tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

四元数環と2-コサイクル

今日は 四元数環  \newcommand{\hh}{\mathbb{H}}\hh について考えてみましょう。tsujimotterのノートブックでは初登場ですね。

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複素数体  \mathbb{C} \mathbb{R} に虚数単位  i^2 = -1 を加えた体のことで、

 \mathbb{C} = \mathbb{R}\cdot 1 + \mathbb{R}\cdot i

と書けます。 \mathbb{R} 上の2次拡大体となっています。

 \mathbb{C} に「ある演算規則」をもった  j, k という新しい数を加えて

 \mathbb{H} = \mathbb{R}\cdot 1 + \mathbb{R}\cdot i + \mathbb{R}\cdot j + \mathbb{R}\cdot k

としたものが四元数環です。複素数体の4次元バージョンと思えます。

 i, j, k には、次のような関係が成り立ち、これが四元数環を定義する演算規則となっています:

 i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1 \tag{1}

この式は、ハミルトンがブルーム橋に刻んだ数式としても知られていますね。


先日、四元数環と群コホモロジーの意外な接点 について教えていただきました。とても面白かったので、ぜひ紹介したいというのが今日の目的です。具体的には、ある2-コサイクルを考えると、そこから四元数環を構成することができるというのです。


今回の内容は梅崎さんに教えていただきました。いつも楽しい話を教えてくださってありがとうございます。
なお、もし内容に誤りがあったとしても、それは私の理解不足によるところかと思います。見つけた方は私にTwitter等でご指摘いただけますと幸いです。


四元数環の構造

複素数  \mathbb{C} が体だったのに対して、四元数環は積が非可換であるような 「非可換体」 であるのが特徴です。

 \mathbb{H} が非可換であることは、たとえば

 ji = -ij \tag{2}

であることからわかります。

上の式はブルーム橋の式  (1) から次のように導けます。

まず、 ijk = -1 の両辺に  k を右からかけて  ijkk = -k であり、 k^2 = -1 より
 ij = k \tag{3}

が得られます。

次に  jii = -j jk を右からかけて  jiijk = -jjk となる。 ijk = -1, \; jj = -1 を適用すると

 ji = -k \tag{4}

が得られて、式  (3), (4) を合わせて  ji = -k = -ij が得られます。

こんな構造を持った四元数環なのですが、実は、2次のコホモロジーの元である2-コサイクルから作ることができるというのです。

2次の群コホモロジー

まずは、群コホモロジーの記事でやったように、 G を群、 M G が作用する群として、2次の群コホモロジー  H^2(G, M) を計算してみましょう。
tsujimotter.hatenablog.com

今回の話に限れば 「2次のコホモロジーの元  [\varphi] \in H^2(G, M) の代表元  \varphi は2-コサイクルである」という点と「2-コサイクルの具体的な計算結果」だけ分かればOKです。


まず、 C^2(G, M) を考えます。これは

 \varphi \colon G\times G \longrightarrow M

という写像全体の集合です。今回は、 G の元を2つ変数にとる写像が主役なわけですね。


いつものように 2-コバウンダリ を計算します。今日は後の事を考えて「乗法形」で書きたいと思います。

 d^2\colon C^1(G, M) \longrightarrow C^2(G, M), \; \psi \longmapsto d^2(\psi)

における  d^2(\psi) は定義より

 \displaystyle d^2(\psi)(g_1, g_2) = \psi(g_2)^{g_1}\psi(g_1 g_2)^{-1} \psi(g_1)

ですから、ある  \psi \in C^1(G, M) が存在して、任意の  g_1, g_2 \in G に対して

 \varphi(g_1, g_2) =  \psi(g_2)^{g_1}\psi(g_1 g_2)^{-1} \psi(g_1)

と表せるような  \varphi \in C^2(G, M) が2-コバウンダリということになりますね。


続いて、2-コサイクル ですが、今度は  d^3 が必要です。

 d^3\colon C^2(G, M) \longrightarrow C^3(G, M), \; \varphi \longmapsto d^3(\varphi)

この式における  d^3(\varphi) は定義より、任意の  g_1, g_2, g_3 \in G に対して

 \displaystyle d^3(\varphi)(g_1, g_2, g_3) = \varphi(g_2, g_3)^{g_1}\varphi(g_1 g_2, g_3)^{-1}\varphi(g_1,  g_2 g_3) \varphi(g_1, g_2)^{-1}

と計算されます。

ここで、 d^3(\varphi) = 1 より、任意の  g_1, g_2, g_3 \in G に対して

 \displaystyle \varphi(g_2, g_3)^{g_1}\varphi(g_1 g_2, g_3)^{-1}\varphi(g_1,  g_2 g_3) \varphi(g_1, g_2)^{-1} = 1

を満たすような  \varphi \in C^2(G, M) が2-コサイクルです。


よって、2次の群コホモロジーは

 \displaystyle H^2(G, M) = \frac{ \{ \varphi \in C^2(G, M) \; \mid \; \forall g_1, g_2, g_3 \in G, \; \varphi(g_2, g_3)^{g_1}\varphi(g_1 g_2, g_3)^{-1}\varphi(g_1,  g_2 g_3) \varphi(g_1, g_2)^{-1} = 1 \} }{ \{ \varphi \in C^2(G, M) \; \mid \; \exists \psi \in C^1(G, M) \; \text{s.t.} \; \forall g_1, g_2 \in G, \; \varphi(g_1, g_2) =  \psi(g_2)^{g_1}\psi(g_1 g_2)^{-1} \psi(g_1) \} }

ということになりますね。

2-コサイクルから四元数環を作る

さて、それでは2-コサイクルを使って、四元数環を作ってみましょう。

2次拡大  \mathbb{C}/\mathbb{R} を考えて、そのガロア群を  G = \operatorname{Gal}(\mathbb{C}/\mathbb{R}) とします。 G の元は  \{1, c\} の2種類で  c は特に複素共役です。 G \mathbb{C} の自己同型なので、  \mathbb{C}^\times に作用します。

このような設定のもと、次の具体的な2-コサイクル  \varphi \colon G\times G \longrightarrow \mathbb{C}^\times を考えましょう。

 \begin{cases} \varphi(1, 1) = 1 \\
\varphi(1, c) = 1 \\
\varphi(c, 1) = 1 \\
\varphi(c, c) = -1  \end{cases}

 G には2つの元しかないので、4通りの対応を決めれば  \varphi が定まる点に注意します。)


これが2-コサイクルであること、すなわち任意の  g_1, g_2, g_3 \in G に対して

 \displaystyle \varphi(g_2, g_3)^{g_1}\varphi(g_1 g_2, g_3)^{-1}\varphi(g_1,  g_2 g_3) \varphi(g_1, g_2)^{-1} = 1

を満たすことは、実際に  (g_1, g_2, g_3) 2^3 = 8 通りの値をいれてみれば確認できます。

 (g_1, g_2, g_3) \varphi(g_2, g_3)^{g_1} \varphi(g_1g_2, g_3) \varphi(g_1, g_2g_3) \varphi(g_1, g_2)
 (1, 1, 1) 1 1 1 1
 (1, 1, c) 1 1 1 1
 (1, c, 1) 1 1 1 1
 (1, c, c) -1 -1 1 1
 (c, 1, 1) 1 1 1 1
 (c, 1, c) 1 -1 -1 1
 (c, c, 1) 1 1 -1 -1
 (c, c, c) -1 1 1 -1

各行に  (-1) が必ず偶数個並んでいるので、積は  1 になります。


ここで、次のような  \mathbb{C} 上のベクトル空間  A を考えます。

 \displaystyle A = \bigoplus_{\sigma \in G} \mathbb{C} e_{\sigma}

 e_\sigma A の基底であり、 G の元の個数分あります。今回の設定では  e_1, e_c の2個を考えればよいですね。


 A \mathbb{C} 上のベクトル空間なので、「加法」と  \mathbb{C} による「スカラー倍」が定義されています。ここに、新たに「(可換とは限らない)積」を導入したいと思います。その演算を以下の4つの演算ルールで定めます。

まず、 \mathbb{C} の元と基底  e_\sigma の間の積を定めます。

演算ルール1
任意の  x \in \mathbb{C}, \; \sigma \in G に対し
 e_{\sigma} a  := a^\sigma e_{\sigma}

次に、基底同士  e_\sigma, e_\tau の積を次のように定めます。ここで先ほど定義した 2-コサイクル  \varphi を使います。

演算ルール2
任意の  \sigma, \tau \in G に対し
 e_{\sigma} e_{\tau} := \varphi(\sigma, \tau) e_{\sigma\tau}

また、 A に元々定義されているベクトル空間としての「和」と、新しく定めた「積」の間には、分配法則・結合法則が成り立つことを要請します。

演算ルール3(分配法則)
任意の  x, y, z \in A に対し
x(y+z) = xy + xz
(x+y)z = xz + yz

演算ルール4(結合法則)
任意の  x, y, z \in A に対し
 x(yz)= (xy)z

特に、任意の  g_1, g_2, g_3 \in G に対して、基底  e_{g_1}, e_{g_2}, e_{g_3} の間の結合法則

 e_{g_1}(e_{g_2}e_{g_3}) = (e_{g_1}e_{g_2})e_{g_3}

と、 \varphi が2-コサイクルであることは同値 であることが示せます。

だから、最初に2-コサイクルであるような  \varphi を考えたのですね。同値性の証明については補足1で解説します。


これで一通りの演算が定まりました。実際、積の演算が定まっていることは以下のようにして分かります。

まず、 A の任意の元  x x_\sigma \in \mathbb{C} が存在して
 \displaystyle x = \sum_{\sigma \in G} x_\sigma e_\sigma

と表せることに注意します。

ここで任意の  x, y \in A に対して  xy を計算したいと思います。今回は、 G = \{1, c\} なので、基底  e_1, e_c を用いて  x, y を次のように表します。

 x = x_1 e_1 + x_c e_c
 y = y_1 e_1 + y_c e_c

これらの積をとり、演算ルールにしたがって計算します。積の演算は非可換なので、入れ替えてはいけないことに注意しましょう:

 \begin{align} xy &= (x_1 e_1 + x_c e_c)(y_1 e_1 + y_c e_c) \\
&= (x_1 e_1) (y_1 e_1) + (x_c e_c) (y_1 e_1) + (x_1 e_1) (y_c e_c) + (x_c e_c) (y_c e_c) \\
&= x_1 (e_1 y_1) e_1 + x_c (e_c y_1) e_1 + x_1 (e_1 y_c) e_c + x_c (e_c y_c) e_c \\
&= x_1 y_1 e_1 e_1 + x_c y_1^c e_c e_1 + x_1 y_c e_1 e_c + x_c y_c^c e_c e_c \\
&= x_1 y_1 \varphi(1, 1) e_1 + x_c y_1^c \varphi(c, 1) e_c + x_1 y_c \varphi(1, c) e_c + x_c y_c^c \varphi(c, c) e_1 \\
&= (x_1 y_1 \varphi(1, 1) + x_c y_c^c \varphi(c, c) ) e_1 + (x_c y_1^c \varphi(c, 1) + x_1 y_c \varphi(1, c) ) e_c  \end{align}

1行目から2行目へは分配法則、2行目から3行目は結合法則を使っています。
また、3行目から4行目は演算ルール1を、4行目から5行目は演算ルール2を用いています。
最後に再度分配法則でまとめ直しています。

ここで

 x_1 y_1 \varphi(1, 1) + x_c y_c^c \varphi(c, c) \in \mathbb{C}
 x_c y_1^c \varphi(c, 1) + x_1 y_c \varphi(1, c) \in \mathbb{C}

なので、 xy \in A であることが分かります。よって、任意の  x, y \in A に対して積  xy \in A が定まりました。


ところで、 A = \mathbb{C}e_1 \oplus \mathbb{C} e_c という構造をしていますが、特に  \mathbb{C} = \mathbb{R} \oplus \mathbb{R}i なので

 A = \mathbb{R}e_1 \oplus \mathbb{R}ie_1 \oplus \mathbb{R} e_c \oplus \mathbb{R} i e_c

だと思うことができます。

だんだん四元数環に近づいてきましたね! あとは  A の基底である  e_1, e_c の正体を突き止めれば、 A が四元数環と一致することが示せます。


まず、 \varphi(1, 1)^{-1} e_1 A の単位元であることがわかります。(このことについては補足2で証明します。)

今回は  \varphi(1, 1) = 1 なので、以降  e_1 1 に読み替えることにします。


また、演算ルール1 a = i \sigma = c に対して適用すると

 e_{c} i = i^c e_{c} = -i e_{c}

となります。 e_{c} i i e_{c} (-1) 倍の関係にあるわけですね。ここで  j := e_c だと思うと

 j i = -i j

となり四元数のときと全く同じ式(式  (2))が現れました!


演算ルール2より

 e_c e_c = \varphi(c, c) e_{cc} = - e_1

となります。ここで、 e_1, e_c をそれぞれ  1, j へと読み替えると

 j^2 = -1

となります。これも四元数のときに現れた式ですね。


さらに、 k := ij と定義すると

 ijk = ij ij = i(-ij)j = -i^2 j^2 = -1
 k^2 = ijk = -1

となり目的の式

 i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1

が得られます!


以上により、 1 := e_1, \; j := e_c, \; k := i e_c と読み替えると

 A = \mathbb{R} \oplus \mathbb{R}i \oplus \mathbb{R} j \oplus \mathbb{R} k

 i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1

という積の入った環、すなわち四元数環そのものであるということがわかりました!

おわりに

今回は、2次の群コホモロジーの元である、ある2-コサイクルから四元数環を作ることができるというお話をしました。

これまでtsujimotterのノートブックでは、0次や1次の群コホモロジーしか扱ってきませんでした。今回初めて2次のコホモロジーを扱ったわけですが、こんな風に使えるというのは、とても面白いと思いました。


今回は、 \varphi(c, c) = -1 でそれ以外は  1 となるような2-コサイクル  \varphi から四元数環  \mathbb{H} を構成しました。他の2-コサイクルからも、同様の手続きで環を構成することができます。

 H^2(\operatorname{Gal}(\mathbb{C}/\mathbb{R}), \mathbb{C}^\times) の中で考えたときに、 \varphi と同じ同値類に属する2-コサイクルからは、「ある意味で同値な*1」環が得られるそうです。

特に、 H^2(\operatorname{Gal}(\mathbb{C}/\mathbb{R}), \mathbb{C}^\times) は、今回計算した「非自明な2-コサイクル」と、もう一つ「自明な2-コサイクル」の2つだけですので、実質的に2通りの環が構成できるというわけですね。実際、自明な2-コサイクルからは「2次の行列環  M_2(\mathbb{R})」が生成されます。興味ある方は考えてみてください。

 \mathbb{H} M_2(\mathbb{R}) は「 \mathbb{R} 上の中心単純多元環(central simple algebra)」と呼ばれるものになっており、その意味で同じクラスに属する環であるというわけですね。


より一般には「 K 上の中心単純多元環(の上と同じ同値関係における同値類)」と「 K 上のガロア群に対する2-コサイクル(の同値類)」が適切な定義のもとで1対1対応するそうです。

これは「ブラウアー群」と呼ばれる群と「2次の群コホモロジー」の間の同型を意味するのですが、この辺も解説できるようになると楽しそうですね。

それでは今日はこの辺で。

補足1:結合則と2-コサイクル条件

次の必要十分条件について示したいと思います。

定理
任意の  g_1, g_2, g_3 \in G に対して  (e_{g_1} e_{g_2})e_{g_3} = e_{g_1} (e_{g_2}e_{g_3})
 \Longleftrightarrow \;\; \varphi \in Z^2(G, L^\times)

上で述べた通り、基底の結合法則と  \varphi が2-コサイクルであることが同値であるという主張です。

(証明)
 (1) = (e_{g_1} e_{g_2})e_{g_3} , \;\; (2) = e_{g_1} (e_{g_2}e_{g_3}) とします。

 \begin{align} (1) &= (e_{g_1} e_{g_2})e_{g_3} \\
&= \varphi(g_1, g_2)e_{g_1g_2} e_{g_3} \\
&= \varphi(g_1, g_2) \varphi(g_1g_2, g_3)e_{g_1g_2g_3} \end{align}

 \begin{align} (2) &= e_{g_1} (e_{g_2}e_{g_3}) \\
&= e_{g_1} \varphi(g_2, g_3) e_{g_2 g_3} \\
&= \varphi(g_2, g_3)^{g_1}e_{g_1}  e_{g_2 g_3} \\
&= \varphi(g_2, g_3)^{g_1} \varphi(g_1, g_2 g_3)e_{g_1g_2 g_3}  \end{align}

 (1) = (2) ならば

 \varphi(g_1, g_2) \varphi(g_1g_2, g_3) = \varphi(g_2, g_3)^{g_1} \varphi(g_1, g_2 g_3)

であり、これは2-コサイクル条件そのものである。よって、 \varphi \in Z^2(G, L^\times) である。

逆に、 \varphi が2-コサイクル条件を満たせば  (1) = (2) が成り立つ。

(証明終わり)

補足2: \varphi(1, 1)^{-1} e_1 A の単位元

 A の単位元は  \varphi(1, 1)^{-1} e_1 となることを示します。このことは、他の2-コサイクル  \varphi を選んだ場合でも成り立ちます。

定理
 \varphi \in Z^2(G, \mathbb{C}^\times) を任意の2-コサイクルとし、 \varphi A = \bigoplus_{\sigma G} \mathbb{C} e_\sigma に積を定める。

このとき、任意の  x \in A に対して

 \left(\varphi(1, 1)^{-1} e_1\right) x = x \left(\varphi(1, 1)^{-1} e_1\right) = x

が成り立つ。すなわち、 \varphi(1, 1)^{-1} e_1 A の単位元。


これを証明するために、2-コサイクルについて一般に成り立つ以下の補題を用意します。

補題
 G を群、 M G の作用する加群とし、 \varphi \in Z^2(G, M^\times) を任意の2-コサイクルとする。このとき、次の(1), (2)が成り立つ:
(1) 任意の  \sigma \in G に対して  \varphi(1, \sigma) = \varphi(1, 1)
(2) 任意の  \sigma \in G に対して  \varphi(\sigma, 1) = \varphi(1, 1)^\sigma

(補題の証明)
(1) 2-コサイクル条件

 \displaystyle \varphi(g_2, g_3)^{g_1}\varphi(g_1 g_2, g_3)^{-1}\varphi(g_1,  g_2 g_3) \varphi(g_1, g_2)^{-1} = 1

において  g_1 = g_2 = 1, \; g_3 = \sigma とおくと

 \displaystyle \varphi(1, \sigma)\varphi(1, \sigma)^{-1}\varphi(1, \sigma) \varphi(1, 1)^{-1} = 1

であり

 \displaystyle \varphi(1, \sigma) = \varphi(1, 1)

が成り立つ。

(2) 2-コサイクル条件において、今度は  g_1 = \sigma, \; g_2 = g_3 = 1 とおくと

 \displaystyle \varphi(1, 1)^{\sigma}\varphi(\sigma, 1)^{-1}\varphi(\sigma, 1) \varphi(\sigma, 1)^{-1} = 1

であり

 \displaystyle \varphi(\sigma, 1) = \varphi(1, 1)^\sigma

が成り立つ。


(定理の証明)
一般に  x = \sum_{\sigma \in G} x_\sigma e_\sigma(ここで  x_\sigma \in \mathbb{C})と表せることに注意します。


 \displaystyle \begin{array}{ll} x (\varphi(1, 1)^{-1} e_1) & \\
= \left( \sum_{\sigma \in G} x_\sigma e_\sigma \right) (\varphi(1, 1)^{-1} e_1) & \\
= \sum_{\sigma \in G} x_\sigma \underline{e_\sigma \varphi(1, 1)^{-1}} e_1 & (\because \text{分配法則・結合法則より}) \\
= \sum_{\sigma \in G} x_\sigma (\varphi(1, 1)^\sigma)^{-1} \underline{e_\sigma  e_1} & (\because \text{演算ルール1より}) \\
= \sum_{\sigma \in G} x_\sigma (\varphi(1, 1)^\sigma)^{-1} \underline{\varphi(\sigma, 1)} e_\sigma & (\because \text{演算ルール2より}) \\
= \sum_{\sigma \in G} x_\sigma \underline{(\varphi(1, 1)^\sigma)^{-1}\varphi(1, 1)^\sigma} e_\sigma & (\because \text{補題(2)より})  \\
= \sum_{\sigma \in G} x_\sigma  e_\sigma \\
= x & \end{array}

よって  x (\varphi(1, 1)^{-1} e_1) = x が示せた。


 \displaystyle \begin{array}{ll} (\varphi(1, 1)^{-1} e_1) x & \\
= (\varphi(1, 1)^{-1} e_1) \left( \sum_{\sigma \in G} x_\sigma e_\sigma \right) & \\
= \sum_{\sigma \in G} \varphi(1, 1)^{-1} \underline{e_1 x_\sigma} e_\sigma & (\because \text{分配法則・結合法則より}) \\
= \sum_{\sigma \in G} \varphi(1, 1)^{-1} x_\sigma \underline{e_1 e_\sigma} & (\because \text{演算ルール1より}) \\
= \sum_{\sigma \in G} \varphi(1, 1)^{-1} x_\sigma \underline{\varphi(1, \sigma)} e_\sigma & (\because \text{演算ルール2より}) \\
= \sum_{\sigma \in G} \underline{\varphi(1, 1)^{-1}} x_\sigma \underline{\varphi(1, 1)} e_\sigma & (\because \text{補題(1)より})  \\
= \sum_{\sigma \in G} x_\sigma  e_\sigma \\
= x & \end{array}

よって  (\varphi(1, 1)^{-1} e_1) x = x が示せた。

(証明終わり)

参考

こちらのPDFの「4 中心的単純多元環」「8 接合積」のあたりの記述を一部参考にさせていただきました。
http://www4.math.sci.osaka-u.ac.jp/~twatanabe/algebra.pdf

*1:ここで定義はしませんが、 中心単純多元環の間には「ブラウアー同値」という同値関係が定まります。