tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

ザリスキー接空間(続・多項式関数に接する多項式関数)

前回の記事の続きです。まだ読んでいない方はこちらから。
tsujimotter.hatenablog.com

前回の記事では、 x = p を通る直線を考えて「この直線に  x = p で接する関数全体の同値類」を考えて、その同値類全体がザリスキー余接空間  \mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2になっているという話をしました。また、この余接空間の双対空間として、ザリスキー接空間  (\mathfrak{m}_P/\mathfrak{m}_P^2)^* が定義できるよという話もしました。

一方で、ザリスキー接空間については、双対空間を経由せずとも直接的に考えることができるよ、と第二宇宙賢者さんからアドバイスいただきました。

ヒントとして次のPDFを教えていただきましたので、PDFの内容を参考にしつつ、ザリスキー接空間について考えてみたいと思います。

NOTES ON THE ZARISKI TANGENT SPACE
SAM EVENS
https://www3.nd.edu/~sevens/tanspace.pdf


なお、上の記事では一般の多変数の多項式環を元に考えていますが、今回は前回の記事の続きということで、1変数の多項式環に限定して議論したいと思います。また、 \mathbb{R}[x] で考えるのは  \mathbb{R} が代数閉体でないゆえの問題(特に極大イデアルに関する問題)がありそうなので、 \mathbb{C}[x] で議論したいと思います。

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多項式関数に接する多項式関数(2021年共通テスト数学ⅡB・第2問)

2021年から「センター試験」が「大学入学共通テスト」という名前に代わり、傾向も以前とは変わったということで各所で話題になりましたね。受験生の皆様はお疲れ様でした。

tsujimotterは例年、数学だけは自分で解くようにしているのですが、今年も数学Ⅰ・数学Aと数学Ⅱ・数学Bについて時間制限付きで解いてみました。現役から離れて十数年たっているので、大学合格は難しそうな結果に終わってしまったのですが、いろいろ面白い問題があって解いてみてよかったなと思います。

色々紹介したい問題はたくさんあったのですが、今回考えたいのは数学Ⅱ・数学Bの 第2問 です。これについては高校数学の範囲を超えて、色々掘り下げられそうな気がしました。

問題をそのまま掲載するのは気が引けますので、各自検索して確認してください。たとえばこちらのページでは、問題と回答が載っています。まだ解いていない人は自分で考えてみると面白いかもしれません。
edu.chunichi.co.jp

諸注意:
本ブログ記事では共通テストの問題を扱っていますが、日曜数学者 tsujimotter が趣味で勉強した内容を発表するブログ記事であり、受験生向けの解説記事ではありません。

「センター試験の問題を大学以降の数学を使って色々考察してみた」という内容になっていますので、受験に役に立つテクニックといった類のものではないことをあらかじめお伝えしておきます。内容に興味がある受験生の方は「受験の息抜きに」ぐらいの気持ちで読んでいただければと思います。

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多様体の「接ベクトル空間」の一歩手前の話

最近、多様体に関する勉強をしているのですが「接ベクトル空間」という概念を習得するのに苦労しています。ちょっと抽象的すぎてよくわからないなと思っていたところに、黒木玄さんからの次のツイートが。


というわけで、 \mathbb{R}^3 に埋め込まれた2次元曲面( 2 つの変数でパラメータ表示された図形)を考えて、その1点  P に接する平面について考えてみましょう。これは多様体そのものではありませんが、実際このような古典的な対象の計算を考えてみることで、多様体の接ベクトル空間がどうしてそのような定義なのか、理解できた気がします!

今回、多様体や多様体の接ベクトル空間の定義は与えませんが、多様体の勉強をしている人はぜひご自身の本の定義と見比べて考えていただければ幸いです。

注意:
今回の記事はtsujimotterが勉強中の内容を自分の言葉でまとめてみたものになります。正しさは保証できませんので、その点にご了承ください。間違っているところなどありましたら、勉強になりますのでご指摘いただければと思います。

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(線形代数・復習)双対空間

前回の記事:tsujimotter.hatenablog.com

前回に引き続き、線形代数の復習編の記事です。今回は 双対空間 というものを導入したいと思います。


「線形写像を単体で考えるのではなく、全体を考えるとよい」というモチベーションのもと、 V から  W への  K-線形写像全体のなす  K-線形空間  \newcommand{\hom}{\operatorname{Hom}} \hom_K(V,  W) を導入しました。

今日は、特に  W = K = \mathbb{C} として、線形空間  V から  \mathbb{C} への  \mathbb{C}-線形写像全体のなす  \mathbb{C}-線形空間

 V^* = \hom_\mathbb{C}(V, \mathbb{C})

を考えたいと思います。 V^* V双対空間 といいます。ちなみに、 \mathbb{C} の部分は、そのまま  \mathbb{R} に置き換えても構いません。「数の集合」への写像であればよいです。

 V から  \mathbb{C} のような数の集合に対する写像のことを 関数 と言います。 つまり、 V^* V 上の線形関数全体を表す空間と言えますね。

実は  V の双対空間は、前回示したように  \mathbb{C}-線形空間になります。関数の値の加法や  \mathbb{C} 倍を使って、関数自身の加法や  \mathbb{C} 倍を定義すれば良いわけですね。

双対空間  V^* は、 V についての大部分の情報を持っていて、まさに「双対」と呼べる存在になっています。言い換えると「関数を考えると、その土台の空間を考えたことになる」というわけです。


ここでは、次の定理を示したいと思います。

命題(問題3.2 小木曽「代数曲線論」)
 V \mathbb{C}-線形空間とし、 V^* をその双対空間とする。以下  V \neq \{0\} とし、 \{x_1, \ldots, x_n\} V の基底とする。

このとき、次の  (1), (2), (3) が成り立つ:
(1) 次を満たす  V 上の関数  f_1, \ldots, f_n \colon V \to \mathbb{C} が一意的に存在する:

 \begin{matrix} f_1(x_1) = 1,  &  \ldots, &  f_n(x_n) = 0, \\
 \vdots  & \ddots & \vdots \\
 f_n(x_1) = 0, & \ldots, & f_n(x_n) = 1 \end{matrix}
(対角の値が  1、それ以外の値は  0 であるような写像)
(2)  \{f_1, \ldots, f_n \} V^* の基底をなす。特に  \operatorname{dim} V = \operatorname{dim} V^* である。
(3) 写像
 \begin{align} \iota\colon V \; &\longrightarrow \;\;\; (V^*)^*, \\
 x \; &\longmapsto \; ( f \mapsto f(x) ) \end{align}

は同型写像である。


では、証明しましょう。

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(線形代数・復習)基底の行き先を与えると対応する線形写像が一意に存在する

最近、「リーマン面」の勉強が「微分形式」の章に差し掛かりました。接ベクトル空間という線形空間や、その双対空間が出てきてまさに線形代数になっています。そんなわけで線形代数の復習として、以下の事実を示したいと思います。

斎藤毅先生の「線形代数の世界」の命題2.13から。

命題2.13(斎藤「線形代数の世界」)
 V, W K-線形空間とする。 \{x_1, \ldots, x_n\} V の基底とし、 y_1, \ldots, y_n \in W とする。

このとき、線形写像  f\colon V \to W で、 f(x_1) = y_1, \ldots, f(x_n) = y_n を満たすものがただ一つ存在する。


まずは、主張の確認をしていこうと思います。 V は線形空間なので、基底というベクトルの組  \{x_1, \ldots, x_n\} がとれます。これによって、任意のベクトル  x \in V

 x = a_1 x_1 +  \cdots + a_n x_n a_1, \ldots, a_n \in K

のように一意的に表せるわけですね。

さて、 V から  W への線形写像というのは、任意の  V の元  x に対してその値  f(x) が定められていて、かつ、線形性なる条件を満たしているものです。

線形性とは、任意の  v, v_1, v_2 \in V k \in K に対して次が成り立つことを指します:

  •  f(v_1 + v_2) = f(v_1) + f(v_2)
  •  f(k v) = k f(v)

というわけで、本当はすべての  V の元に対して値が定まっていなければいけない。

しかしながら、線形性から

 \begin{align} f(x) &= f(a_1 x_1 + \cdots + a_n x_n)  \\
&= f(a_1 x_1) + \cdots + f(a_n x_n)  \\
&= a_1 f(x_1) + \cdots +  a_n f(x_n) \end{align}

が成り立ちますので、 f x_1, \ldots, x_n というたった  n 個のベクトルに対してその行き先が決まっていれば、あとは自動的に決まってしまうのです。まさに 線形性のマジック という感じがします。


ここで気になるのは、基底の行き先として  y_1, \cdots, y_n を予め与えたときに、対応する線形写像   f は存在するのか、という問題です。存在すれば一意なので対応する線形写像が存在するかどうかが焦点となります。

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もちろん、単に「写像」というだけであれば、行き先はいくらでも決められるので必ず存在します。一方で「線形写像」に限定したときに存在するかというのは明らかではありません。そのような線形写像が存在することを保証するのが命題2.13の主張なわけですね。単に存在するだけでなく、証明の中では対応する線形写像を実際に構成します。

2021.01.27修正:
主張の内容を思い切り勘違いしていましたので、記事公開後に修正しました。

元々は「線形写像は基底の行き先だけで決まる」という内容にしていたのですが、(もちろんそれも事実としては正しいのですが)命題2.13の主張としては「基底の行き先を任意に与えると、それに対応する線形写像が存在する」の方がポイントだったわけですね。

タイトルもミスリーディングなので変えます。


対応する線形写像が存在することの何が嬉しいのでしょうか。線形写像  V から  W への  K-線形写像全体を具体的に考えるときに、この命題が助けになりそうです。実際、双対空間と呼ばれる「 V から  \mathbb{C} への線形写像全体のなす  \mathbb{C}-線形空間」の基底を求めるのにこの命題を使うのですが、長くなりそうなのでまた別の機会に紹介したいと思います。

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UFD限定「オイラーの素数生成多項式」の証明

今日は「オイラーの素数生成多項式」についての話です。

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この多項式に  X = 0, 1, \ldots, 39 を代入した数はなんと すべて素数 になることが知られています。

 f(0) = 0^2 + 0 + 41 = 41(素数)
 f(1) = 1^2 + 1 + 41 = 43(素数)
 f(2) = 2^2 + 2 + 41 = 47(素数)
 \vdots
 f(39) = 39^2 + 39 + 41 = 1601(素数)

 X = 40 を入れると  f(40) = 40^2 + 40 + 41 = 41^2 となって合成数になってしまいます。しかしながら、それまでの実に  40 個もの間、素数が出続けるという 驚異の多項式 となっています。


この多項式の一般化として、 q 2 以上の自然数として

 f_q(X) = X^2 + X + q

というものを考えます。

これが素数生成多項式であること、すなわち

整数  0 \leq X < q-1 に対して  f_q(X) = X^2 + X + q は素数

の必要十分条件は

 1-4q が平方因子を持たない
かつ
虚2次体  \mathbb{Q}(\sqrt{1-4q}) の類数が  1 であること

であることが知られています。これは驚くべき事実ですね。


 1-4\cdot 41 = -163 は平方因子を持たず、なおかつ、虚2次体  \mathbb{Q}(\sqrt{-163}) の類数が  1 であることが知られているので、ここからただちにオイラーの多項式  f_{41}(X) = X^2 + X + 41 が素数を  40 連続で生成することがわかりますね。面白いです。

この一般的な事実の証明については、以前のブログ記事でもまとめたことがありました:
tsujimotter.hatenablog.com


しかしながら、証明はかなり難解であり、特に イデアルに慣れていない人 にとってはアクセスしづらいものであったと思います。

一方で、主張の片側だけであれば、すなわち

 1-4q が平方因子を持たないかつ  \mathbb{Q}(\sqrt{1-4q}) の類数が  1
 \;\; \Longrightarrow \;\; 整数  0 \leq X < q-1 に対して  f(X) = X^2 + X + q は素数

に関して言えば、前提知識がかなり少なくても済みそうです。実際、イデアルをまったく使わなくても証明を行うことができます


使うのは、2次体がUFD(一意分解整域)のときの「有理素数の素元分解法則」だけです。これだけ認めてしまえば、虚2次体についての少しの知識があれば、十分に証明を追うことができるようになります。

私は、オイラーの素数生成多項式は、もっと多くの人たちが興味を持ってもらえる対象だと思っていまして、ぜひ2次体の整数論への入り口として、この証明に興味を持っていただければと思います。

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mod mのべき乗余が何通りの値を取るかという話

1つ前の記事に関連して  a^{k} \pmod{m} がどんな値をとるのか」 という問題が気になりました。
tsujimotter.hatenablog.com

上の記事では

  •  k = \varphi(m)+1 のとき  a^{\varphi(m)+1} \equiv a \pmod{m}
  •  k = \lambda(m)+1 のとき  a^{\lambda(m)+1} \equiv a \pmod{m}

となる、つまり  a = 0, \ldots, m-1 の全ての値を取ることを示しました。鯵坂もっちょさんの可視化の方法を用いるならば、右肩上がりの階段状になります。

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(横軸が  a で、縦軸が  a^7 \pmod{42} となっています)

 a m と互いに素であるかどうかに関わらず」このようになるというのが面白かったわけですね。


そんなことを考えているうちに、青山学院大学の中川貴仁さんの卒論研究を見つけました。

整数のべき乗とオイラーの定理について
中川貴仁 (西山研究室)
http://www.gem.aoyama.ac.jp/~kyo/sotsuken/2014/nakagawa_sotsuron_2014.pdf

中川さんの論文によると、 m が相異なる  r 個の素数の積で表されるとき、すなわち

 m = p_1 p_2 \cdots p_r

のとき、 a^{\varphi(m)} \pmod{m} の値は  2^r 個通り の数をとるそうなのです。


 a m と互いに素のときは、オイラーの定理により  a^{\varphi(m)} \equiv 1 \pmod{m} ですから、常に  1 の値をとります。上の話は、 a m と互いに素とは限らないときも含めて、何パターンの値を取りうるかを教えてくれます。

そんなことが証明できるのですね。大変面白かったので、証明を紹介したいと思います。

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