tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

「インテジャーズ イン 仮面ライダービルド」関連記事紹介(tsujimotter編)

10/6に開催されたMathpower2018というイベントにおいて「インテジャーズ イン 仮面ライダービルド」という対談企画が開催されました。tsujimotterは、数のエンターテイナーの関真一朗さん(id:integers)と共演し、1時間半の講演をしてきました。

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写真提供:@ONEWAN さん

Twitterまとめ:Mathpower2018 - Togetter
イベントホームページ:MATH POWER
感想ブログなど:
MATH POWER 2018に参加してきました。 #Mathpower - 7931のあたまんなか
MATH POWER 2018 開催報告レポート ~1日目~ - マスログ


MathpowerのHPに記載された企画趣旨は以下のものです。

2017年9月〜2018年8月に放送された「仮面ライダービルド」には、毎回話数の数にまつわるさまざまな数式が登場しました。この番組の物理学アドバイザーをされている白石直人先生のHPから見ることができる、それらの数にまつわる数式を中心に、さまざまな数(インテジャーズ)に関する数学的話題を、「数のエンターテイナー」で数学者の関真一朗さんと日曜数学者の辻順平さんにお話しいただきます。
普段何気なく接している数の背後にある豊かな数学の世界に触れてください!

対談の経緯ですが、仮面ライダービルドの数式の参考記事として、たびたびINTEGERSやtsujimotterのノートブック(このブログ)の記事が挙げられていたという事情もあり、それぞれのブログの投稿者である関さんと私の2人に声が掛かりました。

様子は、ニコニコ生放送のタイムシフトでも見ることができます。ぜひご覧になってください。(以下のURLは「インテジャーズ イン 仮面ライダービルド」の開始時のURLです)
live2.nicovideo.jp

今回の講演では時間の都合から、数の性質についてはあくまで概要程度のお話にとどめていて、詳しくはブログをみてくださいというスタンスにしました。とはいえ数が多いので、該当のブログ記事を探すのは少し大変かもしれません。

そこで今日のブログ記事では、上記で紹介された3話から49話までの47個のうちtsujimotterが担当した分について、関連するブログ記事のリンクを紹介したいと思います。関さんの担当分については、たぶんINTEGERSにて紹介されると思うので、(今のところは)こちらの記事には載せていません。

講演を聞いて興味を持った内容がありましたら、この記事のリンクを辿ってより詳しい解説を楽しんでもらえたらと思います。なお、3〜49話までのすべての数式については、白石さんのウェブサイトに載っています。

第5話

ガロア理論によって示される「五次以下の代数方程式に(代数的な)解の公式が存在しない」という事実に関係する数式です。

 \displaystyle \min \{ n \in \mathbb{N} \mid S_n \not\in\{ \text{solvable group} \} \} = 5

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第8話

「ブラハマグプタの恒等式」を一般化することに関する「Hurwitzの定理」について。

 \displaystyle \max \left\{ n\in \mathbb{Z} \; \middle|\; \begin{matrix} \exists z_k\colon \text{bilinear}/\mathbb{R} \text{ of } \{x_i\}, \{y_j\}, \\ \sum_{i=1}^{n}x_i^2 \sum_{j=1}^{n}y_j^2 = \sum_{k=1}^n z_k^2 \end{matrix} \right\}  = 8

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第9話

「カタラン予想」についての数式です。

 \displaystyle \begin{align} &x^m - y^n = 1 \;\; (x, y, m, n\in \mathbb{N}, m>1, n>1)
&\Longleftrightarrow \; x^m = 9, \; y^n = 8 \end{align}

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第10話

こんな感じの数式が成り立つそうです。「バーゼル問題」に似ていますね。

 \displaystyle \sum_{n = 1}^{\infty}\frac{1}{n^3(n+1)^3} + \pi^2 = 10

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第17話

正十七角形の作図可能性とフェルマー素数の関連について紹介しました。

 \displaystyle F_2 = 2^{2^2} + 1 = 17

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第18話

「有限単純群の分類定理」における有限単純群の族が18個であるという数式です。

 \displaystyle \# \{ \text{family of finite simple group} \} = 18

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第24話

「キャノンボール問題」の非自明な整数解が  (24, 70) のみであるということを述べた数式です。講演では、白石さんに教えていただいた「キャノンボール問題がリーチ格子の構成に関係がある」という驚きの内容について話しました。

 \displaystyle \begin{align} N, M \in \mathbb{N}\setminus\{1\}, \; \sum_{n = 1}^{N} n^2 = M^2 \\
\Longleftrightarrow N = 24, \; M = 70 \end{align}

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第37話

「最小の非正則素数が37」という数式です。フェルマーの最終定理と非正則素数の関係について紹介しました。今回の講演における私の隠れたテーマがこの「非正則素数」だったのですが、これについては後で述べます。

 \displaystyle \min \{\text{irregular primes}\} = 37

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第38話

「魔六角陣」の左斜め・右斜め・横の和がそれぞれ 38 になるという数式です。

 \displaystyle M_{\text{MagicHexagon}} = 38

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第39話

 4\pi^2 の整数部分が  39 で、小数部分が無限級数の形でかけるという数式です。

 \displaystyle 4\pi^2 - \sum_{n=1}^{\infty} \frac{16}{n^2(n+1)^2 (n+2)^2} = 39

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ちなみに、 39 は「おもしろくないという性質を持つ最小の数」という不名誉な特徴で語られることがあります:

第40話

 D = 77 の「ペル方程式」の最小解が y = 40であるという数式です。ペル方程式には、「連分数」を使った解法があって面白いです(いつか解説したい)

 \displaystyle \min \left\{\; y \in \mathbb{N}\;\; \middle|\; \begin{matrix} \exists x \in \mathbb{Z}, \\ x^2 - 77y^2 = 1 \end{matrix} \; \right\} = 40

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第41話

「オイラーの素数生成多項式」についての数式で、背景には「ヘーグナー数」が関わっています。私のお気に入りのトピックです。

 \displaystyle \max \left\{\; q \in \mathbb{N}\;\; \middle|\; \begin{matrix} 0 \leq \forall n \leq q - 2, \\ n^2 + n + q \in \mathbb{P} \end{matrix} \; \right\} = 41

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第42話

 n = 10 の「分割数」が42であるという数式です。

 \displaystyle p(10) = 42

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第43話

 e^{\pi \sqrt{d}} d が「ヘーグナー数」のとき「ほとんど整数」になるという事実に関連した数式です(今回は  d = 43 としています)。これもヘーグナー数の性質が関連していて、私のお気に入りのテーマです。

 \displaystyle \left(\frac{1}{\pi} \ln 884736744\right)^2 \approx 43

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第47話

「マチン型公式(Machin-type formula)」に関する数式です。「カタラン予想」との関係についても触れました。

 \displaystyle \arctan\left(\frac{1}{73}\right) + \arctan\left(\frac{1}{132}\right) = \arctan\left(\frac{1}{x}\right) \; \Longleftrightarrow \; x = 47

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最後に特別に 691 の話

講演の最後には、49話の中では語ることができなかった数について、それぞれお気に入りの数を1つずつ紹介することにしました。tsujimotterは、大好きな数である「691」についてお話しました。

691という数は「ゼータ関数の値の分子に現れる」という性質を持った「非正則素数」の仲間です。イデアル類群を割り切る素数が、なんとゼータ関数の値の分子に現れる素数にもなっているという事実は、驚嘆に値するものだと思います。クンマーが発見したこのような事実は、私が勉強している「岩澤理論」にもつながっていきます。

特に691は  \zeta(12)/\pi^{12} の分子に現れる数であり、比較的最初の方のゼータの値に現れます。最初の5つ  \zeta(2)/\pi^{2}, \zeta(4)/\pi^{4}, \zeta(6)/\pi^{6}, \zeta(8)/\pi^{8}, \zeta(10)/\pi^{10} の分子は規則的ですが(すべて分子は 1 をとる)、 \zeta(12)/\pi^{12} で突如としてその規則が崩れるのです。こうした事実の観察を通して人類は真実に到達することになったわけですが、もしゼータ関数の1000番目でも10000番目にも素数が現れてくれなかったら、誰がゼータ関数の分子を調べよう思ったでしょうか。

以上のような背景があって私は「691よ、そこにいてくれてありがとう」と思うようになったのですが、今回の講演ではこのことについて熱く語らせていただきました。

参考記事:

おわりに

今回の講演は、単に数の性質を並べるだけでなく、その裏にある深い数学の背景を伝えたいと思って臨みました。
691や24, 41, 43の性質で述べたように、高度な数学の理論の一端が、ある特定の数の性質として現れてくることがあります。私には数がまるで「人間さん、こんなすごい数学があるんです。発見してください。」と語りかけてくれているように思います。こういった数の振る舞いがとても面白くて、私は数の性質を追いかけるのが好きなんだと思います。

「数の性質が好きだ」と公言していると、しばしば「1個1個の数の性質を覚えて何が楽しいの?」というような疑問を尋ねられます。この疑問に対する私なりの回答が上のようなものです。伝わるといいなと思っていましたが、Twitterなどの反応を見ていると、その試みはうまくいったのではないかと思います。


最後になりましたが、Mathpowerという素晴らしい場所で講演の機会をいただけたことに感謝したいと思います。講演のコーディネートをしてくださった中澤さん、そして一緒に講演をしてくださった関さん、本当にありがとうございます。打ち合わせの段階から「こんなに楽しい時を過ごせてしまっていいんだろうか」と思うくらいで、企画の成功は準備段階から確信していました。関さんと一緒に企画を作ることができて本当によかったです。

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また、本講演のために勉強している過程で、たくさん面白い数の性質を知ることができました。準備のために情報収集するたびに面白いものを発見して、そしてそれをブログに書きたくなる衝動が発生してしまって大変でした。Mathpowerも終わったので、これらの話についてはブログでどんどん発信していこうと思います。

それでは今日はこの辺で。