot g} = \overline{f \cdot g}

よって、 \overline{f} \overline{g} への作用は、代表元  f の取り方によらないことが分かりますね。


以上により、アーベル群  \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 に対して、 R/\mathfrak{m} が作用することが分かりました。 \mathfrak{m} は極大イデアルなので  R/\mathfrak{m} は体であり、 \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 は体が作用する加群ということになります。


また、 R はネーター環なので、イデアル  \mathfrak{m} R 上有限生成です。また、 \mathfrak{m}^2 R 上有限生成であり、 \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 R 上有限生成です。ここで、 \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 R 上の生成系を  \overline{g_1}, \ldots, \overline{g_n} \in \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 とすると、 \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 の任意の元  \overline{g}

 \overline{g} = f_1 \overline{g_1} + \cdots + f_n \overline{g_n} f_1, \ldots, f_n \in R

と表せますが、 f_i \overline{g_i} = \overline{f_i} \overline{g_i} なので

 \overline{g} = \overline{f_1} \overline{g_1} + \cdots + \overline{f_n} \overline{g_n} \overline{f_1}, \ldots, \overline{f_n} \in R/\mathfrak{m}

と表せることになります。すなわち、 \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 R/\mathfrak{m} 上有限生成です。

したがって  \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 は、有限次元  R/\mathfrak{m}-ベクトル空間であることが言えました。

(証明おわり)


特に、 R = \mathbb{C}[x] においては、 \mathfrak{m}_P を座標  x = p の点  P に対応する極大イデアル  \mathfrak{m}_P = (x-p) とすると

 \begin{align} R/\mathfrak{m}_P = \mathbb{C}[x] / (x-p) \simeq\;\; &\mathbb{C}, \\
\overline{f(x)}\;\;\;\; \longmapsto \;&f(p)\end{align}

という同型がありますので、 R/\mathfrak{m}_P \mathbb{C} と見做すことにより  \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 \mathbb{C}-ベクトル空間ということになります。

また、  \mathfrak{m}_P = (x-p) R = \mathbb{C}[x] 上1元生成であり、かつ、  \mathfrak{m}_P^2 = ((x-p)^2) で割った  \mathfrak{m}_P / \mathfrak{m}_P^2 の代表元は  a(x-p) a \in \mathbb{C})と表せます。よって、 \mathfrak{m}_P / \mathfrak{m}_P^2 \overline{(x-p)} で生成される  \mathbb{C}-ベクトル空間となります。したがって、 \mathbb{C} 上の次元は1次元です。


さて、こんなわけで1次元  \mathbb{C}-ベクトル空間  \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 のことを、点  P におけるザリスキー余接空間ということにします。


双対性

このザリスキー余接空間  \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 が、ザリスキー接空間  T_P(X) の双対空間であることを示しましょう。すなわち

 T_P(X) \simeq (\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2)^*

を示したいと思います。これは  \mathbb{C}-ベクトル空間としての同型です。


これを示すためには、両者の間に全単射な線形写像が存在することを示す必要があります。そのために、 D \in T_P(X) に対して

 \begin{align} \chi_{D} \colon \mathfrak{m}_P / \mathfrak{m}_P^2 &\longrightarrow \mathbb{C}, \\
\overline{f} &\longmapsto D(\overline{f}) \end{align}

という写像を考えたいと思います。 D は導分なので線形写像ですから、 \chi_D \operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}( \mathfrak{m}_P / \mathfrak{m}_P^2, \, \mathbb{C} ) = (\mathfrak{m}_P / \mathfrak{m}_P^2)^* の元ということになります。

したがって

 \begin{align} \chi \colon T_P(X) &\longrightarrow (\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2)^*, \\
D &\longmapsto \chi_D \end{align}

なる写像が定まるわけです。これが  \mathbb{C}-線形同型であることを示したいと思います。

 D_1, \, D_2 \in T_P(X) a_1, \, a_2 \in \mathbb{C} および  \overline{f} \in \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 に対して

 \begin{align} \chi_{a_1 D_1 + a_2 D_2}(\,\overline{f}\,) &= (a_1 D_1 + a_2 D_2)(\,\overline{f}\,) \\
&= a_1 D_1(\,\overline{f}\,) + a_2 D_2(\,\overline{f}\,) \\
&= a_1 \chi_{D_1}(\,\overline{f}\,) + a_2 \chi_{D_2}(\,\overline{f}\,) \\
&= (a_1 \chi_{D_1} + a_2 \chi_{D_2})(\,\overline{f}\,) \end{align}

が成り立ちます。 \overline{f} は任意より

 \chi_{a_1 D_1 + a_2 D_2} = a_1 \chi_{D_1} + a_2 \chi_{D_2}

が従います。よって、 \chi \mathbb{C}-線形写像です。

次に逆方向の線形写像を作ります。 \chi \in (\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2)^* を考えると、これは  \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 から  \mathbb{C} への線形写像ということですが、これを  \chi(\mathfrak{m}) = 0 であるような線形写像

 \chi \colon \mathfrak{m}_P \longrightarrow \mathbb{C}

だと思うことができます。後者の写像を  \tilde{\chi} とおくと、自然な全射  \pi \colon \mathfrak{m}_P \longrightarrow \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 として  \tilde{\chi} = \chi \circ \pi と定義したということですね。

また、 \mathbb{C}[x]  \mathbb{C} \oplus \mathfrak{m}_P と思ったときに(多項式を「定数項」と「1次以降の項」に分けるイメージ)、

 \begin{align} D_\chi\colon \mathbb{C} \oplus \mathfrak{m}_P &\longrightarrow \mathbb{C}, \\
(a_0, f) &\longmapsto \chi(f) \end{align}

なる線形写像  D_\chi を考えれば、 D_\chi \colon \mathbb{C}[x] \longrightarrow \mathbb{C} であって、 \mathfrak{m}_P への制限が  D_\chi |_{\mathfrak{m}_P} = \chi となります。

この  D_\chi がライプニッツ則を満たすことを示しましょう。

 f, g \in R

 f = f(p) + f_1 f_1 \in \mathfrak{m}_P
 g = g(p) + g_1 g_1 \in \mathfrak{m}_P

のように表示しましょう。ここで

 fg = (f(p) + f_1)(g(p) + g_1) = f(p)g(p) + (f(p)g_1 + g(p)f_1) + f_1 g_1

となりますが、各項に  D_\chi を適用させて計算します。
\, \bullet \; D_\chi( f(p)g(p) ) = 0

\begin{align}\bullet \; D_\chi( f(p)g_1 + g(p)f_1 ) &= \chi( f(p)g_1 + g(p)f_1 ) \\ &= f(p) \chi(g_1) + g(p) \chi(f_1) \\ &= f(p) D_\chi(g) + g(p) D_\chi(f) \end{align}

\, \bullet \; D_\chi( f_1 g_1 ) = \chi( f_1 g_1 ) = 0

よって

 D_{\chi}(fg) = f(p) D_\chi(g) + g(p) D_{\chi}(f)

が従います。これはライプニッツ則に他なりません。

したがって、 \chi \in (\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2)^* から  T_P(X) の元  D_\chi を作ることができました。この対応が  \chi の逆写像を与えていることは構成から明らかです。したがって、 \chi \mathbb{C}-線形同型というわけですね。


つまり、 \mathbb{C}[x] から  \mathbb{C} への線形写像であって、多項式の1次の項を  0 に送って、2次以上も  0 に送るものは、自動的にライプニッツ則を満たすということですね。面白いですね!


双対関係の意味をもう少しだけ掴むために

 \begin{align} e\colon \;\;T_P(X) \times \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2 \; &\longrightarrow \;\;\; \mathbb{C}, \\
(D, \overline{f}) \;\;\;\;\;\;\;\; &\longmapsto \;D(\,\overline{f}\,)\end{align}

なる写像を考えます。

この  e双線形写像になっていることがわかります。こういう写像をペアリングというのでした。

 D_P \in T_P(X) に対して、ペアリング  e T_P(X) 側を固定して得られる線形写像

 \overline{f}\; \longmapsto \;e(D_P, \overline{f})

を考えると、先ほどの  \chi_{D_P} \in (\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2)^* に一致します。


 D \in T_P(X) \left(\frac{d}{dx}\right)_P の定数倍であり、ほとんど微分作用素  \left(\frac{d}{dx}\right)_P だと思えばいいですね。

一方で、 \overline{f} \in \mathfrak{m}_P / \mathfrak{m}_P^2 は、 x = p で零点を持つ多項式  f に「 x = p で接する多項式の同値類  \overline{f}」です。

この同値類は  x = p での接線を共有しているわけなので、微分係数(接線の傾き)は等しくなります。この微分係数を取り出す操作が上記のペアリング  D(\,\overline{f}\,) というわけですね。

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これでだいぶ幾何的な意味が分かってきたのではないでしょうか。


二重数環への準同型と接束

ところで、前回やった二重数環を思い出したいのですが、 \varepsilon^2 = 0 なるような数を添加した環  \mathbb{C}[\varepsilon ] に対しては

 \begin{align} \phi \colon \mathbb{C}[x] &\longrightarrow \;\mathbb{C}[\varepsilon], \\
a + b(x-p) + f_2(x) &\longmapsto a + b\varepsilon \end{align}

という環準同型があるのでした。さらにいうと、

 \phi(k f) = k\phi(f) k \in \mathbb{C}, \;  f \in \mathbb{C}[x]

も成り立つので、 \phi \mathbb{C}-代数としての準同型となります。(和と積と  \mathbb{C} 倍の構造を保存するということですね。)

ここで、さらに二重数環の第2成分を取るという写像  p_2 を合成すると

 \begin{align}p_2 \circ \phi \; \colon \; \mathbb{C}[x] &\xrightarrow{\; \phi \;} \,\; \mathbb{C}[\varepsilon] \;\, \xrightarrow{\, p_2 \,} \mathbb{C}, \\
a + b(x-p) + f_2(x) &\longmapsto a + b\varepsilon \, \longmapsto \,b \end{align}

となり、 p_2 \circ \phi は積の構造は保存しませんが、和と  \mathbb{C} 倍の構造は保存しますので、 \mathbb{C}-線形写像となります。

さらに多項式の1次の項を  0 に送って、2次以上も  0 に送るものになっていますので、ライプニッツ則を満たします。線形写像かつライプニッツ則を満たすので、導分になっているわけですね。接ベクトルです。

さらにいえば、今作った写像  \phi は、 \left(\frac{d}{dx}\right)_P そのものとなります。なので、二重数環の第2成分をとる写像は「微分」そのものだったわけですね。


今、多項式環  R から二重数環  \mathbb{C}[\varepsilon] への  \mathbb{C}-代数の準同型

 \begin{align} \phi \colon \mathbb{C}[x] &\longrightarrow \;\mathbb{C}[\varepsilon], \\
a + b(x-p) + f_2(x) &\longmapsto a + b\varepsilon \end{align}

を考えると、そこから接ベクトル  \left(\frac{d}{dx}\right)_P \in T_P(X) が得られることを示したわけです。


同様に、多項式環  R から二重数環  \mathbb{C}[\varepsilon] への任意の  \mathbb{C}-代数の準同型  \phi が与えられると、そこから接ベクトル  D_{\phi} \in T_P(X) が得られます。


実際、 \mathbb{C}-代数の準同型

 \begin{align} \phi \colon \mathbb{C}[x] &\longrightarrow \;\mathbb{C}[\varepsilon], \\
f &\longmapsto a(f) + b(f) \varepsilon \end{align}

を考えます。ここで  a(f),  \; b(f) \phi(f) の第1成分(定数部分)と第2成分( \varepsilon の係数部分)を表すことにします。 p_1, p_2\colon \mathbb{C}[\varepsilon] \to \mathbb{C} をそれぞれ第1成分・第2成分を取り出す写像とすると、 a = p_1 \circ \phi, \;\; b = p_2 \circ \phi であることに注意します。


 p_1 \mathbb{C}-代数の準同型であり、合成写像

 \begin{align}  a = p_1 \circ \phi \colon \mathbb{C}[x] &\longrightarrow \mathbb{C}, \\
f &\longmapsto a(f) \end{align}

 \mathbb{C}-代数の準同型です。特に  a(\mathbb{C}) = \mathbb{C} より  a は全射です。 a は環準同型でもあるから、環の準同型定理より環の同型

 \mathbb{C}[x] / \operatorname{ker}(a) \simeq \mathbb{C}

が誘導されます。右辺が体であるから、 \operatorname{ker}(a) は極大イデアルです。 \mathbb{C}[x] の極大イデアルは、座標が  x = p \in \mathbb{C} である点  P が存在して、 \mathfrak{m}_P = (x-p) と書けるものに限られますので、 \operatorname{ker}(a) = (x-p) です。したがって、上記の環同型は

 \begin{align} a\colon \mathbb{C}[x] / (x-p) \simeq &\;\;\mathbb{C}, \\
\overline{f}\;\; \longmapsto & \;a(f) \end{align}

ということになりますが、これにより  a f(x) x = p を代入する写像であることがわかります。すなわち、 a(f) = f(p) です。

結局何が言いたいかというと、多項式環から二重数環への準同型  \phi は「点  P の情報」を持っていて、点  P に対応する座標  x = p の周りで  f(x) を展開したときに、 (x-p) の1次以降の項が消えるような準同型になっているということですね。上で述べたことを繰り返しいうと、 f \mapsto a(f) f(x) x=p を代入する代入写像というわけです。

また、 \operatorname{ker}(a) = (x-p) は「環準同型  a\colon f \mapsto a(f) によって  0 に飛ぶ  f 全体」ですから、「点  P に零点を持つ多項式全体」を集めていることになりますね。


この事実を使って、合成写像

 \begin{align}p_2 \circ \phi \; \colon \; \mathbb{C}[x] &\xrightarrow{\; \phi \;} \,\;\;\; \mathbb{C}[\varepsilon] \;\;\;\;\;\;\, \xrightarrow{\, p_2 \,} \mathbb{C}, \\
f &\longmapsto f(p) + b(f)\varepsilon \, \longmapsto \,b \end{align}

が①  \mathbb{C}-線形写像であり、②ライプニッツ則を満たすことを示します。(この段階で既に  a(f) = f(p) としています。)

 p_2 \circ \phi \mathbb{C}-線形写像であること:
 c_1, c_2 \in \mathbb{C}, \;\; f, g \in \mathbb{C}[x] としたとき

 \begin{align} p_2 \circ \phi(c_1 f + c_2 g) &= p_2 ( c_1 \phi(f) + c_2 \phi(g) ) \\ 
&= c_1 p_2 \circ \phi(f) + c_2 p_2\circ \phi(g) \end{align}

であり、 p_2 \circ \phi \mathbb{C}-線形写像。

 p_2 \circ \phi がライプニッツ則を満たすこと:
 f, g \in \mathbb{C}[x] としたとき、次が成り立ちます:

 \begin{align} p_2 \circ \phi(fg) &= p_2( \phi(f) \phi(g) )  \\
&= p_2( (f(p) + b(f)\varepsilon)(g(p) + b(g)\varepsilon) ) \\
&= p_2( f(p)g(p) + (f(p) b(g) + g(p) b(f))\varepsilon + b(f)b(g)\varepsilon^2 )  \\
&= p_2( f(p)g(p) + (f(p) b(g) + g(p) b(f))\varepsilon )  \\
&= f(p) b(g) + g(p) b(f)  \\
&= f(p) \; p_2\circ \phi(g) + g(p) \; p_2\circ \phi(f) \end{align}

よって、 p_2 \circ \phi はライプニッツ則を満たす。


したがって、 D_\phi = p_2 \circ \phi とすると  D_\phi \in T_P(X) であることが分かりました。


今、 \mathbb{C}-代数の準同型  \phi\colon \mathbb{C}[x] \longrightarrow \mathbb{C}[\varepsilon]; \;\; f \longmapsto a(f)+b(f)\varepsilon の情報を使って、 D_{\phi} \in T_P(X) を作りました。このとき、 b(f)(二重数の第2成分)だけを用いて、 a(f)(二重数の第1成分)を捨ててしまったわけです。上で議論したように

 f \mapsto a(f)

という  \mathbb{C}-代数の準同型の  \operatorname{ker} は、ある点  P に対応する極大イデアル  \mathfrak{m}_P = (x-p) なのでした。 \phi に対応する点を  P_{\phi} と表すことにしましょう。

つまり、 \mathbb{C}-代数の準同型  \phi\colon \mathbb{C}[x] \longrightarrow \mathbb{C}[\varepsilon] には

  •  P_{\phi} の情報
  •  P_{\phi} 上の接ベクトル  D_{\phi} \in T_{P_{\phi}}(X) の情報

の2つの情報があるというわけですね。


このような議論の流れから、自然と接束(もしくは接ベクトル束)を考えたくなるでしょう。 X 上の接束とは

 T(X) := \{ (P, D) \mid P \in X, \; D \in T_P(X) \}

で表される集合で、要するに点  P \in X P 上の接ベクトル  D \in T_P(X) の組全体の集合です。


 \operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-alg}}(\mathbb{C}[x], \; \mathbb{C}[\varepsilon]) により、 \mathbb{C}[x] から  \mathbb{C}[\varepsilon] への  \mathbb{C}-代数の準同型を表すことにします。すると、上で行った議論により

 \begin{align} \eta\colon \; \operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-alg}}(\mathbb{C}[x], \mathbb{C}[\varepsilon]) &\longrightarrow \;\;\;T(X), \\
\phi \;\;\;\;\;\;\;\; &\longmapsto \;(P_{\phi}, \; D_{\phi})  \end{align}

なる写像が定まることが言えました。


逆に、接束から  (P, D) \in T(X) を取ってきましょう。ここで、 \mathbb{C}[x] から  \mathbb{C}[\varepsilon] への写像

 \phi_{(P, D)} \colon \; \mathbb{C}[x] \longrightarrow \mathbb{C}[\varepsilon]

 \phi_{(P, D)}(f) = f(P) + D(f) \varepsilon ( f \in \mathbb{C}[x]

で定めましょう。これが、 \mathbb{C}-代数の準同型であることを示します。


\phi_{(P, D)} \mathbb{C}-代数の準同型であることの証明)

  • (和と  \mathbb{C}-倍を保存する)

 a, b \in \mathbb{C}, \;\; f, g \in \mathbb{C}[x] とします。このとき、

 \begin{align} \phi_{(P, D)}(af + bg) &=  (af+bg)(P) + D(af+bg) \varepsilon \\
&=  a(f(P) + D(f) \varepsilon) + b(g(P) + D(g) \varepsilon) \\
&=  a \phi_{(P, D)}(f) + b \phi_{(P, D)}(g)\end{align}

が成り立ちます。

  • (積を保存する)

 f, g \in \mathbb{C}[x] とします。このとき、

 \begin{align} \phi_{(P, D)}(fg) &=  (fg)(P) + D(fg) \varepsilon \\
&=  f(P)g(P) + (f(P) D(f) + g(P) D(g))\varepsilon \\
&=  f(P)g(P) + (f(P) D(f) + g(P) D(g))\varepsilon  + D(f)D(g) \varepsilon^2 \\
&= (f(P) + D(f) \varepsilon) (g(P) + D(g) \varepsilon) \\
&=  \phi_{(P, D)}(f) \phi_{(P, D)}(g) \end{align}

が成り立ちます。

(証明終わり)


よって、 (P, D) \in T(X) に対して、 \phi_{(P, D)} \in \operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-alg}}(\mathbb{C}[x], \; \mathbb{C}[\varepsilon]) が定まることがわかりました。すなわち、写像

 \begin{align}  \eta' \colon \; T(X) &\longrightarrow \operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-alg}}(\mathbb{C}[x], \; \mathbb{C}[\varepsilon]), \\
(P, D) &\longmapsto \phi_{(P, D)} \end{align}

が得られました。


ここで、 \eta \circ \eta' \eta' \circ \eta が恒等写像になることがわかるので、 \operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-alg}}(\mathbb{C}[x], \mathbb{C}[\varepsilon]) T(X) との間に全単射があることがわかりました。
(これが参考文献のLemma 0.9.に相当する命題です。)

命題3
 X = \mathbb{C} とし、 R = \mathbb{C}[x] とする。このとき

 \begin{align} \eta\colon \; \operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-alg}}(\mathbb{C}[x], \mathbb{C}[\varepsilon]) &\longrightarrow \;\;\;T(X), \\
\phi \;\;\;\;\;\;\;\; &\longmapsto \;(P_{\phi}, \; D_{\phi})  \end{align}

は全単射である。


おわりに

最後に今回の話をまとめたいと思います。

  •  \mathbb{C}[x] の点  P \in \mathbb{C} におけるザリスキー接空間  T_P(\mathbb{C}) は、微分作用素  \left(\frac{d}{dx}\right)_P で生成される1次元  \mathbb{C}-ベクトル空間。
  •  \mathbb{C}[x] の点  P におけるザリスキー余接空間  \mathfrak{m}_P / \mathfrak{m}_P^2 は、 x = p で零点を持つ多項式  f に「 x = p で接する多項式の同値類  \overline{f}」の全体。1次元  \mathbb{C}-ベクトル空間。
  • 接空間と余接空間のペアリングは、 \overline{f} \left(\frac{d}{dx}\right)_P を作用させて点  P での「微分係数(傾き)」を取り出す操作。
  •  \mathbb{C}[x] から二重数環  \mathbb{C}[\varepsilon] への  \mathbb{C}-代数の準同型全体と、接束(接ベクトル束) T(\mathbb{C}) の間に全単射がある。

元々は共通テストの一問題でしたが、ずいぶんと奥が深いところまで行くことができましたね。色々な概念が繋がって整理されて、とても面白かったです!


楽しい話を教えてくださった第二宇宙賢者さんに改めて御礼申し上げます。私がレベルアップすると第二宇宙賢者さんが次の冒険のヒントを与えてくれる「RPG」をプレイしている気分でした。楽しかったです。

それでは今日はこの辺で。