tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

3Dプリンタで正十二面体を作ってもらった話 と アドベントカレンダーまとめ

この記事は 明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダー の 25 日目(最終日)の記事です。( 24 日目:クリスマス・イブには i を語ろう


今日は、明日話したくなる数学豆知識アドベントカレンダーの最終日ということで、これまでの 24 回を振り返るお話をしようと思っていたのですが・・・。

実は昨日、思わぬクリスマスプレゼントの知らせが届いてしまったので、思い切り方向転換をして、次の物体についてお話をしたいと思います。

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そう、「正十二面体」です。


3Dプリンタを使える知人に正十二面体を作ってもらったのです。
データは次のサイトからいただいてきたのですが、STL という3Dプリンタ用の形式になっているので、ダウンロードすればすぐに印刷できるのだそうです。
便利な世の中になりましたねぇ。


ちなみに、去年の今頃は、tsujimotter はこんなものを作って遊んでいました。

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参考記事:「金色」の作り方 - 身近な科学


今年は正十二面体!
これはヤバい!


さて、ヤバいヤバいと、言っていますが、何がヤバいというと・・・大きく2つあると思っています。
せっかくなので「正十二面体ヤバい」という根拠である、2つの数学豆知識を紹介したいと思います。

最後に、簡単ですがアドベントカレンダーの振り返りもしてみたいと思っています。

正十二面体ヤバい理由1:サイコロとして使える

tsujimotter が以前書いた記事「ガウスの素数定理」より、100,000 以下の数が素数である確率は

 \displaystyle \frac{1}{\log(100,000)} \simeq \frac{1}{12}
で表せます。
したがって、正十二面体の一面を「P」って書いてあげれば(「P」は「素数 (Prime)」の頭文字)、100,000 以下の数が素数である確率とほぼ等価な「素数サイコロ」になるわけです!

また、正十二面体はサイコロとして重要な性質をもう1つ持っています。それは、上面が水平であることです。テトラポットのような「正四面体」ではこうはいきませんよね。

いやあ、この大きな素数サイコロ、転がしたいですねぇ!

「素数サイコロ」についての関連記事はこちら

正十二面体ヤバい理由2:対称性を数えられる

大きい正十二面体をわざわざ作る、一番の理由はこれでしょう!

正十二面体の対称性の総数は 60 なのですが、これは交代群  A_5 と同型です。交代群は、5枚のカードをシャッフルするときに現れる群の、ちょうど半分のサイズの群なのですが、これがなんと、位数が素数でない単純群の中で、最初に発見されたものなのです!!
「単純群とは何か」については、まさに一昨日お話したばかりでした。

もっというと、正十二面体の群が単純群であるということと、五次方程式が代数的に解けないことが、まったく等価、すなわち、必要十分条件なのですよ!これは熱いですね!!

で、この対称性を数える作業は、数学的に非常に重要なのわけなのですが、これがなかなか大変なのです。
数が多くてすぐ忘れてしまいますし、三次元だから表記がなかなか難しい。これらの理由で紙とペンだけで数えるのはつらいのです。でも実物の正十二面体があればそれもできるわけです!

これはヤバい!早く数えたい!!

五次方程式と群についての関連スライドはこちら


以上、1, 2 の理由により、正十二面体がヤバいのは明らか。QED

アドベントカレンダーを振り返る

せっかく最後なので、これまでのアドベントカレンダーを振り返ってみましょう。

明日話したくなる数学豆知識は、全 25 個の記事が出揃いました。以下に一覧でまとめてみましょう。(これで Adventar がなくなっても大丈夫!笑)

《明日話したくなる数学豆知識 Advent Calendar》
1 日目: グロタンディーク素数 - tsujimotterのノートブック
2 日目: 統計学における自由度 - すもう
3 日目: 一時期話題になった素数のスモールギャップに関するプレプリントについて - tsujimotterのノートブック
4 日目: 数の呼び方 - すもう
5 日目: 素数のスモールギャップについての研究がさらに進んでいたらしい - tsujimotterのノートブック
6 日目: ほとんどいたるところ - すもう
7 日目: 無理数の無理数乗は無理数か? - tsujimotterのノートブック
8 日目: 例のレナ - すもう
9 日目: 二次方程式の解の公式の別の見方 - tsujimotterのノートブック
10 日目: ステップ関数の微分 - すもう
11 日目: ラングレーの問題とフランクリンの凧 - tsujimotterのノートブック
12 日目: 数列の和の算数 - すもう
13 日目: おすすめ数学小説:ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」 - tsujimotterのノートブック
14 日目: 知られざる反例 - すもう
15 日目: ペンローズ・タイル - tsujimotterのノートブック
16 日目: 積と微分とデルタ関数 - すもう
17 日目: 正十七角形は作れる - tsujimotterのノートブック
18 日目: おつりでフラクタル - すもう
19 日目: 期待値とある値以上の確率との関係 | Techinal Convolution
20 日目: たのしい積分 - すもう
21 日目: アルキメデスと円周率 - tsujimotterのノートブック
22 日目: すごい判別式 - すもう
23 日目: モンストラス・ムーンシャイン - tsujimotterのノートブック
24 日目: クリスマス・イブには i を語ろう - taketo1024の日記
25 日目: 3Dプリンタで正十二面体を作ってもらった話 と アドベントカレンダーまとめ(本記事)

思わず話したくなる小ネタから、ホワイトボードを使ってガッツリ三時間ぐらいかかりそうな重たい話まで、多種多様な記事がそろいました。

いかがだったでしょうか。楽しんでいただけましたでしょうか。


私 tsujimotter は、今日まで25日間欠けることなく、続けることができたことをうれしく思います。
記事作成に参加してくださった 遠藤逸ノ城さんsouichirho.ishikawaさんtaketo1024さん、そして記事を読んでくださった皆様に心より感謝です。


私が、アドベントカレンダーをはじめるにあたっては、何か目標を決めようと思っていました。

その目標が 「数学好きな人に火をつけて、交流の場にしたい」 ということです。
正直言うと、目標を立てたけども、本当に人が集まるなんて思っていませんでした。きっと、自分で記事をとりあえず 3個ぐらい書いてみて、面倒になって終わりだろうと。実際、当初頭にあった書けそうなテーマは 3 つぐらいでした。

自分一人では辛いと、後輩の遠藤君に声をかけてみると、思いのほか全力で乗っかってきてくれました。皆さんも知っての通り、ほぼ半分の記事を書いてくれました。そして、どれも面白くて熱い!tsujimotterが、モチベーションを保ち続けていられたのは、彼のおかげです。
二人が、切磋琢磨して記事を書いているうちに、souichirho.ishikawa さんと taketo1024 さんが加わってくれました。taketo1024 さんの言葉によれば「tsujimotterさんの熱い数学記事を読んでいたら胸が高まり、我慢できずブログを開設し記事を書かせて頂くことにしました。」とのこと。

こういった意味では、当初の目論見は達成できたと思います。むしろ出来過ぎですね。感無量です。

距離があるメンバーもいるので、なかなか集まるのは難しいと思いますが、機会があればぜひ打ち上げしたい。


個人的にも、下に挙げるような点で収穫がありました。

今回の記事を含めて 12 回も書いたので、その中で書き方をいろいろ試すことができました。普通に解説をした回もあれば、本の書評をした回もありました。(書評を書いたのは人生初でした。)
終わりに近づくにつれて、自分の書きたい「理想の文章像」が明確になっていき、文章の質を上げることができたように思います。

また、ほぼ毎日ブログ記事を投稿して、Facebookやtwitterでシェアしていましたので、周りの人から声をかけてもらいやすくなりました。これだけ毎日記事を投稿していたので、暇人に思った方もいたかと思いますが。笑

それでも、シェアしてもらったり、感想を頂いたり、参考文献を教えてもらったりもしました。ふだんはなかなか反応が得られないので、とても貴重でした。読んでくれる方の顔を想像しながら文章を書くのは、そういえば初めての体験だったかもしれません。

一緒に記事を書いてくれた taketo1024 さんからは、プレゼンの依頼を頂いたりもしましたね。(taketo1024さんの記事にも告知がありましたが、一月に技術者向けの数学勉強会で発表してきます。)

おまけですが、アクセス数が伸びました。一時期は3倍近くにもなりました。


何より 達成感 がありましたね。


締め切りがあって、読む人がいて、目的やテーマがある。だから文章が書けるのだ、ということを強く実感した一か月でした。この意味では、アドベントカレンダーって、とても理に適っている企画ですよね。


「もう、しばらくブログはいいかな」と思うだろう、と考えていたのですが、実はまだ書き足りないようです。書けば書くほど、新しいテーマで文章を書きたいと思うのです。いくつか下書きになっている記事があります。ほとんど完成だったのに、別の良いテーマが見つかったためにお蔵入りになっているものもあります。これらの記事は、アドベントカレンダーが終わった後も、少しずつ小出しにしていこうと思っています。

tsujimotterは、今後とも「日曜数学者」としての活動を続けていきます。みなさまどうぞよろしくお願いします。

最後に、アドベントカレンダーのこれまでの記事で、まだ読んでない記事がある方は、ぜひ年末のお時間のあるときに読んでみてください。面白い記事がたくさん揃っています。きっと明日話したくてたまらなくなるはずです。笑


それでは、皆様良いお年を。そして良い数学ライフを。

2014年12月26日追記

「素数サイコロ」の箇所で、「1,000,000以下の数が素数である確率」となっていたものを「100,000 以下の数が素数である確率」と訂正しました。1,000,000以下だと、 \frac{1}{13.8} になってしまって、「正十二面体」じゃなくなってしまいますね。失礼しました。