前回からはじまった独習ノートシリーズです。テーマは「整数論」。今日は整数論で最も基本的な「1.2 約数と倍数」について学んでいきたいと思います。
本シリーズの教科書はこちら。

- 作者: 青木昇,飯高茂,中村滋,岡部恒治,桑田孝泰
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 2012/12/21
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 2回
- この商品を含むブログを見る
初回(#0):動機・諸注意
補足回(#1.5):集合の包含関係
次回(#2):Z のイデアル (1/2)
シリーズ全記事の一覧はこちら
約数と倍数
それでは、はじめていきましょう。まずは定義から。
定義 1.1
整数に対して,
となる整数
が存在するとき,「
は
を割り切る」または「
は
で割り切れる」と言い,
と表す.また,
を
の約数と呼び,
を
の倍数と呼ぶ.(以下略)
重要なキーワードが目白押しです。
まず、約数の定義には、割り算を使う必要がないのですよ。ここが1つポイントだと思います。
そして、掛ける(掛けられる)側の数を「約数」と呼んで、積の側の数を「倍数」と呼ぶ訳ですね。
この辺りをしっかり理解していないと、ちょっとしたことでつまづいてしまいます。
たとえば、次の定理。
命題 1.2
(2)の約数は
の二つのみである.
これ、証明できますか?
当たり前な気もしてしまいますが、いざ証明せよと言われると難しい。漠然としたイメージだけで挑むと、どこから手をつけたら良いか分かりません。そんなときは定義に戻るのが吉。
ここでは、教科書よりやや丁寧にやってみましょう。
ここで
さらに ,すなわち,
より
よって
すなわち
複合はどちらも可であるから, の約数は
であり,その2つのみであることが示せた.
下線を引いた部分がキーポイントですね。定義大事。
もう1つ、勘違いしやすいのが以下の命題。
命題 1.2
(3) 任意の整数はの約数であり,
の倍数は
のみである.
「あれ?0って約数あるんだっけ?」などといろんな疑問が出てきますが、これも丁寧に定義を追っていけばわかります。
よって,約数と倍数の定義(定義 1.1)より,任意の整数は の約数であり,
の倍数は
のみである.
最大公約数
続いて、最大公約数です。やはり定義から。
定義 1.4
を整数とする.
(1)のすべてを割り切る整数を
の公約数と呼ぶ.
また,最大公約数を次で定義する.
・あるに対して
であるとき,
の公約数の中で最大のものを
とする.
・.
特に,整数
に対して
であるとき,
と
は互いに素であるという.
(以下略)
最大公約数、互いに素という重要な概念が登場しました。早速、この2つの用語に関連する以下の問題を解いてみましょう。
問題 1.5
でない整数
の最大公約数を
とするとき,
と
は互いに素であることを示せ.
よって,
一方,
したがって,,すなわち,
と
は互いに素である.
さて、以下からが今回の本題です。最大公約数を使った興味深い定理があります。
定理 1.6
整数に対して
となる整数
が存在するためには,
であることが必要十分である.
すべて整数係数で解も整数であるような方程式を「一次不定方程式」と呼んだりします。この定理では、一次不定方程式が解けるかどうかと最大公約数に関係がある、ということを主張しています。
例を挙げると、
と
の最大公約数は、
右辺の数が で割り切れれば、解が存在するというわけです。
は
で割り切れるし、
は
で割り切れない。
こうやって例を挙げていくと、「じゃあどうやって方程式の解を求めるの?」という疑問が浮かんできます。
その疑問には明確な答えがあって、(今回は登場しませんが) 1.6 節で登場する「ユークリッドの互除法」により解決されます。最大公約数と の解のいずれも、具体的に求める事が出来るのです。
ところでこの 定理 1.6 は
とみることができますし、逆に
とみることもできます。
実はこれ、「イデアル」という言葉を使うと、スッキリまとめることが出来るのです。
これがまさに「前回予告した話」だったのですが・・・。
今回は思った以上に文章が長くなってしまったので、この辺で一旦おわりにしたいと思います。
イデアルのお話は、次回のお楽しみということで。
次回予告
次回は「1.3 のイデアル」へと進みます。「イデアル」という言葉を使って 定理 1.6 を書き直します。
2014/1/9 追記:
次回記事を書きました!
2014/1/8 追記:
次回の前に、集合についての補足回を入れました。簡単な内容ですので、何を今更と思うようなものですが、ちらっと目を通してみてください。