tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

クロネッカー・ウェーバーの定理と証明のあらすじ(その2):クンマー拡大

ご無沙汰しています。tsujimotterです。

久しぶりに「クロネッカー・ウェーバーの定理と証明のあらすじ」シリーズの続きを書きたいと思います。
tsujimotter.hatenablog.com

今日の主役は クンマー拡大 です。クンマー拡大とは,「巡回拡大」が「ベキ根の添加」によってかけるような拡大のことです。このような拡大のときは,いろいろと都合がよい性質があるのです。

この記事は,現代数学で尾崎学先生が連載されている「ガロア理論からみた現代数学」で紹介された内容を参考に書いています。該当回は2015年の6月から8月あたりです。

連載の中で紹介された証明は,Neumann による証明をベースにしているそうです。非常に面白いトピックを扱った連載なので,詳しい内容を知りたい方はぜひ購入して読んでみてください。

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クンマー拡大の定義

まず,クンマー拡大を定義することから始めましょう。

この記事全体の前提として, F は標数 0 の体で 1 の  n 乗根全体  \mu_n を含むとします

「標数」という言葉は,tsujimotterのノートブックでは初めて登場しましたね。体の標数は,体の単位元 1 を何回足すと 0 になるかを表す整数として定義されます。位数  p^e の有限体は, 1 p 回足すと  0 になりますね。代数体では, 1 を何回足しても  0 になりません。この場合は,標数は  0 とします。

今回の場合は, F を代数体に限定して構いません。 さらに, F は 1 の  n 乗根全体を含むので,たとえば, F = \mathbb{Q}(\zeta_{n}) を想像してください。

命題 2.1:クンマー拡大
任意の  n 次巡回拡大  E/F に対して, E = F(\sqrt[n]{c}) なる  c \in F^\times が存在する.

また, F \mu_n を含むとき,拡大  F(\sqrt[n]{c})クンマー拡大 という.

状況としては,こんな状況を想像してもらえればと思います。

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巡回拡大  E/F があるときに,基礎体  F c n 乗根を添加すると  E に一致するような「都合の良い  c」が存在するという主張です。


これから証明について述べていきますが,本記事では  n は素数のべき,すなわち, n = p^e p は素数, e は正整数)に限定して考えたいと思います。クンマー拡大の命題は一般の  n について成り立つものですが,このシリーズで必要なのは  n = p^e の場合だけです。


証明は以下のような流れで進めます。

  • 前提である「 1 p^e 乗根」と「巡回置換」を用いて, \sqrt[p^e]{c} の候補となる複数の元  \xi_0, \xi_1, \xi_2, \cdots, \xi_i, \cdots, \xi_{p^e - 1} \in E を作る。
  • 上の候補の中から  \xi_{i_0} \neq 0 となる  i_0 が存在することを示す。
  •  E = F(\xi_{i_0}) であることを示す。
  •  \xi_{i_0}^{p^e} は,実は  F の元であることがわかるので,これを  c = \xi_{i_0}^{p^e} とする。


まず,証明の舞台となるセッティングについて述べていきましょう。

 E/F p^e 次巡回拡大なので, \mathrm{Gal}(E/F) = \langle \sigma\rangle \simeq \mathbb{Z}/p^e \mathbb{Z} と書くことができます。また, E = F(\eta) となるような  \eta \in E をとりましょう( F にある特定の元を添加したら  E になるはずなので,そのような元をひとまず  \eta としておくのです)。さらに, 1 の原始  p^e 乗根の1つを  \zeta_{p^e} \in F^\times としておきましょう。

以下のような状況です。

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さて,証明に取り掛かります。


(証明)
まず, 0 \leqq i \leqq p^e - 1 に対して,以下の式で定義される元  \xi_i を考えます。
 \displaystyle \xi_i := \sum_{k=0}^{p^e - 1} \zeta_{p^e}^{ik} \sigma^k(\eta)

以上の元に  \sigma を作用させると

 \sigma(\xi_i) = \zeta_{p^e}^{-i} \xi_i \tag{1}

が成立します。


これから, \xi_0, \cdots , \xi_i, \cdots, \xi_{p^e - 1}, \;\; \mathrm{gcd}(p, i) = 1 なる  i の中で,少なくとも1つは  \xi_{i} \neq 0 であるものが存在することを示します。

ここで,すべての  0 \leqq i \leqq p^e - 1, \;\; \mathrm{gcd}(p, i) = 1 に対して, \xi_i = 0 と仮定すると,

 \displaystyle \sum_{j=0}^{p^{e-1} - 1} \xi_{pj} = \sum_{i=0}^{p^e - 1} \xi_{i}

が成り立つ。

この等式を「ぱっと」イメージできる人は,この手の議論に十分慣れている人だと思います。私はわからなかったので,具体的に計算します。

以下の図は  p = 5, e = 2 の例です。
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さらに,  \xi_i の定義式を展開すると

 \displaystyle \sum_{j=0}^{p^{e-1} - 1} \xi_{pj} = \sum_{i=0}^{p^e - 1} \xi_{i} = \sum_{k=0}^{p^e - 1} \left( \sum_{i=0}^{p^e - 1} \zeta_{p^e}^{ik} \right)\sigma^k(\eta)

ここで,

 \displaystyle \sum_{i=0}^{p^e - 1} \zeta_{p^e}^{ik} = \begin{cases} p^e & (k=0) \\ 0 & (k\neq 0) \end{cases}

より,

 \displaystyle \sum_{j=0}^{p^{e-1} - 1} \xi_{pj} = \sum_{i=0}^{p^e - 1} \xi_{i} = \sum_{k=0}^{p^e - 1} \left( \sum_{i=0}^{p^e - 1} \zeta_{p^e}^{ik} \right)\sigma^k(\eta) = p^e \eta \tag{2}

が成り立つ。

 (1) より,

 \displaystyle \sigma^{p^{e-1}} \left( \sum_{j=0}^{p^{e-1} - 1} \xi_{pj} \right) = \sum_{j=0}^{p^{e-1} - 1} \xi_{pj}

すなわち, \sigma^{p^{e-1}} の作用に対して不変であるので, (2) より

 \displaystyle \sigma^{p^{e-1}} \left( p^e \eta \right) = p^e \eta

が結論される。ここで,以下のようなガロア対応を考える。

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 p^f \eta \sigma^{p^{e-1}} の作用によって不変なので  p^e\eta \in E^{\langle \sigma^{p^{e-1}} \rangle} であるが, \langle \sigma^{p^{e-1}} \rangle \neq 1 である( \sigma^{p^{e-1}} が自明であれば  \sigma^{p^{e-1}} = 1 であるが, \sigma の位数は  p^e であるからおかしい)。

したがって,Galoisの基本定理より  p^e\eta \in E^{\langle \sigma^{p^{e-1}} \rangle} \subsetneq E である。しかしこれは  E の定義,すなわち, E = F(\eta) = F(p^e \eta) に矛盾する。

よって,少なくともある  1 \leqq i_0 \leqq p^e - 1, \;\; \mathrm{gcd}(p, i_0) = 1 について  \xi_{i_0} \neq 0 であることが示された。


このとき, \zeta_{p^e}^{i_0} \mu_{p^e} における位数は  p^e なので( \zeta \in \mu_{p^e} p^e 乗すると  1 になる), (1) から  \sigma^k(\xi_{i_0}) = \xi_{i_0} \Longrightarrow \sigma^k = 1 がわかる( k = p^e のときに限り  \sigma^{p^e} = 1 となり不変)。 よって, \mathrm{Gal}(E/F(\xi_{i_0})) = 1 なので,Galoisの基本定理から  F(\xi_{i_0}) = E となる。


また, (1) から  \sigma(\xi_{i_0}^{p^e}) = \xi_{i_0}^{p^e} も出るので,再びGaloisの基本定理から  \xi_{i_0}^{p^e} \in F がわかる。よって,

 c = \xi_{i_0}^{p^e} \in F^\times

が得られ, E = F(\sqrt[p^e]{c}) を満たす  c \in F^\times を見つけることができた。

前回の議論に戻って

さて,ここで前回の  \mathbb{Q} 上のアーベル拡大の議論に戻りましょう。

前回は,クロネッカー・ウェーバーの定理の証明を  K/\mathbb{Q} p^e 次の巡回拡大のケースに帰着したのでした。今回は,次のステップとして,この巡回拡大をベキ根を使って表すことにします。

ただし,クンマー拡大はこのままでは使えません。なぜなら, K/\mathbb{Q} の基礎体である  \mathbb{Q} は「1 の  p^e 乗根すべて」を含まないため,クンマー拡大の条件を満たさないからです。


ではどうするか。ここが一番面白いポイントです。

 K \mathbb{Q} それぞれに,1 の  p^e 乗根  \zeta_{p^e} を添加してしまうのです。図で表すと,こういう状況です。

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何やらややこしいことをして,これで収拾がつくのだろうかと思うかもしれません。でもこれでうまくいくのです。次のような命題が成り立ちます。

命題 2.2
 K/\mathbb{Q} p^e 次の巡回拡大とする.

(1)  K(\zeta_{p^e})/\mathbb{Q} はアーベル拡大であり, K(\zeta_{p^e})/\mathbb{Q}(\zeta_{p^e}) p^f 次( f \leqq e)の巡回拡大である。

(2)  K(\zeta_{p^e}) = \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})(\sqrt[p^e]{\alpha}) をみたす  \alpha \in \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})^\times が存在する。

命題 2 の状況を図に書き加えるとこうなります。

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(1) の証明

まず, K(\zeta_{p^e})/\mathbb{Q} がGalois拡大であることが(示しませんが)わかります。

また,

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が単射準同型である(右のほうが大きい群で,左の群が埋め込まれる)。右辺の群はアーベル群の直積なので,左辺もアーベル群であることがわかる。よって, K(\zeta_{p^e})/\mathbb{Q} はアーベル拡大((1) の前半が証明できた)。


さらに,

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も単射準同型であることがわかる。右辺の群の位数は  p^e 次で,左辺の群はこれを割り切るから, p^f 次( f \leqq e)であるという主張も示された。

(2) の証明

(1) より, K(\zeta_{p^e})/\mathbb{Q}(\zeta_{p^e}) p^f 次巡回拡大である。また, \mu_{p^f} \subset \mu_{p^e} より  \mathbb{Q}(\zeta_{p^e}) は 1 の  p^f 乗根すべてを含む。

したがって命題 1 より, K(\zeta_{p^e}) = \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})(\sqrt[p^f]{\alpha}) を満たす  \alpha \in \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})^\times が存在する。

ここで, \alpha' := \alpha^{p^e/p^f} とすると,

 \sqrt[p^e]{\alpha'} =\sqrt[p^f]{\alpha}

であり,さらに  \alpha' = \alpha^{p^{e-f}} \in \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})^\times である。したがって, K(\zeta_{p^e}) = \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})(\sqrt[p^e]{\alpha'}) をみたす  \alpha' \in \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})^\times を見つけることができた。

まとめと次回予告

以上の議論によって, \alpha \in \mathbb{Q}(\zeta_{p^e})^\times という元が存在して,任意の p^e 次巡回拡大  K/\mathbb{Q} に対して

 \mathbb{Q} \subset K \subset K(\zeta_{p^e}) = \mathbb{Q}(\zeta_{p^e}, \sqrt[p^e]{\alpha})

という包含関係を示すことができました。あとは,べき根の部分を含む  \mathbb{Q}(\zeta_{p^e}, \sqrt[p^e]{\alpha}) が, \mathbb{Q} 上の円分拡大に含まれることを示せばオーケーです。

今回  \alpha = \xi_{i_0}^{p^e} という元の存在を示すことに成功しましたが,このような元を実際に構成するのは困難です。というのも,  \xi_{i_0} の定義には  \eta \in E という未知の元が必要でしたし, i_0 0 \leqq i_0 \leqq p^e - 1 \mathrm{gcd}(p, i_0) = 1 かつ  \xi_{i_0} \neq 0 という条件でした。このような  i_0 を具体的に見つけるのは困難です。そのため,前回示した二次拡大の場合のような方向性の証明は難しそうです。

我々の目的はクロネッカー・ウェーバーなので, \alpha \in F^\times という元を  \mathbb{Q} 上の円分拡大の中で表現できればよいと考えます。そこで, E/\mathbb{Q} のガロア群を考えることになります。 \alpha \in F^\times は,クンマー拡大  E/F のガロア群  \mathrm{Gal}(E/F) に対しては不変となります( \sqrt[p^n]{\alpha} \mathrm{Gal}(E/F) に対して分かりやすい振る舞いをします)。

一方, \mathrm{Gal}(F/\mathbb{Q}) がどのように作用するかは,現段階では明らかではありません。実は,次回に示すクンマー拡大の性質によって, \mathrm{Gal}(F/\mathbb{Q}) \alpha に対してどのように振舞うかがわかってしまいます。

次回は「クンマー・ペアリング」という道具を用いて,ガロア群  \mathrm{Gal}(F/\mathbb{Q}) の作用を具体的に調べる方法を紹介します。

参考: p^e = 2 の場合

 p^e = 2 の場合は, K/\mathbb{Q} が2次拡大になります。このとき, \mathbb{Q}(\zeta_{p^e}) = \mathbb{Q} になります。したがって,任意の2次拡大は,単に  \mathbb{Q} に平方根を添加することで構成できるのです。

というわけで,クンマー拡大は2次拡大の一般化になっています。ただ  p^e > 2 のときは,1のべき根が入ってくるのでそう簡単にはいかないね,というのが今回のお話でした。