センセーショナルな数学関連のニュースが飛び交っている昨今ですが、私にとって特に注目したい情報が入ってきました。それが ヒルベルトの第12問題 に関する進展です。
「総実体上のヒルベルトの第12問題を解いた」 というプレプリントが 3/4付 でarXivに投稿されたのです。次のリンクから参照できます:
Samit Dasgupta, Mahesh Kakde
Brumer-Stark Units and Hilbert's 12th Problem
[2103.02516] Brumer-Stark Units and Hilbert's 12th Problem
後で詳しく説明しますが、まずは簡単に概略を述べます。
「虚2次体
上の類体を構成することができるか」という数学上の問題は「クロネッカーの青春の夢」として知られていました。
1900年に発表された「ヒルベルトの23の問題」の中で、虚2次体 を代数体 に一般化した上で取り上げられました。これが「第12問題」です。ヒルベルトの23の問題の中で、現在も未解決の問題は、第8問題・第12問題・第16問題・第23問題の4つであり、第12問題はそのうちの一つとして知られています。
として有理数体を選んだ場合はクロネッカーとウェーバーにより実現され、虚2次体の場合も後に解決されました。CM体の場合についても結果が出ているそうです。(私は理解できていません。)
それ以外の体については解決の見通しは立っていなかったものと思われますが(違っていたらすみません)、今回 が総実体の場合に解決した(とされる)プレプリントが公開されたということです。
とても魅力的なニュースだと思うのですが、なかなかに専門的な話です。背景を知らないと上記の数行を理解するのは難しいかと思います。
そこで、今回は 「類体の構成問題」 というテーマで、この問題の背景をご紹介したいと思います。論文自体の内容を紹介するのは難しいので、あくまで私のわかる範囲で、その背景に絞って紹介したいと思います。
注意1:
今回のものは「プレプリント」ですので、正しさが保証されているわけではないという点に注意したいと思います。
学術論文というのは、一般に論文誌に投稿され、数名の査読者によって内容が十分に精査されてから論文誌として出版されます。この過程によって、内容の正しさが一定程度保証されるわけですね。もちろん、査読をクリアしたからといって証明が正しいと保証されているわけではなく、出版後もさまざまな研究者によって検証されていくわけです。
今回のものは、論文誌に投稿前(あるいは査読中)の原稿を事前公表する「プレプリント」と呼ばれるものであり、まだ査読が入っていない原稿です。したがって、(著者が万全のチェックをした上で出していることは仮定してよいとは思いますが)十分に正しさが保証されたものとはいえません。内容の正しさは、あくまで読者自身が確認することが前提というわけですね。
そのため、まだプレプリントの段階の内容を紹介する際には、その点を十分に配慮する必要があると考えています。この記事をご覧になった方で、この件について発信される場合は、上記の点について十分配慮願えると幸いです。
注意2:
著者のtsujimotterは、該当分野の研究者ではありません。あくまで、ただの一数学ファンが勉強して書いたというものですので、専門的な観点からここで書かれた内容の真偽を保証するものではありません。その点はあらかじめご了承ください。
また、間違っている点の指摘は、私自身の勉強にもなりますので歓迎します。
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